第3章 宿題地獄、日向の風景画
毎日毎日遊ぶ中、夏休みの課題があることを思い出した。
残り日数は二週間。
まずい…今までに味わった事のない焦りが僕を襲う。
いつもなら、とっくに終わっている事なのに。
日向にそれを打ち明けると、彼女の自宅へ案内してくれた。
昔ながらの木造住宅…なんとなく見覚えがある気がする。
古い見た目とは裏腹に、内装は意外と綺麗だった。
そして居間に通される。
「おまたせー!」
程なくして日向が麦茶を出してくれた。
大きめのちゃぶ台に向かい合って座る。
「それじゃ、やりますか!」
日向の掛け声で、お互い机に宿題の山を作る。
「ハハハ…」「アハハ…」
相手の宿題の量を見てお互いに苦笑し…麦茶を一気に飲み干し宿題に手をつけた。
正直、僕はただの家庭教師だった。
算数を教えてあげと、その度に感謝と満面の笑みを送ってくれて、とても癒される。
けど…
「葉月、これも!」「助けてー死んじゃう!」「遊びたいよー!」
日向は何のために山を作ったのだろう…宿題は自力でやらなきゃ意味無いのに。
まぁ日向はもう妹みたいなものだ。
宿題関係の事は全部聞いてあげることにした。
その合間、僕は自分の宿題を埋めることに必死だった。
一週間後、僕らは最も大きな宿題に頭を悩ませていた。
「日向、風景画を頼む!」
「葉月、自由研究やってー!」
お互い一番の苦手なもので大ピンチ。
まぁやることは決まっている。
「交換っこしてやろうか。」
「うん!」
小学生並の風景画を高校に提出し、高校生並の自由研究を小学校に提出する事になるだろう。
表彰とか面倒な事にならなきゃいいけど…少し手を抜いてやろうかな。
僕自身の画力は小学生にも劣るので、そこは心配ない。
三日後に完成品を交換する約束をして、その日は帰宅した。
久しぶりに一人でゆっくり過ごせる日が来た。
自由研究は引き受けたその日にネットから拾って終わらせたからだ。
となると丸二日は好きな遊びが出来るってわけだ。
「…日向、大丈夫かな。」
何となくそう呟いて、自分でも何を言っているのか疑問に思う。
いざ休みが取れたとなっても、どう時間を潰せばいいのか分からない。
今までやっていたネットゲームを開いてみるも、全然楽しくない。
親友を誘ってカラオケに行こうか迷ったけど…連絡するのはやめた。
あと一週間ちょっとで学校が始まるのに、あいつはまだ宿題をやってないだろう。
そんな事を考えながら眠りについた。
肝心の二日間は、どうにかして時間を潰すのが大変だった。
朝は早く目が覚めて、日向と遊ぶ事がまず頭に浮かぶ。
もうすっかり習慣だな、と一人で苦笑して二度寝する。
昼頃に目が覚めて、とりあえず自転車で外をひたすら走り回る。
都会ならショッピングセンターとかゲームセンターとか…でもここは田舎だ。
向日葵畑と田んぼしかない道を巡り巡って、夕方に帰宅する。
途中で日向の家に行ったが、どうも人が居る気配が無かったので声はかけなかった。
そんな徒労の二日間で、しかし気分はかなりリフレッシュ出来た。
そして約束の日、無事に日向と僕の宿題地獄はどうにか幕を閉じた。
「出来たよ葉月、これ!」
提出する用なのか、新聞紙にきちんと包まれている。
中身は大丈夫なんだろうか。
「へへー、結構自信あるよ!」
彼女はそう言って新聞をめくった。
そこに描かれていたものは—
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