Number:3



俺の意識が完全に途切れ、何秒、何分、何時間、何日たったかは分からない。

けど、俺は灰色の霧に満ちた謎の世界で目を覚ました。

どこを歩いても真っ白な床に真っ白な空、壁はなくいくら歩いても同じ景色だ。

なぜ俺がここにいるかはわからないが、間違いなく地球ではない。

無音だし匂いも特にしない。しかもココには俺以外の誰もいない。

俺はただ、あちら側の世界で意識を失っただけ、ここが死後の世界だと言うのなら別だが……あれで俺は死んだのだろうか…?

いったい俺はなぜここに連れてこられてしまったのか、そう思った矢先だった。



「…………やっと来た。」

「あ?」



俺は背後から聞こえた声の主に威圧をかけながら振り返る。

しかし、そこには小さな少女だけが立っていた。



「……怖いのね。」

「……誰だあんた」



長い銀髪ロングに吸い込まれそうなくらいの水色のキラキラ輝いていた瞳。白い肌に小柄。そして貧乳。中学生くらいだろうか?

俺は様子を見ながら少女の元へと近づいた。

冷静に考えてみればこの世界に俺以外のものがいるということは普通ではない。つまり、この女は一般人ではない。

言ってしまえば幽霊か何か。

だが、幽霊だとしても驚く必要は無い。むしろ、ここにいる理由となぜ俺をここへ連れてきたかを聞くのが先。



「お前さっき俺の名前を呼んだってことは俺のことは知ってるんだな?」

「……うん。」



少女は小さく頷いた。

そして次にここへ連れてきた理由を教えてくれた。まるで俺の考えていることが分かったかのように。



「……ここは私が瞬時に作り出した世界……ただ単にちょっとしたようで呼んだだけだから。こんな世界でごめんなさい。」



大人しげに喋る少女は人差し指をちょんと上に動かすと、ぶわんと煙が小さく爆発し、その煙の中から変なものが出てきた。



「構わんが……あれはなんだ?」

「……覇王の墓」

「は、覇王の……墓って……」

「……鬼の覇王。覇王鬼って言ったかな。」



俺達の目の前に現れた古びた石造りの墓は少女曰く、鬼の覇王のお墓らしい。

ここで出現したのにもきっと意味があるのだとは思うのだが、なぜ俺なんだかは分からない。



「……覇王の墓を出してどうするつもりだ?」

「………契約をしてほしいの。」

「契約?」



少女は上目遣いで俺を見てお願いをしてきた。

契約となると俺は未成年だしそういうのできる歳じゃないというか……この墓と契約となると尚更無理というか不思議ってか。

なんの契約だよ。

俺は契約というものに疑問を浮かべながらも墓兼祭壇に近づく。



「やっぱボロいな。」

「………五千年くらい前の。」

「ごっ……」



マジで契約ってなんの契約だよ。

五千年前の墓と契約?何が起こるってんだ。



「……今の私は覇王の力を体に秘めた……いわゆる墓の番人。」

「……ちびで貧乳のお前がか?」

「うるさい。」



しかし、この世界と言い、墓の出現方法と言い、この少女が普通でないこと、そしてここは普通の世界ではないことは頷けなくもない。

契約だって恐らく異世界チックな契約だろう。魔法使いとかになれたりするんじゃないのかと俺は思う。

問題はどんな契約なんだ。実際今の俺は全て捨てたようなものだし死なないような契約なら何だってしてもいいつもりだ。

ただ、それが俺にたいしてメリットなものかデメリットなものかによって俺は決めると思う。



「……茜、あなたに覇王鬼の力を授けたいの。いい?」



俺はいきなりの継承に対してすこし驚くも、冷静に答えた。



「嫌だ。無理、絶対。」

「………え?」



覇王鬼だか知らないが、そいつの力を継承したらどっかの世界に飛ばされて変な生物と戦わされるかもしれない。

それに、どれだけ強い力なのかもわからないし、その力に対して俺の肉体が耐えられるとも思えない。

それに………ってか、第一に危ねぇ。

五千年前の怪物っぽい名前の生物の力の継承とか……馬鹿でも断るだろ。



「………で、でも、茜じゃないとダメなの」

「俺じゃないとダメってどういう意味だ?大体、お前が一生番人してりゃいいだろ?」



俺がそう言うと、少女はプイっと背を向けながら小さく呟いた。



「三千年も番人とかやだよ。」



この女一体何歳なんだよ。

でもまて、俺には政府を倒すっていう目的があって、明日にゃ大会もある。

よくよく考えてみれば覇王鬼の力を使ったら優勝も夢じゃないかもしれない。

覇王鬼の力がなくとも優勝は出来るかもしれないが、その先を考えてみれば政府と戦う時にかなり使える。



「覇王鬼の力ってのはどんな力だ?」

「………煙、煙を創造したものに変えるの。そして力を使ってる間は神の領域の力を手に入れる。」

「……チート能力ってことか?」

「……覇王鬼以外の力もある。けど、私は覇王鬼担当なだけで………」



つまり、この女は俺に覇王鬼の力を継承させるためだけに存在しているモブであり、このような力の継承をするものは他にもいるってことだ。

んで、それって俺がこの力を継承しなければこの先今回みたいな何かしらの力を持つものが出て、そいつに倒されるってことだろ?

