10 ドライブ計画
季節が巡り春になったとき、くぬぎがおれに提案をする。いつも二人きりではつまらないので次にドライブに行くときには誰か他の人たちと一緒に行きたいと言いだしたのだ。提案自体は構わないが、おれには思い当たる人物がいない。咄嗟に頭に浮かんだのが香織さんだったのは、あのときの言葉がふと甦ったからだろうか。
香織さんがアリなら祥子や睦美も当然アリという気がして来る。が、実際、どう話を切り出したら良いのかわからない。それで香織さんのところに相談に行く。
「えっ、キミの正式な彼女とドライブ。それって普通にヤバいんじゃない。絶対バレるよ」
おれがいくら、くぬぎはおれの浮気を微塵も疑っていないと説明しても香織さんは信じない。
「それにさ、わたしが――ナンバー2なのか3なのか知らないけど――愛人だって確認しに行くようなものじゃない。ちょっと、ぞっとしないわよ」
だから他の女性たちも呼ぶと説明したら、
「だって、それって、どうせ皆キミの彼女たちでしょ。殺傷沙汰が起こるぞ。止した方がいいよ。その計画」
さすがの香織さんも腰が退けてしまったようだ。それで次に祥子に相談すると、
「ええーっ、もちろん顔は見てみたいんだけど、ちょっとね」
日頃からおれの正式彼女に興味を持っているはずの祥子だが、本当にそれが実現するとなると二の足を踏むらしい。
「やっぱりあたし自信ないわ。ゴメン」
そう答え、祥子はおれの提案から逃げる。
最後に――ちょっと面倒臭くなるかもしれないなと予想しつつ――、おれが睦美に相談を持ちかける。行き擦りを含めれば他に何人も女はいるが、説明が面倒なので彼女たちには今回の件に遠慮を願う。それはともかく睦美にドライブの件を告げると、
「うん、別に構わないけど、何時」
予想に反し、あっさりと提案を受け入れる。日付はまだ決まっていないから、
「決まったら連絡するよ」
と答え、話をもう一度香織さんのところに持って行く。
「えっ、そーなの。その娘(こ)、勇気あるわね」
首を捻りながらも最後には、
「うん、わかったわ。行くよ」
女っぷり良く、くぬぎの提案(おれの懇願)を受け入れる。
「そうだよなぁ。モノカキは度胸がなきゃダメだよなあ」
一旦は提案を受け入れたものの、腹にストンと落ちたのではないようで、香織さんはおれが去るまでブツブツと呟き続ける。
最後に祥子のところに話を持っていくと、
「ええーっ、あたしだけ逃げるのはヤダ」
前の二人とはまったく違う視点からドライブへの参加を受け入れる。
「全部で何人」
と問うので、
「おれを入れて五人」
と答える。
「じゃ、戦うのは二人ね」
くぬぎ以外の参加者に対する敵愾心を露にする。
「でも一人は仲谷さんだよ」
と説明すると、
「あっ、そうなんだ。じゃ、敵はひとりね。あたしの堪だと頭のいいオバさん」
ビックリするような鋭い女の勘でおれをビビらせる。
さすがに木曜の休日では全員の動きが合わないので初めての有給休暇を日曜日に貰う。ドライブの行き先をああでもないこうでもないと思案し、最終的に二ヶ所に絞り込む。芦ノ湖周りに富士山を眺める箱根と『喜びも悲しみも幾年月』の灯台が立つ三浦海岸だ。そんな折、以前香織さんが九十九里浜に行きたがっていたことを思い出し、それもいいな、と年の功を理由に行き先を決める。実際に目指すのは九十九里町の真亀海岸。狂った千恵子がかつて歩いた場所だ(それで香織さんが行きたがった)。いくら海ほたる/アクアラインがあり日帰りできるといっても、目的地が遠いので集合時間が朝五時半になる。祥子と香織さんそれぞれの家から近いN駅前のターミナルに全員来てもらうことする。よって時間的に無理な睦美が前日、祥子のアパートに泊まる。
「子供のお泊り会みたいでワクワクするわ」
祥子のアパートへの宿泊が決まると睦美がまるで子供みたいに目を輝かせる。
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