第6章 そして日は昇る

 しばらくして目を開けると、手には水色のリボンが握られていた。

辺りはキラキラと輝いていた。

そのリボンを胸に抱き…その場に崩れ落ちる。

「日向ぁ……」

涙が止まらない…名前を呼びながら静かに、泣いた。


 次の日は始業式…赤い目を擦りながら学校へ行った。

輝かしい夏休みは終わったが、僕の中には永遠に残り続ける。

「よお…って、黒!引きこもりが焦げてる!どないしたん?」

早速親友が話しかけてきた。

「ハハハ…中々感動的な夏休みを過ごせたよ。」

以前の僕とは思えないような、クールな返答が出来た。

親友は終始、頭の上にはてなマークが浮かんでいた。


 放課後…僕が夏休み中ずっと通い詰めた木造住宅へ足を運んだ。

そこにあったのは、人はとても住めないような倒壊した廃屋だった。

床が抜けないよう、そっと上がり込んで居間があった場所へ向かう。

妙に真新しいちゃぶ台には一輪の向日葵と、ただの麦わら帽子が置いてあった。

日向がわざわざ残していったのだろう…それらを手にし、廃屋を出た。


 家に帰ると、母が慌てたように駆け寄ってきた。

「さっき電話があって…日向ちゃんが亡くなったって…。」

どうやら僕が学校に行っている間に電話が来たらしい。

八年もの間、ずっと眠っていた日向がついに息を引き取った…と。

「あの時、夏野さんの生気がない電話を受けるのが辛くて…もう掛けてこないようお願いして、もう亡くなったって嘘をついたの。本当にごめんなさい…」

当時のことを母に謝られた。

そんな昔のことを。と僕は笑って許した。

ただ…改めて事実を聞くと、やっぱり胸が苦しくなる。


 後日、僕は日向の葬儀に参列した。

到着するとすぐに、まだ若い夫婦が一礼してきた。

「あなたが葉月くん…ね。」

それは初めて会う、日向の母親と父親だった。


 昔、日向の両親は海外で仕事をしていたらしい。

おばあちゃんの家に居たのは、そういう理由だ。

そして、おばあちゃんは…三年前の八月に亡くなったそうだ。

あの家は誰も手を付けず、そのまま廃屋化してしまった。


「これ…葉月くんに渡そうと思って。」

日向の母に、一冊の絵日記を渡された。

「もしかしたら日向が目覚めた時、記憶が無くなってるかもしれなかったから。でも一番大切な葉月くんの事は思い出してもらおうと思って、枕元に置いておいたの。」

それは八年前の宿題として出ていた絵日記だったのだろう。

最初は変哲もない日記だが、ある日を境に少年との出来事が綴られている。

子供っぽい字で、でも内容は僕のことを沢山書いてくれていて—

気づいたら涙を垂らしながら、一ページずつ見入っていた。


 そして最後のページをめくると…そこには丁寧な字でメッセージが綴られていた。

「葉月へ。最期にこんな思い出が出来て、私は世界で一番幸せです!神様にはこんなチャンスをくれた事を感謝しないといけませんね。もう私のことを忘れないで…そして、絶対に幸せになってください。待ってます。 夏野日向」

こんなのズルいって…僕はその場で泣き崩れた。

絶対に幸せになって、天国で会った時に褒めてもらえるように…頑張らないと。

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