Number:4



「……つ、連れてってくれるの?」



まぁ、蝉が完全体な蝉に変身する前に殻の中で死ぬような死に方はさせたくないしな。

何よりも少女は三千年もこの閉ざされた場所で生きてきているんだ。

そんなの、俺だったら耐えられないというか、むしろこの少女がどんな気持ちで生きてきたのかを考えるのだけで胸が痛い。

それに、ずっと俺を待っていたわけだ、こっちだって土産の一つや二つ、当たり前だろう。



「行きたければだけどな?」

「………い、いくっ」



少女は目を輝かせながら何度も頷いた。



「じゃ、とりあえず俺を現実の世界へ返してくれないか?」



俺がそういうと、少女は自分の胸元あたりを光らせ、そこからあるものを出した。



「……なんだこれ?」



そう言って少女の胸から出てくる謎の小さな黒い細長い箱を手にする。

しかし、その重さ、形からしておそらく俺はこれを知っている。

俺の大好きなものだ。間違いない。



「……で、電子タバコ。なのか?」

「……うん。このタバコ無くならないの。そして、このタバコの煙こそが覇王鬼の煙。」

「なるほどな。」



そう言って俺がその電子タバコをポケットにしまうと、目の前は真っ暗になった。

確か、現実の世界には俺の大量のタバコ、そして酒が教員たちに見つかっているんだろうな。

そう思うと少し帰るのに恐怖を感じてしまう。

なんせ、あの学校には厳しい校則、そして何よりもハートとかいうとんでもない武器もある。

処刑もありえるだろう。タダでさえ学校にいるだけで殺されるのだから。

少ししんどいな。



「………。」



色々思いながらも重い瞼を開いてみると、そこは俺の部屋だった。

正直、心のどこかでホットしていた……が、俺の部屋にいたのは俺だけではなかったのだ。



「……目が覚めたか。魅夜。」

「せ、先生。」



予想していた展開。だか、物凄く恐怖を感じる。

どこでも出せるようなハートを今出されてもおかしくはない。

そして、今殺されても………全くおかしくはない。



「私が何故ここにいるのか……理解はしているな?」

「………は、はい。」

「では行くぞ?」



嘘だろ。

先生は俺の元へ近づいてきた。間違いなく死んでしまう。

俺はそう思い咄嗟に自分のズボンの後ろポケットに手をやった。

ハートではないが……覇王鬼の力でなら倒せるかもしれない。

殺すか、殺されるか……どうする俺。

何をどうするかを考えていた汗をかいた俺。そんな俺の肩に先生は手を置いた。



「どうした、行くぞ?」

「へ……え、行くって?」

「な、理解しているんじゃないのか!?」



この状況は理解してねぇよ。

先生は呆れたような顔をして勉強机の椅子をこちら側に向けて、そこに座った。

どうやら俺は殺されずに済むようだ。

それだけでめちゃくちゃ安心した。



「まず、お前が政府からここへ送られてきたことは全教員が把握している。」

「っ!?」



いきなり話をぶっ飛ばしてきやがった。

確かに政府側だということは分かっていたが……ここに来ていきなりその話ってのは完全な予想外だ。

けど、政府側とは言っても、俺の予想が正しければこの女教師は恐らく政府側ではない。

仮に政府側だとしたら女一人ではなく仲間も連れているはずだし、先程の行動も頷けない。

つまり、マンツーマンでの話。この女、何かをしようとしてやがる。

少しばかり警戒し流れではあったものの、俺は話を聞いた。



「実は、私は十年前、お前と全く同じことをされたんだ。」

「……全く同じことって……過去に戻されて一から始めたってことっすか?」

「ふふ、喋り方も昔の私そっくりだ。その通りだ。私も不良だったよ、お前のような恐れられた一人。でも、潰され、過去に送られた。」



俺は目を丸くしながら話を聞いた。

まさか、こんな所で同じようなことをされている人が現れるとは思わなかった。

てっきり俺一人が選ばれたのかと思っていた。



「……まぁ、話の続きはとある所へ言ってしようか。」

「は、はい。」



悪い番人。デートはまた今度だ。

今はこの女が何者か、ということと今から行くところで話される話に興味がある。と言うか知らなきゃいけない気がする。

