第51話 醒めない夢

51.

~果歩が消えた日から 2



 そして私のあの事故。


 救急車を呼んでくれたのも彼女だった。

 名を浅田美世子さんと言う。


 救急車に娘を連れて私と一緒に乗って病院まで

付き添ってくれたのだとか。


 その一連の話を聞いて涙が零れた。




「本当になんて言ったらいいのか。

 私たちのことを……娘のことをずっと見守って

くださってありがとうございました。

 

 車に当たって宙に浮いた瞬間、実はあなたと娘が

見えてました。


 その時に娘を置いたまま死んでしまったら、もしくは

私だけが病院に運ばれて娘がひとり放置されてしまったら

とか考えました。



 なのに、目覚めたら娘がちゃんと側にいて……

本当にほんとに……ありがとうございました」




「小さな子が親とはぐれることほど怖いことは

ありませんから。

 私も子供の母親なので、ご心配だった気持ちは

よぉく分かります」

 

 ご主人には電話で連絡してあるということだったが

時間も時間、もうすぐ日が変わろうとしていたので

彼女は帰って行った。



 娘は看護師さんが見てくれている。



 私は医師から記憶のことを聞かれた。

 私はとっさに嘘をついていた。


 はねられる直前の光景は覚えているので娘のことは

分かるが自分がどこの誰かは今思い出せないと答えた。


 時間が経てばおいおい思い出すかもしれませんから

あまりくよくよしないで、ひとまず安静にしましょう

と言ってもらえた。


 私はどこまで自分の嘘が通用するか分からないけれど

当分記憶をなくしたことにしておこうと決めた。


 家に帰りたくなかったから。



 夫の顔を見たくなかった……できれば未来永劫に。



 私を轢いてしまった男性ひとは警察の取調べを終えて

私のところへ来て見舞ってくれた。

 


 申し訳ないと謝られた……のだけれど、きっと……ううん

絶対この男性ひとは悪くないはず。

 

 この人に過失はないと思う。


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