第4話聖女の血といばらの鞭

「王に言われてやってきたのか、か弱き小娘ども」

「あっ、これは話ができる個体だ。めずらしい。ボスかな? ラスボスかな?」

 ワクワクして剣士に問うと、なにやら神妙な顔つきをしている。

「ふっ我もいるぞ。さあ、絢爛の宴といこうではないか。血みどろの、な」

 剣士スッと出て、悪態をつく。

「馬鹿め」

「おまえは、この世界の者ではないな」

「知らん。その記憶を返してもらうために王子を連れ戻すクエストを引き受けたのだ」

「王子……それはあの王子のことか」

「この国には王子がたくさんいるのか」

「馬鹿げたことを。王子と言えば我らが仕える王子しかいないではないか」

「ではそこをどいてもらおう」

「ならん」

「なにを……?」

「王子はこの国の中枢におわすお方。馬鹿な遊興にふけっている王など話にならん」

「それはオレもそう思う」

「ならば、仲間になれ。我らが王子にお仕えするのだ」

「……で、あんたの手下になれというのか」

「手下……? ふっくっく」

「なにがおかしい」

「おまえはこれから思考も感情もなくしたアンデッドになるのよ」

 レイラ、飛び込んでいって剣士を庇う。

「危ない!」

「小娘……」

「ヒーリング!」

「ぐっ」

「くそ、しかしこれまでよ。暗黒魔瘴!」

「カウンターマジック!」

 瘴気を免れた。

「ふ……おまえは神職か。戦場に染まらぬことだな」

「なに言ってんだかわかんないわ!」

 言うだけ言うと、敵はささーっと逃げていった。レイラはたった今魔法を放った利き手を見る。太陽のブレスがきらめいた。

「ふうん、私、神職なんだあ。つまらない」

「貴重だと思うぞ」

「だって回復系じゃ前線に出られないじゃない」

「オレがいる」

「あ! 相手がアンデッドだから逆に最強かー!」

「おいっ」

 パチパチと火花を散らし、白い古木は燃える。二人はたき火で暖をとることにした。

「ここって植物がみんな白いのね」

「ん? 陽がささないからだろ」

「! あんた、もしかして地球人? 太陽のある世界から来たんじゃない? その発想!」

「? さあ」

 オレンジの火が大きく膨れ上がり火柱と化す! 燃え盛る炎の向こうに怪しい影が迫ってきた。

「イヤな風だ……」


 善戦するも敵は剣の達人。その辺のモンスターを切り刻みながら、腐肉臭い息を飛ばしてきた。

「きゃあ、王子様はどこよ!?」

「ボスキャラが二匹いるなあ」

 剣士はしょっぱい顔。

「そんなのんびり言ってる場合じゃ……」

 剣士がピンチだ。

「ぐっ! 生臭い。やっぱりこいつら苦手……」

 なにを犬猫みたいにひるんでいるのよ。

「大丈夫!?」

「ああ、あ……!」

「うるさいわね! ヒーリング!」

「ぐぎゃっ」

「うるるうー」

 モンスター化した人型の敵が凶暴化し二人を同時に攻撃。

 ――二人とも負傷。血がしぶいた。

「こういうとき、回復系でよかった……」

「ぐがあ!」

「なんか暴れてるぞ」

 荒野の老爺が現れて言った。

「ふっ、聖女様の血を浴びたからよ」

「オレのもな」

「私が聖女ってのは良いとして、張り合うなんてあんた……清らかさんなの?」

「実は……」

「うちの子もそうだったわ。大人になる前に去勢しちゃったからね」

「なんだそれは」

「なんだろうねー」

「がーっ! がががっ」

 黙って回復に努めるレイラと、彼女に傷を任せながら、敵を見張る剣士。冴え冴えとした月が見守る中、ザインとガインは正気に返ったようで。

「こ、コの光ハ……ツクヨミの力……はっ、あのブレスはアマテラスの知恵……かなうわけがない!」

「おい、逃げるぞ」

「お、おぼえてろ? ほんとのホントに憶えてるんだぞ?」

「なにそのせつない捨て台詞」

 不利を悟った敵は涙ぐみながらラスボスのところへ逃げていった。敵は武器を落していった。「いばらの鞭」と、一見してわかる。

「これって複数いる敵、薙ぎ払えそうね」

「おい、勝手にいじるな!」

「だって敵さんの数が多いもの」

 一振りすると、勢いよくアンデッドの横っ腹をぶち抜き薙ぎ払って、地面をえぐった。

「なによ、これ扱いづらい!」

「あっぶねー」

 剣士はさっとよけた。すると薙ぎ払われたアンデッドが再生した。生き物として。

「おかしいわね。ねえ剣士、ここに蛙なんていた? 両生類は水辺にいると思うんだけど」

「知るかよ」

「ま、いっか」

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