第2話 醒めない夢
2.☑
私の父親は相変わらずで、家の中では言いたい放題していて
年を重ねても丸くはならず、母はいつも窮屈そうにしている。
私には3つ離れた弟がいる。
何故か、いや根っ子には男尊女卑の考えが根強くあるのかも
しれなくて、とにかく私は父親からいつも厳しくて情け容赦ない
言葉を毎日毎日浴びせかけられてきた。
そして不思議なことに同じようなことを言ったりしても
弟が嫌味を言われたりすることは皆無なのだ。
毎日がそんなだったから、だんだん父親を自然と避けるように
なった。
ある日も父親が帰って来た気配で、私はこそこそと
自分の部屋に逃げ込んだ。
玄関に入ってきてちょうどその様子を見られてしまった
ようで父親が母親に
『なんだあいつは、ゴキブリのように
こそこそと』
と発言したのが聞こえてきた。
その言葉に私は絶望し、死にたくなった。
◇ ◇ ◇ ◇
私はあなたの娘になんて産まれてきたくはなかった。
勝手に産んだのは…子作りしたのは…あんただろう。
なのにこの仕打ち、あんまりじゃあないか。
わたしは慟哭した。
すると母親の泣き叫ぶような声が聞こえてきた。
「何言ってんのよ!
そんなふうにさせてるのは一体どこの誰なの!
果歩も祐一郎もふたりとも私たちの子供なのよ。
なんでいつもいつも果歩にはきついことばかり言うのよ。
同じにしてください。同じ扱いにしてください。
自分の娘のことをゴキブリだなんて、あんまりだわ」
◇ ◇ ◇ ◇
2-2☑
私は母の放った言葉にも悲しかった。
私が弟と父親から差別を受けていることを表だって
つまびらかにされてしまったから。
ここまでつまびらかにされてしまったら、もはや自分で
今まで必死で『自分の気のせい』と目を背けていた現実を
見ないわけにはいかなくなったじゃないか。
涙が零れた。
泣いていたら父親の反撃の言葉が聞こえてきた。
いつもは黙って引き下がるだけの母親が今夜は一歩も
引かなかったことから、父親の言い方には少しキョドッてる
ような節が見受けられた。
母の正論に向かう正当な…全うな言葉などあろうはずも
なく、父親が口にできたのはくだらない陳腐な…だがもっとも
夫婦にとって卑怯な言葉だった。
「じゃあ、離婚するか!」
この呪文で私の母親の口を封じ込めたのだ。
この時高校生だったわたしは
自分で自分を支えることのできる仕事を得るのだと決心した。
その日を堺に私の心にも母の心にもひとつの大きな杭が
大きく深く打ち込まれのだと思う。
私と母にできる唯一のこと、それは
決して父親に自分達の大切な心…
大事な気持ち…
それらを向けることは一切しない、ということだった。
それは心からのやさしさであったり…気遣いであったり…
言ってみれば、真心というヤツだ。
目には見えないものだけど、とても大事なものだ。
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