第3話ドシリアス ギャンブラー
王都は真っ白な木(!)でできた家屋が密集しており、通りも狭く、まっすぐ王城が見えた。
「ここらへんはどこから明かりをとってるの? 荒野は真っ暗だったのに」
「あの荒野のもっと手前の方にあった、月の光を集めた白夜の塔から都中を照らしているらしい」
「なにそれ、灯台?」
「そんな言葉もあったか」
「ふーん」
(あんたはその荒野で何をしてたの?)
しかし、それきりレイラは追及するのをやめた。自分も似たようなものだったから。
少年剣士は彼女を証人として王に謁見を申しこんだ。
「おお、そなたが異世界からの客人か。ここはひとつ勝負をしないかね」
「やっぱり……」
剣士が肩を落とす。
レイラは声をひそめて、
「ねえ、剣士知ってたの?」
「知ってるも何も、オレの記憶喪失の原因だ」
剣士、王の丈を示し、
「あの宝珠でここへ至るまでの記憶を吸い取られた」
「どういうこと!?」
「さあ……」
「うむうむ。うのみにしないところがなかなか素質あるぞ」
何の素質。
「乗るのかね、乗らないのかね?」
「いいわ。そのかわり、私が勝ったら、剣士の記憶を返してもらいます」
「それは無理だな」
「王様ともあろう者が、それくらいの融通が利かないでどうすんのよ?」
「ならば、方法を変えよう。おまえが勝ったら望みを叶えよう。そこな少年の記憶も返そう。負けたら罰ゲームをしてもらう」
「なんだか勝手なこと言ってる」
「オレもその手にやられたんだなあ、きっと」
「わかったわ、受けて立ちます!」
「聞いてんのかよ……」
――ナインボールで負けた。惨敗。
「あんなのズルいわ。先行をとったら、一時に全部ゴールさせちゃうんだもん。まったく手が出せなかった」
「だから言ったろ? 王様は負ける気なんか全然なくて、うまいことペースに乗せられたんだ」
「じゃあ、他にどういう手段があったというの?」
「知らん」
「まったくもう!」
モンスターのいる砂漠へ出向く。心配した剣士もついてくる。
荒野に出るにあたって、一通り荷物は持たせてもらった。馬で二人乗り、もう一頭の馬にはカンテラなど必要品を括りつけている。
「野宿決定か……」
「あんたは来なくてもいいんじゃないの?」
「女一人で危険地帯へやれるか」
「じゃあ代わってよ」
「これはあんたの罰ゲームだろうが」
「なんであの王様ああなんだろう」
「天性のギャンブラーだな」
ちりん。
手に魂鎮めの鈴をもった老爺に出会った。
「ぼっちゃん、じょうちゃん。お帰りよ。ここから先は地獄だよ」
「慣れてるから平気よ」
「おいおい、冗談だろ?」
「本当よ」
「よし! オレはあんたについてくぜ!」
「勝手にどうぞ」
剣士、ニヤニヤしている。レイラが慌てふためく姿を見てやろうという気だろう。もう一度確認する。クエストは自殺した王子の亡骸を取り戻すこと――。
「なんですって!?」
レイラは驚いた。
「王子はアンデッド化しちゃったのよね~~これホント」
老爺が言う。変にまのびした裏声だった。
「ふうん?」
剣士が耳をほじってふっと息を吐く。
「あらま! わかってないの。相手は死の国からも追い出された猛者よ、あんたがかなうはずがないじゃない」
「わかった。相手を死の国から引きずり出すより簡単だわ」
「ひわわわ! そんなこといちゃって~~やめてよ、あんた~~」
「だって確実にこの荒野に潜んでいるんでしょ?」
ひそひそと剣士に耳打ちするレイラ。
「違いないだろうな」
「生前も王子は質実剛健のザインと頑健な肉体を誇るガインが一緒でな。間違っても二人同時に相手にしないことよ」
「なるほど」
想像したくもないモノがわらわら押し寄せてくる。いや、暗くて何も見えないのが幸い。
「ねえこれなに? ゾンビ?」
脅えて言うと、
「これがアンデッドモンスターだ。死してなおうごめく死体。ある意味不死身」
「いくら永遠に生きられるからって、こんなふうになってまで生きたくないわ」
ドロドロのぐちゃぐちゃである。すえた臭いがする。
「とりあえず王子を探して生き返らせましょう。えっと、ヒーリング?」
「レイラ、それとどめ!」
「えー? じゃなにかければいいの?」
「リザレクションだ、リザレクション」
「きゃー、どんどん腐ってくー」
「だから……てめえ! 人の話を聞け!」
「そんなこと言ったってー」
『ぎゃあぎゃあうるさいガキどもめ』
『ザイン、ひとつ黙らせてやろう』
そんな声が聴こえてきて――。二人――いや二体の、他に比べ一回りも大きな個体が現れた。
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