妹を、ぶっ壊す
――妹を、ぶっ壊す。
しかし、やるとなれば、かなり慎重にやらなければならない。
正直言って、頭脳じゃ妹に勝てない。
だから妹の頭脳が働いてないとき、つまり妹が寝ている間を狙うしかない。
といっても、“今の妹”はロボットだ。
ロボットは寝ない。
でも充電中は充電効率を良くするためにスタンバイモードになる。
スタンバイモードの妹は、目を閉じ、五感センサーもCPUも最低限しか作動していないから、突発的な出来事に対しては迅速に対処できないはずだ。
あくまで楽観視。
でも、それにかけるしかない。
デートから帰った俺は、自分の部屋のクローゼットの奥にしまってあった金属バットを取り出す。
そしてそれを持ち、俺は妹の部屋に向かった。
いいか?
失敗は許されない。
必ず仕留めるんだ。
頭蓋を一発……いや二発……それでも足りないかもしれない。
とにかく、可能な限りこのバットを妹の頭に叩き込むんだ。
なんせ妹は、あの兵士ロボットを造っている〈
きっと頑丈にできている。
だから、気を抜くな。
俺は自分に、入念に、そう言い聞かせる。
それから妹の部屋の前に立つ。
ドアを、そっと開ける。
キィッという金具の音が鳴らないよう、細心の注意を払う。
時刻は深夜の12時過ぎ。
本物の妹は、この時間はぐっすりと眠っていた。
そして偽者の妹もまた、本物の習慣を踏襲するようにプログラムされているのか、いつも部屋の中で静かにしている。
ドアを開けた俺は、そっと妹の部屋に入る。
ここが明るければ、きっと教科書と参考書がきれいに整理整頓された勉強机があり、素粒子物理学や量子宇宙論といった小難しい本で埋め尽くされた本棚があり、枕元にウサギのぬいぐるみが置かれたベッドがあるはずだ。
しかし、今は深夜の12時過ぎ。
妹の部屋は闇に包まれている。
窓のカーテンがあけられ、うっすらと月明かりが部屋に入り込んでいるが、ディテイルを照らすには光が足りない。
そんな光でも、ベッドに眠る妹の姿をぼんやりと浮かび上がらせてくれる。
布団を頭の天辺まで被った妹が、ベッドの中で横たわっている。
充電中と言っても、寝ている姿と、何も変わらない。
今は見えないが、きっと布団の下には電源コードが伸びていて、プラグが妹の体のどこかしらに刺さっているのかもしれない。
俺はバットのグリップを両手で強く握る。
そしてバットを振り上げる。
布団を被っていても、妹の頭の位置は、布団の盛り上がり具合でわかる。
そこに狙いを定める。が――
バットを握る俺の手が、震える。
ビビるな!
これは人殺しじゃない。
いいか。
これは処分だ。
この妹は俺たちの――人類の脅威になるかもしれない。それを、適切に排除するだけだ。
それだけだ!
俺は頭上にあったバットを振り下ろす。
そして――
――ドスン!
何かが砕ける鈍い感触が、バットのグリップから俺の手に伝わってきた。
確かな手応え。
でも安心するな。
さっきも言った通り、この妹はただのロボットじゃない。
軍事ロボットのノウハウが凝縮されたヒューマノイドかもしれないのだ。
だから、
――ドスン!
――ドスン!
俺は何度もバットを妹の頭めがけて振り下ろす。
その度に、何かが砕ける鈍い感触が俺の手に伝わる。
それから何回、俺は妹の頭を殴っただろうか?
わからない。
気が付けば、俺の動悸は激しく脈打ち、まるで心臓が太鼓になってしまったかのようになっていた。
俺がバットで殴っている最中、妹から悲鳴は一切聞こえなかった
でも、それでいい。
もし妹が悲鳴を上げていたら、俺は躊躇っていただろう。
躊躇って、妹の処分に失敗していただろう。
これで、いいんだ。
布団の中の妹は動かない。
もう、ぶっ壊れてしまったのかもしれない。
じゃあ、あとはこのスクラップをどうやって処分するかだ。
その前に、本当に妹がぶっ壊れたのか、確かめなければならない。
そのために、俺は妹が被っている布団を、そっとめくった。
ところが――
「夜這いにしては、乱暴すぎるんじゃない? お兄ちゃん」
俺の後ろから、声がした。
なんて、こった……。
俺は恐る恐る、声のした方を振り返る。
するとそこには、なんと、妹がいた。
妹はパジャマ姿で、観覧者のときと同じように、片方の瞳を赤く光らせている。
その赤い瞳で、俺を鋭く見つめている。
「私とエッチしたいんだったら、言ってくれればよかったのに。それともお兄ちゃん、私を痛めつけてヤルつもりだったの? とんだ鬼畜だね」
「そ……そんなんじゃ……」
「じゃあ、何なの?」
妹の赤い瞳が、さらに光る。
妹が、一歩歩み寄る。
「もしかしてお兄ちゃん。私を殺そうとしてた?」
俺は後ずさる。
でも後ろにベッドがあるせいで、これ以上、後ろに下がれない。
ベッドには、グチャグチャに砕けたスイカがある。
「違うんだ……ハヅキ……これは――」
「これは、何なの? お兄ちゃん?」
「だから……これは――」
「――ウソつき」
その直後だった。
俺の全身に、焼けるような衝撃が走った。
そのせいで、俺はすぐに気を失った。
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