第17話



第17話〔正義は君の心の中に…〕



「まぐ郎~!まぐ郎~~!!!」


憂樹の叫び声は、青い空に悲しく響いた。


「草村、まだ見てるか?」


風見が草村に聞いてみた。


「ああ、見てるぞ、凄い戦いだったな。なんだか知らないが、相手が仲間割れしたのか?「まぐ郎」とか言ってたな。」


「そうなんだ、憂樹とまぐ郎が、知りあいだったらしくてな、男気に溢れたいい奴だったんだ。」


「ほう、悪の怪人にしておくのは、勿体ない。」


「そのまぐ郎なんだが、そこから何か見えないか?

まあ、壁に大激突したとき、一緒にバラバラになったかもしれないが…」


すると草村は、監視カメラを操作し、まぐ郎が激突した壁の回りをズームアップしてみた。


カメラに写ったのは、ガレキの山だったが、1ヶ所だけ、大きなガレキがモゾモゾと動いていた。


「おい、風見!なにやら動いているガレキがあるぞ!」


「え!?どこだ? 」


「まぐ郎がぶつかった、ガレキの山の左端だ。」


風見と茂は、すぐに言われた所に行ってみた。

そこにはガレキの隙間から、ぴくぴくと動くヒレがのぞいていたのだ。


「まぐ郎!生きてるか?」


ヒレは、相変わらず動いているが返事が無い。


「今、出してやるからな。」


風見と茂は、まぐ郎の上に乗っている、大きなガレキを持ち上げようとした。

しかし、あまりの重さにびくともしない。そこで2人は顔を見合わせ、


「よし!変身だ!」



「超!」

「絶!」


「変身!!!」

「変身!!!」


2人は〔TTT〕と〔ボレノ〕になった。

そして、茂は氷の女王から貰った、氷の玉を取り出し、変身ベルトで解凍しながら、


「からの~!幻!氷!変身!!!」


茂の体が、黒色からシルバーに変わった。

そして、再びガレキに手をかけた。すると、さっきまでピクリともしなかったコンクリートの塊が持ち上がり、下にいた、まぐ郎を引っ張り出した。


まぐ郎は座り込み、「フゥ~」っと、ひと息つくと、


「助かったぜ、ありがとう。赤の戦士、黒の……

あれ!?お前、黒の戦士…だよな?」


まぐ郎が驚くのも無理はなかった。茂が変身したのを見てないからだ。


「まあ、黒でも白でもいい…、さて、続きをやろうか!」


まぐ郎は、ニヤリと笑い2人を見つめた。


そして、風見と茂も、ニヤリと笑い、少し後ろに下がると構えた。


と、そこへ憂樹が叫びながら、走ってきた。


「まぐ郎~!まぐ郎~!!

