第49話 醒めない夢

49.

~深山康文と果歩の結婚生活  (46)



 気がつくともう夕暮れ時になっていて、母のところで

いい子にして私を待っている娘のことに思いを馳せた。



 迎えに行かなくちゃ。

 夜風に当たったら気持ちも少しは落ち着くかも

しれない。

 そんな私に娘のお迎えはちょうどいい気分転換に

なりそうだ。




 迎えに行くと娘はうれしそうに私の側まで駆けて来た。



 「おかあしゃん、ばぁばンにコレ買ってもらった♡♡」


 そう言って可愛いくまのプーさんを見せてきた。




 「お母さん、ありがと」




 「こんなに喜んで貰えて私のほうがお礼

言いたいくらいよっ♡♡」




 「ン、いつも碧のことありがと

 じゃっ、また。帰るわ」




 母の家を後にして、私は碧をバギーに乗せて

帳の降りそうな空気の中を、歩いた。



 風が冷たくて気持ち良かった。

 遊び疲れたのか碧は寝てしまった。



 気がつくと私はとぼとぼと歩を進め

近所の我が家の店とは違うコンビニに来ていた。


 私は娘を迎えに家を出る時、当座のお金や通帳他にも

家を出た場合に必要なものを鞄に入れていた。

 


 夫が仲間と浮気していることを知った頃から

まさかに備えて家を出るとなった時には必要なものを

いつでも持ち出せるよう、ひとつの袋にまとめていたのだ。


 そんなだったから店に入ってからも、どうしようか

どうしようかと、呪文のように心の中で知らず知らず

のうちに呟いていた。



 あまりに悲しくて理不尽なことをされる自分にも嫌気が

さし、このまま家に帰らなくて済む方法はないだろうかなんて

思い浮かべていた。


 

 コンビニで娘にりんごジュースとプリンを、自分にも水分をと

お茶を買ってレジに並んだ。


 3番目だった。



 私はぼーっと立ってたみたいで、どうぞ次の方という店員の

声で我に返った。


 娘はバギーの中で寝ていた。


 


 レジを通って店の外に出た。

 もうそこまで春が来そうな季節なのに夜風が冷たかった。


 私は目の前の信号が青になったのを見ると

何故か急いで渡らないとと思ってしまい、小走りにコンビニの

敷地を走り横断歩道に出た。





 歩き始めてすぐに何かが足りない、と思った。





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