11 当日

 早朝からでは間に合わない未明より、おれがくぬぎの着替えを手伝う。それが終わり、アクセサリーを付け、くぬぎの準備が整う。おれの方はヨレヨレのジーンズにTシャツという日頃の格好。くぬぎを背中に負ぶり、二人の部屋を出る。鍵を閉め、エレベーターに乗り、一階へ。エントランスを抜け、前日に借りたレンタカーを停めたパーキングへ向かう。程無くパーキングに到着し、まず助手席側のドアを開け、くぬぎを座らせ、シートベルトを締めるのを手伝う。ついで運転席にまわり、エンジンをかける。

 女たち三人が待っているはずのN駅まで五分もかからない。やがて祥子と香織さんと睦美の顔がはっきりと見える、そんなところまでレンタカーが近づく。

 祥子は自分より背の高い香織さんを見上げつつ、幾分不機嫌そうに顔を睨みつけている。そんな祥子を困ったように見つめ返す香織さん。睦美は単に眠くてぼおっとしているようだ。

 最初にレンタカーに気づいた香織さんが大きく手を振り、自分たちの存在を示す。ついで祥子がくぬぎを確認し、会釈を浮かべ、ついで事実を知り。表情を強張らせる。と思うと目に涙を浮かべ、泣き始める。香織さんはまだくぬぎのことに気づいていない。一人睦美だけがそのことを知っていたように、おれとくぬぎ双方に、にこやかな笑みを向ける。(了)

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五人で写ったスナップ写真 り(PN) @ritsune_hayasuki

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