第10話 魔力と精心
オニグロを後にし、少し遠出して静佳さんのお使いを済ませた俺は、FMラジオをBGMにしつつ、帰省していなかったここ数年余りで変わった地元の街を横目に見ながら車を運転していた。
お使い先での軽い世間話の中で、この街の事が話題に上っのだ。最近は、店を畳む知り合いが増えたと。
その話の通り。今のこの街は、オニグロなどの大型有名店の支店が何店か増えて、そこは便利にはなったと言えた。けれど、代わりに昔から在る商店には、昼からシャッターの降りた店が増えたように思う。
シャッター街。時折ニュースなどにもなり、知識としては知っているつもりであったし、これも時代の流れなのかとは思うが。こうして目の当たりにすると、いささか寂しいものがある。
だが、オニグロで結構な量の服を買い込んだばかりの俺が、何かを言えた立場では無かった。
気持ちを切り替え、帰ってからの鍛錬の事でも考えよう。
バイトを始めるよりも何よりも、先ずはこの身体をある程度は使いこなせなくてはいけないのだから。
こうして日常生活を送っていると忘れてしまいそうになるが、この身体は、ゲームの中で神が決戦に用いた兵器と言って差支えの無いものだ。その危険度は、地球の戦力に換算すれば強国の軍隊の一方面軍に匹敵するのではないかと、なんとなく思っている。割りと、ふわっとした予想で。
そんな戦力が、人一人のサイズで街中に在る。これは、世間が知れば大問題に発展するてあろう一大事だ。
前大戦中に投下された爆弾が、街中で不発弾として見つかり、近隣住民が大勢避難する大きな事件となった。
たった一発の不発弾でそうなのだ、軍隊規模の火力が一点に集中していて、更にそれの制御が不確かだとしたら、これ程の危険は早々に無いだろう。
ゲームの中では、この肉体に降りた神の力で、大陸の地図の形が変わっていた。あの現場が日本だったら、この国は海に沈んていただろうから。
そんな
とか言いながら、今は暢気に買い物なんて来ているが、これはこれで大切な事なのだ。服装は、人の心に少なく無い影響を与えるのだから。
正装をすれば身も心も引き締まる。動きやすい服装なら、鍛錬にも集中できる、といった具合に。
初めてこの身体に入った時に、半ば無意識に傷を治した。あの時に姉は、『魔力の使い方が下手』だと俺に言った。あれから、気になって少しだけ説明を聞いたのだが、ゲームなどで用いられる『魔力』と現実のとでは、少々趣きが違うそうだ。
ゲームなどでは、MPとして表示されている『魔力』を消費して、望む形の魔法やそれに近い現象を起こしている。
要約すると、『
けれど現実では、『火力』に近い言葉らしい。銃砲の打撃力を表す方では無くて、火が燃える勢いの方の『火力』だ。
そもそもの話になるが。『魔』とは、
なので、魔力が高いと言えば、『理りを曲げる勢いが強い』という意味になる。ゲームなどのステータスにある、MPでは無い方の『魔力』が、これに近いだろうか。
では次に。『魔力』が火力なら、燃料にあたる物は何なのかだが、これは様々な名前があるらしい。
有名なところでは、『霊気』や『精気』などの『氣』に由来する呼び方や、オーラやチャクラなどだ。
それぞれの呼び方をする者達は、それぞれの理論があり、それらは似て非なる物を指しているように思えるが、姉は『そんな違いは誤差よ。個人差と言ってもいいわ。本質的な根源は同じなのだから』と、バッサリ切り捨てていた。
そんな姉は、それらの事を総じて『
そして、『精心』が生物が内包した精神の力だとしたら、自然界にも似た力が満ちていて、それは言わば『地球の
ややこしいけど、他のチャクラやらオーラやらを全て覚えるよりは、ましだろう。
それと、この身体になって、どこを向いても見えるようになった色付いた何かは、この『
かく言う姉も、両方とも観えるそうだが。
俺は、精霊と言えば、自然の力を操る肉体を持たない美しい生き物だと思っていたし、俺の知るファンタジー物の創作物では、ほとんどがそれに似た設定だった。
その事を聞くと、『それは、『霊類』の一種族で、『精霊種』の事よ』と言われた。俺達が人類なのに対して、あちらは霊類に属するという意味なのだとも言っていた。そして、星の霊が精霊種なのに対して、
最近では、人の霊が一番ありふれた『霊類』だと言っていた。人口が増えたからだとも。
さて。ようやく、『なぜ服装が鍛錬に影響を与えるか』の本質の話だ。
人は、着る服によって気分も変わる。気分とは『心の有
すなわち。『心』と『
姉曰く、『
そんな
半分は、今後の生活を見越した実益も兼ねているけど。
今日の買い物についての言い訳を、誰に言うでも無く、自分の良心的な何かに向けて並べている内に、運転する車は郊外の里山へと差し掛かっていた。
道の左右には、植え終えたばかりの緑の稲が、水の貼られた煌めく水田の中で、風に揺れている。これから夏にかけて順調に稲が育てば、一面の緑の絨毯が見れるだろう。
ここまでくれば、実家はもうすぐだ。
そのまま田んぼの中の農道を進み、雑木林の中の曲がりくねった林道を上る。
坂を軽快に上には、この車では少々馬力が足りないが。この、エンジンが回転数を上げて頑張ってる感も、嫌いじゃない。
右へ左へとうねる坂道で、軽いワインディングを楽しむ。荷物もあるからな。本当に軽くだ。
このまま丘を上り、市街を見下ろせる丘の頂上付近で左折すれば、直ぐに実家だ。辺鄙なとこに在るが、田舎の古い神社なんて、だいたいそんなものだろう。
なんて思っていると、左折する前の最後の直線で、左に寄ってハザードランプを灯している車が前方に見えた。
事故だろうか。あるいは故障か?
車速を落として、様子を確認しながら近付く。
白い車体には、こちらから見るに、破損したりはしていなそうだが。道中に破片も落ちていなかったし。
となると、故障か?
ああ、単に停車してるだけかもな。電話してるとかで。
ほぼ徐行状態にまで車速を落とし、路肩の車までの距離があと30m程になった頃。そう納得して、右にウインカーを出して通り過ぎようと思っていると、白い車の右のドアが開いたかと思うと、グレーのスーツを着た男が降りて来て、道を塞ぐように立ち、両手を左右には広げた。
完全に、通せん坊なスタイルだ。
えぇ。なにしてんのさ、あの男……。
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