突きつけられた銃口
俺の目の前には、〈フーム〉から突きつけられる銃口だけがあった。
さすがに、俺は死を覚悟する。
体の中から、恐怖が「目を閉じろ」と囁く。
俺はそれに従うしかない。
そして次の瞬間には俺の頭が吹き飛び――
「耳を塞いで! お兄ちゃん!」
妹の叫ぶ声が聞こえた。
しかし俺はその言葉を理解する前に――
「――――――――――――…………!!」
強烈な頭痛が俺を襲う。
爪で黒板を引っ掻いたような不快な音が、大音量で炸裂する。
そのせいで、脳みそが破裂してしまいそうだ。
俺は悲鳴を上げていたかもしれない。
だが、それもよくわからない。
あまりにも凄まじい音量は俺の悲鳴を掻き消していたかもしれないし、自分の悲鳴を聞き取れるほどの余裕がない。
とにかく激しく辛い。
自分を保つことさえままならない。今にも壊れてしまいそうだ。
だからこの不快音が止んだとき、俺は心底、安堵した。
たとえ俺が〈フーム〉によってやられていたとしても、この苦痛に比べればマシだとさえ思うほどに。
やがて俺は目を開ける。
するそこには、地面に沈んだ〈フーム〉の姿があった。
その数は、6体。
それはつまり、ここにいた全ての〈フーム〉が始末されていることを意味する。
「大丈夫? お兄ちゃん」
俺の傍に佇む妹が、俺を見下ろしながらそう言った。
俺を見下ろすその瞳は、クリッとしたガラス玉のように大きい。
小さい鼻と口、ショートヘアーの髪型、そして華奢な体格をした妹だが、右手にアサルトライフル、左手にハンドガンを構えたその姿は、そのときばかりは頼もしいと感じた。
「あ……ああ、大丈夫だ」
妹は左手に持ったハンドガンをしまい、その手を俺に差し伸べる。俺はその手を掴み、立ち上がる。
俺は〈フーム〉の発砲によって被弾している。
だが、問題ない。
今の俺は強化外骨格に身を包んでいるから、この程度の火力でやられることはない。
念のため網膜スクリーンに俺の状態を表示させるも、〈
一方、厳つくて重厚な強化外骨格に身を包んでいる俺とは対照的に、妹の装備は軽装と言っていいくらいだ。
なぜならレオタードのバニーガール姿に、胸と腕、膝にプロテクターを装着しているくらいなんだから。
妹から言わせれば、これは機動力を重視した結果だそうで、俺はそんな妹を
もちろん、妹についているウサ耳は飾りじゃない。
ウサ耳は聴覚を拡張し、近くに〈フーム〉がいないか索敵するのに役立つし、内蔵されたスピーカーで、さっきのように不快な音を大音量で放出できる。便利な耳だ。
「あともう少しだよ、お兄ちゃん」
妹はアサルトライフルのマガジンを入れ替え、コッキングレバーを引きながら言う。「〈奴ら〉を倒せば、この戦いも終わる」
「そうだな」
俺は辺りを見回す。
ここは大学なのか、あるいは研究施設なのか、よくわからないが、広大な公園のような敷地の中に、3~5階建ての古いコンクリートの建物が点在している。しかしここが何であるのかに、俺は興味がない。
興味があるのは、〈奴ら〉の生き残りがここに潜んでいて、俺たちは〈奴ら)をどうやって全滅させなければならないかってこと。それだけだ。
「とにかくハヅキ。先へ急ごう。〈フーム〉の数も、残りわずかなんだろ? さっさと終わらせて、ディナーの準備だ」
「うん。でも、気をつけてよ、お兄ちゃん」
妹は人差し指をピンと立てる。
「ここには〈フームα〉がいる。〈奴〉は誰も倒すことができなかった、特別な存在」
「それは、“強い”ってことなのか?」
「どうかな? 今にわかるよ」
「ど……どういうことだよ?」
その直後だった。
装甲車が、俺たちに向かって、空から降って来た――
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