良かった~!生きてたんだね、まぐ郎~!」


憂樹は、まぐ郎に抱きつき、頬ずりをした。


まぐ郎は、照れて赤くなったが、すぐに憂樹の肩を抱き、


「悪いな、ちょっと離れていろ、俺はコイツらと決着をつけないといけないんだ。」


「え!?まぐ郎?なに言ってるの?風見達と戦うの?」


「ああ、男と男の約束だか……」


「バシッ!!」


「まぐ郎のバカ!!」


まぐ郎が、まだ話終わらないうちに、憂樹の平手打ちが、まぐ郎の顔面を捕らえた。


「なんで戦わなくちゃいけないのよ!あたしがどんだけ心配したとおもってるの!まぐ郎のバカバカバカ~!!!わ~ん!!」


憂樹は、顔を真っ赤にして起こりながら、まぐ郎の体を叩いた。


まぐ郎は、困ったように、風見達を見たが、風見は両手を広げ、「やれやれ…」のポーズをした。


まぐ郎は、憂樹に、


「わかった、わかったよ。でもな、男と男の……」


すると憂樹は真っ赤になった目で、まぐ郎を睨み付け、


「なによ!約束、約束って!約束っていったら、あたしの方が先でしょ。

10年前に約束したわよね!今度会ったら、あたしが食べてあげるって。風見と勝負する前に、あたしと勝負しなさい!」


「え!?お前が、俺様と勝負?」


「ふん!あたしが勝てっこないと思ってるんでしょ、ちゃんとわかってるんだから、だけど今のまぐ郎は、立ってるだけで精一杯なんじゃない?」


憂樹は、まぐ郎を「ドンッ」と押した。

するとまぐ郎は、ヨロヨロとよろけ、方ヒレをついた。


「ほらね。今のまぐ郎なら、あたしでも勝てるわ。

でもね、やっぱり正々堂々と勝負したいから、1週間時間をあげる。まぐ郎は、海に帰って傷を治しなさい。勝負はそれからよ。」



それは憂樹の優しさだった。勝負というのはウソで、大海原にまぐ郎を返したいという純粋な気持ちだったのだ。


「ホラホラ、早く早く!」


憂樹は、まぐ郎を海に向かって、ぐいぐい押した。


「ちょ、ちょっと待て…、俺は冷凍マグロだぞ?」


「だから何?海の王者マグロでしょ?」


まぐ郎は抵抗したが、ほとんど力を使い果たし、体が言うことをきかなかった。

そして、憂樹に押されるがまま、どんどん岸壁に近づいて行った。


その光景を見ていた風見達は、


「何をやってんだ、あいつら?」


「まさか、まぐ郎を海に落とすわけじゃないよな。」


「いくら、怪人に改造されたとはいえ、水揚げされたあとじゃ…。」


「エラって、まだあったっけ?」


「尻尾も無いだろ、あいつ。」


すると、まぐ郎が風見達に助けを求めた。


「お~い!お前ら~!ぼさっと見てないで、コイツをなんとかしろ!!」


「オ、オウ…」


「お~い!神成~!」「憂樹ちゃ~ん!!」


「え~っ?な~に~?

あんた達も手伝ってよ~!」


風見達の声は、海からの風にかき消された。


「待て…待て…待て…待て…助けてくれ~!!」


「せ~の、えい!」


「ドッポッ~ン!!!」


まぐ郎の、必死の抵抗もむなしく、まぐ郎は岸壁から海に突き落とされた。


海に落ちたまぐ郎は、みるみる海底に沈んでいった。

そんなまぐ郎を見た憂樹は、


「見て見て、凄い凄い、もう見えなくなっちゃった。」


そこに駆け寄ってきた、風見達と友生は、まぐ郎が沈んでいった海を見ながら、「あ~あ…」と大きなタメ息をついた。


そんな3人をよそに、憂樹は海に向かって叫んだ。


「まぐ郎~!!あんたはマグロの中のマグロだよ~!!絶対また会おうね~!!!」


そして、風見が憂樹の肩を、ポンッと叩き、


「さて、俺達も帰るか。

草村、残っている愚蓮人は居るか?」


「いや、見回したところ誰も居ない、逃げたんだろう。冷凍装置も壊れたみたいだし、もう冷凍怪人も作られないだろうな。」


「そうか…結局「ユーカ」の居場所は、わからず終いか…。」


落ち込む風見に、茂が肩を抱きながら、


「大丈夫だ!ジョーカー、俺達ならきっと見つけられるさ。」


『そうだよ。僕もいるんだよ。仲間に呼び掛けて、情報を集めるよ。』


トーカも風見を励ました。


そんな中、憂樹は海を見つめ、まぐ郎の事を思っていた。


「まぐ郎、あんたの男気、忘れないよ。バイバイ。」



そんな憂樹を、1台の監視カメラが、ズームアップして来た。




『『ヤット・ミ・ツ・ケ・タ・』』












それから1週間…


運よく漁師の網にかかったまぐ郎は、港に上げられたが、どんな手を使っても解凍出来ず、仕方なくまた海に戻された。

今も、瀬戸内海をただよっているかもしれない。



おしまい。






草村「どうだ!風見!これを映像化しよう!!」


風見「お前…これって…」























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