継承しなければ政府の退治は厳しい……じゃなくて無理だな。



「……契、交わしてやる。」

「………え?ほんと?」

「さっさとしろ、暇じゃねぇんだ」



現実の世界に帰ったら地獄を見るだろうしな。



「ん。」

「……どうした、目瞑って唇出して。」



少女は俺の目の前まで来て目を瞑り、唇を尖らせた。

正直、薄々何をすればいいのか感ずいていた。

でも、俺は十五歳、年齢イコール彼女がいない歴、そうなるとキスも初めてだ。

初めてをこんな番人に授けてもいいかどうかと聞かれたら……嫌に決まっている。

でも、これは契約、契だ。仕方が無いんだ。



「……早くしてよ、恥ずかしい。」

「ちっ。」



俺はそっと少女に近づき、唇同士をくっつけ、すぐさま離れた。

少女の唇は桜色で柔らかかった。

悪くはなかったさ。



「これで契約は?」

「………か、完了。」



頬を赤らめている。

自分でしてきた、俺は悪くない。俺は必死にその言葉を頭の中で連呼して自分の気を紛らわしていた。

にしても、契約をしたというのに体に異変はなく、むしろキスができてプラスな気分になっただけ。

煙を創造したものに変える力と聞いたが、まずはその使い方を理解しなければならないな。



「その覇王鬼の力ってのはどう使うんだ?」

「………今使っちゃうの?」

「ダメなのか?」

「……茜の肉体的に使える回数は一日に一回。でも、今は夜だから今使ったら明日の大会までに体が回復しない。」



ど偉い位の力にたいして俺の肉体が耐えられないということか……。

でも、第一に疑問なのがやはりなぜ俺なのか、だよな。

俺以外にも恐らく強い者はいないとは思えないし、俺でなくその者達に力を与えた方が恐らくもっとうまく使えるだろう。

それなのに、三千年も番人やってて最終的に選んだのが俺ってのはかなり疑問だな。

しかしまぁ、契約は交わしてしまった、もう何も言えまい。



「………。」



けどやっぱり……危ないよな。



「契約解除ってのは───」

「無理。」



自分の中じゃまだこの力を信用してはいない。

危ない力ってのは自分を殺す可能性もあるってのは少女自身もさっき言っていた。

一日一回、それより多く使ってしまったら肉体がどうなるか少女ですらわからないだろう。

そんな危ない未知の力を手にした俺だが……やはり使おうとは簡単には思えないな。



「……その、ずっと気になっていなんだが……お前、名前は?」



俺がそう聞くと、少し元気になったかと思った少女はまた暗い雰囲気で応答した。



「………無い。」



無い……か。

しかし、これは三千年も生きていたら当たり前なのかもしれない。

正確には無いとかではなくて忘れたとかだろう。

家族事情はよく分からないが、無いからってどうこういうつもりは無いし、番人なら番人とでも呼べばいいだろう。

まぁ、これから先会う気は一切ない……と言うか会えるかどうかも分からないしな。



「……無い。」

「え?」

「………無いよ、名前。」



何か少女の様子がおかしくなってきた気がする。



「ないのは分かった、今のは忘れてくれればいい。」

「………。」



下を向いたまま体育座り。拗ねている。

名前……それは生まれた時とかにつけられるものなんだが……今思えばこの番人がいつどのように生まれたか少し不思議に思ったりする。

名前もそうだが、親とか友人とか、なにか人との接点とかあったのか……それともここで三千年も孤独にひとりで生きてきたのか……。

俺の目には少女の周りを硬く冷たい氷が覆っているように見える。

言ってしまえば俺の子供の頃と同じだ。両親にも裏切られ、孤独に生きてきた結果コレだ。

間違いない。コイツの今を直さねぇと……コイツは俺のようなポンコツ人間になる。

だから俺は少女に言った。



「……俺が今の覇王鬼の力の継承者。つまりお前はもうどこにでも言っていい。違うか?」

「………そう…だけど?」

「……なら、行ってみるか?現実の世界に───」

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