俺が過去に送られる前の拷問を受けていた時政府は裏の計画、と言っていたのを覚えている。

その裏の計画ってのも気になって仕方が無い。

でも、とりあえず今は先生の行くところへ行き、話を聞くのが最初だ───



「……ここは?」

「私たちの基地だ。私たちと言っても二人だがな。」

「ふ、二人。」



そこは街の路地裏。

小さな建物があり、その建物に入ると真っ白な壁に真っ白な天井があり、地下に続く階段がある。

恐る恐る一段一段降りていくと、そこはバーのような雰囲気の場所だった。



「ば、バーじゃないすか。」

「……いるか?髑髏。」



先生が誰かを呼ぶと、部屋の奥にあった扉からバーのマスターのような服を着た何者かが現れた。



「……はい、姉さん。」

「あ、姉さ……」

「紹介しよう、この子は髑髏 楼。」

「……み、魅夜 茜。」



男の服装をしていたが、どうやら女らしい。

まぁ、ピンクの髪に胸も出ていたらそりゃ女だって気づくけど……遠くからは完全に男だった。

どうやら先生とこの髑髏とかいう女の二人が何らかの組織のメンバーらしい。

俺と先生、そして髑髏はソファに座ると、先生と髑髏は話の続きを聞かせてくれた。



「髑髏、続きを頼む。」

「はい。まず初めに政府が貴方様を過去に送った理由は一つです。」

「ひ、一つ。」

「貴方様は選ばれた、それはつまり特別な何かが貴方様の中にはあり、三年間という時で貴方様のその何かを育成させるのです。」



俺の中の何か、それを三年育成。だから高校を選んだのか。

高校生活ってのは確かに楽しいし、高校生活を一からさせてやれば裏の計画のことは知られないと政府は見たのだろう。

だが、今こうして二人に教えて貰っている。これで俺が一歩リードしたな。



「その何か、という物ですが、私たち二人は神種と呼んでおります。なぜ神の種なのかですが、政府が貴方様の三年間を待ったら、貴方は政府に捕まり、神種の力を奪われます。」

「育成させて奪うってか。」

「はい。それで……神種力を使い政府は……地球そのものを破壊してしまうのです。」



髑髏のその一言が発言された瞬間、俺の頭は回らなくなり、真っ白になってしまった。

地球そのものを破壊って……そもそもそれだけの力が俺の中で育っているってこと自体に疑問を感じるが、そんなの多分どうだっていい。

問題なのは地球破壊ってことだ。なぜ地球を破壊するのか。

暖かい部屋で聞いていたのに体が凍るかのように寒くなってきた。



「でもまて、それならなんで先生は生きている?」

「先生は仲間を集め、政府と戦ったのです。幸か不幸か他の仲間は政府に捕まったものの、池上さんはなんとか生き残り、政府は池上さんの神種を諦め、他の神種を見つけてそのまま池上さんを無かったことにしたのです。ちなみに私は仲間の生き残りです。」



聞けば聞くほどありえない話だ。

けど、非現実的な話でも間違いない現実の話だ。

でも、先生も先生でこの話強がって聞いてるけど、内心ズタズタだよな。もちろん髑髏も。

話は色々聞いたが、最終的に俺が何をしたらいいかってのはもう分かっている。

もうこれ以上被害者を出すわけにも行かねぇし、先生にも髑髏にも苦しい思いをさせ続けるってのも許せねぇ。



「……まぁ、世はアレっすよね?」

「「アレ?」」

「俺がこの最悪のループを止めりゃいいってことだろ?」



そう、話は簡単だ。

俺がこの最悪のループを止めればいい。

政府が地球破壊して何思ってるかは分からないが、理由がなんであれ、何億人もの人を殺すのは間違っている訳だ。

だったら今の政府を生かしておくわけにはいかない。

それならやることは一つ。政府を破壊する。

そして、誰がやるかってのは明白で、俺がやる。てか俺にしかできない。



「舐めやがって、ぶっ殺してやる。」

「お、オイオイ。」

「……池上さんとは別の眼ですね。」

「やってくれると信じるか。」

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Egoist №4 @AA1113

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