第7話 醒めない夢
7.☑
~深山康文と果歩の結婚生活 ④ ~
夫の赴任先は東南アジア。
降り立ったのは近代的としか形容のしようのない
クアラルンプール国際空港。
すごい空港の造りや雰囲気にも驚かされたけれど
市内を走るタクシーから眺める景色にも驚きを隠せなかった。
まさか自分の暮らす街よりも洗練されていて遥かに近代的で
都会的だなんて、私の想像していた東南アジアという固定概念が
大きく崩れさった瞬間だった。
ただ、どこの国でもありがちな田舎街のイメージが大き過ぎた
だけのことなんだろう。
そりゃあ国際空港と名が付くのだからこんなものよと
思い直したのだった。
近代的な大都会と熱帯の大自然が融合する
マレーシア・クアラルンプール。
この街だってちょっと高層ビル群を離れると私の脳内に
存在するイメージの街並みである何かしら裏町的で庶民的なお店や
古い家々が立ち並ぶ光景が見られるんじゃないかしら。
空港から駅員に聞いてチケットを買い、エアトレインに乗って
入国審査の場所に。
待つこと20分、それからKLセントラル駅までの往復チケットを
買い、乗車すること30分。
駅からは流石に公共の乗り物は止めて夫の暮らす家までは
タクシーを使うことにした。
30分ほどで夫の住むコンドミニアムとかいう住居に
ようよう着いた。
朝一の便で飛んで来て、15時30分ちょい過ぎを時計の針が
指している。
はぁ、家を目の前にして急に緊張の糸が切れたのか、
どっと疲れを感じた。
なんか、想像していた住居ではなかった。
私はなんとなく小ぶりの小さな一軒家か二階建てで長屋風に
なってるテラスハウスのようなものを想像していたのだ。
だが日本でいうところの高層マンションだった。
周りも軒並み高層ビルだらけだ。
◇ ◇ ◇ ◇
突然の来訪に、夫は全身で驚いた。
こちらがビビるほどに。
そして私にしてみればどうして? と思うようなゆがんだ
笑顔での出迎えだった。
それは必死で普通を繕おうとしているのだけれど、心を……
どうしても平常心に戻すことが出来ず困惑している様を
隠しきれていない人の表情だった。
だから、またひやりとした正体のしれないモノが
私の胸の中を襲った。
--
メールで感じたものがここにもあったのだ。
一体その正体はなんなのか?
「驚いたよぉ~。来るなら来るで知らせて? 心臓に悪いだろ? 」
「うん、そだね。
でも……アレ……突然来れたら困ることでもあった? 」
「なんだよ、困ることって。
なんか久し振りに会うのに絡むねぇ~。
まっ、座って……何か飲む?
アイスコーヒーでも入れようか? 」
「うん、お願い」
「あおは元気かい? 」
「とっても。
可愛くなったわよ。
あなたに今の
ほんとに……残念。
あなたが碧に会う頃には、もう碧が1才4ヶ月になって
るんだもんね。
あなたの知ってる碧は生後2ヶ月の姿と1才4ヶ月の姿。
折角娘を授かったのに何だか勿体無い気がして……」
「そうだな、でもしようがないよ」
随分あっさりしてるンだね、
周りに比較できる人があまり居ないのでよく分からないけど。
大学の同級性で子供のいる友達がひとりいて、時々
情報交換みたいなのしつつ、お互いまだまだ周りには
子持ちの友人が少なくて、たまの情報交換と言う名の下での
電話でストレス発散してるんだけど、彼女の話から旦那さんは
娘ちゃんにメロメロのようだ。
彼女が焼餅やくほどにね。
なのに……うちは、しようがないよ、で終了。
アハン!
まいったなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇
夫が仕事で留守の間に合鍵を作っておいた。
夫には、再度娘と一緒にこちらでできるだけ一緒に
過ごしたいと提案したけれど、やんわり却下された。
やんわりとではあったけれど、それはそれは岩のような
固い意志でもって。
それはそうだよね、夫には現地妻がいたのだもの。
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