第4章 色あせてしまったもの
思わず涙がこぼれ落ちた。
向日葵畑の中心でキスをする少年と少女。
それは後ろから差す陽によって黒いシルエットとなっている。
少年の胸に刺さる一輪の向日葵、少女の帽子のリボンが風になびいている。
そして同じく風に揺れる沢山の向日葵、空に舞う黄色の花びら。
雲一つない空に白い鳥たちが飛びまわっている。
まるで動画のように見える、一枚の絵だった。
日向に対する既視感の理由が分かった。
この風景を描ける者…この風景を知っている者を、僕は一人しか知らない。
「ねぇ…どうしたの葉月?泣かないで。何かしちゃった?ごめんね…」
心配そうに日向が顔を覗き込んでくる。
「ああ…ごめんな日向。やっと思い出したよ…久しぶり。」
昔、僕が小三の時の話。
近所の友達と秘密基地で遊んでいたときに、一人の少女がやってきた。
「誰だお前!」
友達がその子に向かって叫んだ。
「助けて…ここどこ…ウワーン!」
それを受けて少女は泣き出してしまった。
泣いている彼女を放っておくわけにもいかなかった。
その日は遊ぶのをやめて、僕は彼女の家を探してあげた。
しばらくして、一つの古い木造住宅へとたどり着いた。
「あらあら、わざわざひなをありがとうねぇ。」
その家に住んでいるおばあちゃんのご厚意に甘えて家に上がらせて貰った。
「私、日向!
「僕は信条葉月、よろしくね。」
その日から僕は日向の家で、毎日遊んだり宿題をやったり…宿泊した事もあった。
そして夏休み最終日…日向の誕生日である八月三十一日の夕刻。
僕は水色のリボンが付いた麦わら帽子を日向にプレゼントした。
日向は、一輪の向日葵を僕にプレゼントしてくれた。
八年間大事にして、咲いた時に願いが叶うんだと言われた。
「なら八年後、この向日葵を持って日向のとこ行くから。お嫁さんなってくださいって行くから!」
勇気を出して言った。
「うん…待ってるよ。私はこれを被って、はいって言うから!」
そして僕たちは向日葵畑の中心で唇を重ねた。
その時に一際強い初秋の風が吹いた。
向日葵は風になびき、黄色い花びらと白い鳥が宙へ舞った。
眩しすぎるくらいの太陽が、スポットライトのように僕たちを照らしていた。
どれくらいの時が過ぎただろうか。
辺りは暗くなっていた。
「じゃあ、また来年も一緒に遊ぼうね!」
「うん。明日からも、会う事があったらよろしく!休みの日は来てもいいからね!」
お別れの挨拶をして僕らは家に帰った。
次の日、日向は交通事故により意識不明の重体となった。
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