第2章 ようこそ、妹が人類を滅ぼす世界へ

廃墟

 VRゴーグルを外した途端、俺は廃墟にいた。


「おい! これはどういうことだよ!」


 俺は思ったことをそのまま口に出していた。

 だっておかしいだろ?

 このゲーム、つまり『THE WAR LEFT -残された戦争-』を始める前、俺は確かに妹とリビングにいた。

 なのにリビングは跡形もなく消え去り、破壊された住宅地の真ん中に、ソファーに座った俺だけがポツンと取り残されている。

 妹だっていなくなっている。

 なんてシュールな光景なんだ。

 現代アートだと、高く評価されそうな絵になるぜ。


 つーか、そんな暢気なことを言ってる場合じゃねーだろ。


 ゲームは確かに終わった。

 そうだろ?

 まさかゲームの中に取り残されてしまったなんて、ラノベとかアニメみたいな展開はナシにしてくれよ。

 魔王だの黒幕だのを倒さないと止められないゲームなんて、フィクションだけにしてくれ!


「おい! ハヅキ! どこだ? 返事しろ!」


 俺はいなくなった妹を探そうと辺りを見回す。

 しかし、妹の姿は影も形もない。


「おい! ハヅキ! かくれんぼか? だったら止めてくれ! 寂しくて死にそうだ! 出てきてくれよ! あとでアイスを奢ってやるから!」


 するとそのとき、スマホに着信があった。

 画面に表示された相手の名前を見て、俺はすぐさま出る。


「おいハヅキ! これは何だ? どこにいる?」

「あ、お兄ちゃん? ここにいると危険だよ。早く逃げないと」

「は? どういうことだよ」

「戦争が、もう始まってるんだよ。だから――」


 遠くで、獣が唸るような音がした。

 と思った直後――


 ――凄まじい轟音の塊が、勢いよく俺にぶつかる。


 そのせいで俺はソファーから転げ落ちてしまう。


 ――なんだ?


 と思った刹那、上空で黒い影が一瞬で通り過ぎる。

 空気を切り裂く波動が、鼓膜を鋭く刺す。


 あれは――まさか、戦闘機?


 じゃあ……さっきの轟音は、爆撃?

 しかし確かめる術も時間も無い。なぜなら――


 近くで、銃声が鳴った。


 それは一発や二発じゃない。

 無数に放たれる銃弾。

 間違いなくそれは、アサルトライフルがフルオート発射する銃声。

 その銃声は、誰の悲鳴をもまき散らし、俺に近づいてくる――

 そして銃声を発するものの正体を確かめようとした時、俺は戦慄とした。


 それは破壊された家々の瓦礫の陰から姿を現わした、〈黒い影〉。


「う……嘘だろ?」


 すると〈黒い影〉は、俺を視界にとらえたようだ。

 持っていたアサルトライフルを、俺に向ける。


 頼む。誰か嘘だと言ってくれ。

 俺は祈る。

 だって〈あれ〉は、俺がさっき全滅させたはずだ。

 なのに……なのに何でまだいるんだよ。


 俺が見た〈黒い影〉、その正体は――


「フ……〈フーム〉……なのか?」

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