第27話 醒めない夢

27.

~深山康文と果歩の結婚生活  (24)




 大沢氏にはもうひとつ強みがあった。


 奥さん、ご両親、実妹に弟そして本人とじつに

6人の人手が身内で成立していたのだ。



 比べて我が家は?

 夫ひとりだ。

 義両親は?


 自分達の安定した生活があって、多くの財産も所有している

アラフィフとアラ還のおふたりが、とても今更接客業や力仕事を

するとは思えないのよね。


 例えそれが息子の為であろうと。


 それに夫のほうでも煙たい義父親に手伝ってほしいと

お願いするとも思えない。



 夫と義両親との間にはとても家族経営をしていくような

雰囲気が、どう考えてみても……ない。

 Nothingだ。


 私はというと乳飲み子を抱えてるし、いずれ自分の職場に

復帰する身。


 ……とすると、誰か人手を確保しないといけなくなるのは

自明の理だ。


 経営を考える時、人件費が最大のネック&リスクと言っても

過言ではないような気がする。


 もうこの時点で成功した大沢さんとは大きく違っているのだ。



 持てる資本の投入と持てる人材の確保があっての船出の大沢氏。



 初期費用を人の懐を当てにして、その上人材はゼロの夫。


-

 夫は知らないと思うが、この人材がその辺の他人と

身内とでは大きく違ってくる。


 大学時代にコンビニでバイトしていた男友だちがいて

その時は全く人事でへぇ~、なんか恐ろしい職場なんだぁ~

なんて流して聞いてたけど、今回夫がコンビニ経営に乗り出すとなって

改めて心配になっている。



 昨今は、とにかく人手がなくてバイト学生が店のレジのお金を

ちょろまかしたり品物を盗ったりしているのをオーナーが

防犯カメラを調べて分かっていてもクビにできないなんていう

信じられないような時代に突入しているのだ。


 知っていて見て見ぬ振り……そんな暴挙がまかり通るなんて

ここはホントに日本ですか? と聞きたくなるような話である。


 すくなくとも、常時身内がひとりはいるなら、リスクは

大きく回避されるのではないだろうか。


 こういったリスクを頭が沸騰している今の夫に言っても

無駄だろう。



 なんだかんだと自分の計画に反対する為の言い草だと

逆ギレされるのがオチだと思う。




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