結婚したくないのです

國灯闇一

自由の女神

第1話 社長の一幕

 夜になっても、雑踏が滞ることなく街中を満たしている。

その街中にある5階建てのビルの一室。資格証や賞状、ウェディングドレスを着た女性の写真が壁に飾られている。

室内の壁際に置かれた数々のデスクで、ノートパソコンをかじりつくように見ている人や凄い勢いでキーボードを操作していく人など、様々な作業をしている。

部屋の中央にある、角が丸く大きな四角い机で3人の女性達があーだこーだと時折笑顔を見せながら話している。

どこもかしこも女性しかいない。


 従業員がいる部屋の奥、ガラス壁の向こうにある部屋で、スーツを着た来美瀬理くるみせりは電話をしていた。

「では、1月の末にはデザイン画を提出させていただきます。はい、よろしくお願いします。失礼致します」

来美は電話の向こう側に見えてないのに、笑みを浮かべながらゆっくりした口調で定型句ていけいくを言って、電話を切った。


「来美さん」

黒い髪をポニーテールでまとめた若い女性は、来美に声をかけながら開けっぱなしのドアから入ってきた。

「ブライダルシルビアさんの修正デザイン案できました。チェックお願いします」

来美は女性から紙を受け取り、真剣な表情で見つめる。様々な角度から見たウェディングドレスの絵が中央に描かれており、細かい内容がドレスの絵の端に、小さな字で書かれている。

「うん。いいと思う。これで雪華せっかさんに提出してみて」

「はい」

女性は嬉しさを噛みしめるように薄く微笑んで返事をした。


「じゃあ、もう上がるわ。明日はエッジモルツさんのサンプルを見に行くから、必要書類を準備しといて」

来美は木製のポールハンガーからコートを取って軽やかに着ると、ブランドの鞄を持って社長室を出る。

「はい。お疲れ様です」

「じゃ、戸締まりよろしくね」

「お疲れ様です」

来美は従業員たちの労いを背に受け、歩みを止めることなくオフィスを出た。


 来美はオフィスがあるビルの地下駐車場へ向かい、愛車の赤い軽自動車に乗って地下駐車場を出た。お気に入りの音楽をかけて、鉄橋の道路を飛ばす。


30分後、新築の高層マンションの隣にある駐車場に入り、車を停めた。来美はマンションに入り、高級感漂う白いエレベーターホールまで足を運び、エレベーターを呼ぶ。エレベーターのドアが開き、中に入ると、最上階の45階のボタンを押した。


 来美はドアの鍵を開け、部屋に入る。鞄をソファに置いて、コートを脱ぎ、ウォークインクローゼットにコートをしまった後、すぐにお風呂場へ向かった。

自動で沸かされていた浴槽のお湯に浸かる。吐息を漏らし、浴槽の縁に首を預け、目を瞑ってとろけるような温度に身を委ねる。


ゆっくり浸かったお風呂から上がると、バスローブ姿で部屋の中を歩き回る。

習慣の肌の手入れをした後、冷蔵庫から白ワインを取り出し、グラスを1つ持ってローテーブルに置いた。

また、つまみは市販のチーズと裂きイカしかなく、フライドチキンとピザの出前を頼んだ。ワインをゆっくり飲みながら、静かな夜の食事を楽しむ。

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