第8話 醒めない夢 From

8.

~深山康文と果歩の結婚生活 ⑤ ~


  

 夫の暮らすコンドミニアムと呼ばれている部屋の内装や

家具はかなりグレードの高いものに見える。


 洗練されている中にも東南アジアを感じさせる応接間と

いったところだろうか。


 全体的には茶系でまとめられている。

 ウッディなローテーブルは真ん中がガラス張りになっていて

3脚ある椅子は背中部分から扇形に手を置けるところまで

繋げられており、重厚な作りになっている。


 しかも、片側には少し離して別色で革張りオフホワイトの

3人掛けほどの椅子があるのだ。


 すぐ後ろの壁の色が・・・明るめの緑とは、ちょっと

引いた。どこかのタワーが描かれている絵まで掛けられている。


 驚いた。

 こんなりっぱな応接間セット、どんな客があると

いうのだろう。

 寝に帰るだけの住宅ではないのか? なんていう思いが沸いた。


 ともあれ、応接間はそれなりに調和のとれた美しい

部屋だった。

 会社の借り上げ物件なので、たまたま良い部屋が

当たったのかもしれない。



 そしてひとたびプライベートルームに目を向けると・・

 夫の部屋の至る所に、その証拠と思われる残骸が

残されていた。


 風呂場の蓋を取って排水溝を覗いたら、長い髪の毛が

何本も。


 昨夜かその前か直近で風呂だかシャワーだか使って

シャンプーしたであろう女の髪の毛がわんさか。


 その残骸が残っていた。

 だらしない女性なのだろう。



 自分の洗い終えた後の、シャンプーして頭部から抜けた

残骸の処理もしないでいられるのだから。


 自分の家じゃないんだよ?



 恋人きどりだか愛人きどりだか知らないけどさぁ

 他所様(よそさま)の家だろうに。



 髪の毛を見つけた後、洗面台の下を開けて、見た。

 夫が無造作に隠したであろう、女の歯ブラシとコップと

ブラシがあった。



 そして生理用品とスキンまであったさ。



 どういうこと? 

 まっくぅ、頭キタ。



 夫が会社に行っててよかったよ。

 いたら、ぜったい過呼吸起こしながら絶叫してたわィ。

 

 

 私は画像に撮った。

 いろいろと証拠にできそうなものは画像に撮った。



 今は頭が沸騰して、上手く働かない。

 なので、こちらにいる間にできることを・・と動いた。



 来なくていいと言う夫の言葉に感じた違和感。

 不安に思っていたことは現実のものとなって

私の前に現れた。



 ある、とある芸人が綺麗な女優と結婚していたことが

あった。

 東京と大阪・・別々に暮らしていてそんな中、妻の女優が

今度そっちにしばらく行こうかな、と連絡したら来なくていい

と、そのとある芸人は答えたという。




 フタを開けてみたら、はいぃ~ とある芸人、別腹の女

いましたぁ~っていうのを週刊誌で読んだことがあった。



 私・・今 その女優さんと同じじゃない。はははははっ。

 いやっ、比べたら申し訳ないよね、私全然美人じゃ

ないし。



 私の滞在中、夫は仕事で日中居なかった為

なんとか動揺を隠せたと思う。



 わたしが帰る日、夫がほっとしているのが判って更に

落ち込んだけどね。


 いわずもがな・・だけど、勿論3日間いて夫は私を求めては

来なかった。


 ホントによく判る・・判り易い男だね、あなた。





 帰りの飛行機の中、夫にもう少しで会えるのだと嬉しさで

目を輝かせて外の景色に見入っていた数日前の私はどこにも

いなかった。


 静かに目を伏せ、シートに座っている私がいただけだ。



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