第52話 醒めない夢
52.
~果歩が消えた日から 3
渡っていたのにいきなり踵を返した私が全面的に悪いはずだ。
彼は私がそのまま走り抜けるのを見ながら右折しようとしていた。
右折車のことなんて何も見ていなかった。
頭にあったのは置き去りにした娘のことだけだった。
翌日警察が取り調べに来た時、そのように本当のことを話した。
男性は無罪放免になり、ほっとしたようで私に礼を言ってきた。
私は、わたしのほうこそご迷惑をおかけしてすみませんでしたと謝った。
その彼の名は溝口啓太という。
記憶喪失ということで警察がいろいろと私の身元を
調べたようだがわからなかったようだ。
私は自宅の最寄の病院からは搬入を許可されず
3院たらいまわしにされ、自宅区内よりかなり離れた病院に
入院していた。
このことが幸いしたのかもしれない。
私の記憶喪失は疑われることなく周りに受け入れられた。
どうしても……どうにもならなくなったら記憶が戻ったことにして
自宅に帰るつもりだ。
記憶のない私たち親子をどうするか病院と警察が話し合って
なんとかしようと頑張っていた。
えっ、嘘でしょ?
私の身元って私が記憶を失くしたら調べてもわからないもんなの?
こうなったらえーいっ、ままよっ。
いけるところまでいってみよう!
私はそう思った。
周りの人たちの心配をよそに、私は記憶が戻らないという風に装い続けた。
数日後、病院、役所や警察が連携して再度調べるということになったと
その話を耳にした時、困ったことになったなぁ~と思った。
警察だって忙しいだろうに徹底的に私の身元を調べるの?
いくらなんでも人手を増やして徹底的に捜査されるとまずい。
身元がバレるのも時間の問題だなぁと思い焦った
私は、その日も私たち親子を気にかけて病院に見舞ってくれていた
溝口さんに本当の気持ちと自分の状況を話してしまおうかと思うほどで、
とても切羽詰っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます