第15話 My son is back
子供の頃から、姉の事を少しおかしいと思って来た。
それは、人としての能力が高過ぎると言った意味だったのだが。昨日の件で、姉が人の枠をはみ出している事を知って、ある意味では、納得がいった。ああ、やっぱり、と。
平然とゲームの世界へと行き、そこでユスティアの魂を確保。同時に俺の魂をユスティアの肉体へと入れて持ち帰り、ユスティアへ新しい肉体を用意する。
こんな事が出来るのだから、人として多少おかしくとも、なんら不思議では無い。
そんな姉の母親である静佳さんは、良く解らないが、凄いのだ。どう凄いのかも判らない位に。
春さんのお
だが、そんな二人よりも遥かに凄いのが、今俺の前に居る、
この御方は、俺の知る誰と比べても、超絶スゴい。小学生みたいな感想しか、出て来ないくらいに凄い。
そんな凄過ぎる御方が、俺の身体に何かをしているようなのだが。
何が起きてるのかさっぱりわからん。わからんが、何かをされているのは、微かに解る。その微かな感覚を勘で補強した予想では、観られている、のだと思う。
御本人も、そんな事を言っていたし。
「ふむ。なるほどな。存外に良い肉体だ」
良い肉体って、なんか言葉の響きが妖しいですよ、刀自様。
口に出してツッコま無いけど。
「階梯としては、三辺りか。
性能は悪くは無いが、構築が雑だな。誰の仕業かは知らぬが、使い捨てにでもするつもりであったのだろうな。もしくは、これがその者の限界だったのか。
まぁ、どうでも宜いが。
時に、マサ坊。お主は女になりたいのか?」
何やら俺の身体についての評論が始まったのかと思っていると、唐突に妙な問いが飛んで来た。
「いいえ。俺は、性別を変えたいと思った事はありませんが……」
一応、思った通りに答えたが、なんでそんな事をお聞きになるんでしょうね。何かマズい事でもあるんでしょうか……?
「そうか。では、男にするか。
だがな、マサ坊。外見は、ほぼそのままだ。あまり弄ると均衡が崩れて、性能が大幅に下がるのだ」
えーと? 男に、する?
「あ、あの。申し訳ないのですが、無知なる身で恐縮なのですが、『男にする』とは、どういった具合のお話で?」
ああ、頭の中がこんがらがって、言葉遣いが怪しいっ。許して下さいっ。
「なに。これから、その肉体へ少々手を加えようと思ってな。
性能は悪く無いが、余裕が無さ過ぎていかん。そこを解消しつつ、全体の効率化を進める。その過程で、失っている生殖機能を
解ったか?」
うん。解らない事が判った。
なんだかトンデモない事をさらっと言ってる気だけはするけど、事実なんだろうなぁ。
「正直に申しまして、理解はできませんが……判りました」
「ふふっ。まぁ、悪いようにはせんよ。
「……では、お任せいたします」
他に選択肢が見当たらないし……。
「ふむ。出来たぞ。
性能は三割り増。操作性と快適性は、五割り増し、と言ったところか。
後は、お主の魂に馴染めば、それぞれもう少し増す見込みだ」
ん? 出来た? 何が?
「あのぉ、できたとは……?」
「ん? その肉体の改良が、だが?
実感が湧かないのなら、股を触ってみるがいい」
股を、触る。
「えっ!?」
言われるままに股に手をやれば、そこには懐かしい感触が在るではないか!
「理解したようだな。そこは少々手心を加えておいたが、礼は要らぬぞ。
それとテムテム。お主の方は、本当に整えるだけだが、しておいた。言葉も多少は覚えやすくなるだろう。
では、
俺が混乱から立ち直る間も無く。要件を告げた刀自様は、まるで幻だったかのように、御簾に映っていた影が
そして、御神座から感じていた存在感も消えている。ダムの水が一気に無くなったかのような消失感だ。
その喪失感によって、刀自様の発していた存在感がいかに巨大であったかを、遅まきながら肌で理解させられた形になった。
▽
翌日の早朝。外はまだ暗い。
昨夜は、主に刀自様との邂逅で精神的に疲弊していた俺は、本殿から帰ってすぐに、風呂に入って寝てしまった。その反動で、こんな時間に目が覚めてしまったわけだ。
二度寝と洒落込もうかとも思ったが、完全に目が覚めてしまっていて寝付けそうにない。
仕方なく起きようと掛け布団を剥ぐと、
「おはよう、いい朝だな」
思わず股間へと朝の挨拶をしてしまった俺を、誰が責められようか。
一度はその生存を諦め、密かに落ち込んでいたのだ。相談できそうな相手が思い浮かばなかったし。
にも関わらず、彼は帰って来てくれた。それも、普段は以前よりもコンパクトながら、こうして立ち上がれば一回り大きくそして逞しくなって。こんなに嬉しい事は、早々に無い。
これも文字通り、全て刀自様のおかげだ。息子に触れ合う度に感謝しなければな。
さて、帰って来た
耳を澄ませば、遠く街中を走る車のエンジン音も聴き分けられるし。目を凝らせば、宙に舞ったりフローリングの床に落ちている、埃のひと粒ひと粒の形が判別できたりする。この分だと、鼻や舌も鋭敏になっているのだろうか。
それに
ただ、観えてはいても、それの意味するところが俺にはまだ理解できていのだが。パソコンの素人が、プログラムその物を見る事が出来るようになっても、その事を活かせない、てのに近いだろう。これは今後の課題だな。
さて。朝食までには、まだ時間がある。このまま、ベッドの上でぼーっとして過ごすのも、もったいない気がする。
ここは一つ、久しぶりに朝の鍛錬でもするか。
ベッドから降りると。寝間着代わりに着ていた大きいサイズのTシャツを脱ぎ、昨日買ったウェアーを身に着ける。
それから、部屋のクローゼットを開け、中から木刀を一本取り出して。それとタオルを持って部屋を出た。
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