第16話



第16話〔さらば!まぐ郎!!友情の合体技!!!〕




「茂君!茂君!!」


友生が必死に叫んでる中、茂は夢を見ていた。


真っ白な氷の世界、ただ1人、さまよっている夢だった。


風も音も無い、無限に広がる氷の世界。しかし、不思議な事に、まったく寒さは感じなかった。


「どこだ…ここは?ジョーカーはどこだ?まぐ次郎は?」


「お~い!ジョーカー~~!!育~!!!」


茂は叫んでみたが、誰からも返事が帰って来ることはなかった。


茂は、自分の命が尽きたのだと思い、


「くそ!正義のヒーローになって、これからが面白くなると思ったのに…、

ジョーカーや育、それから、あいつ…友生…って言ったっけ、もっと話したかったな……。」


「くそ!」


茂は、ガックリと膝をつき、氷の地面を叩いた。


と、その時!


茂が叩いた氷の割れ目から、一筋の光が溢れだし、みるみる大きくなって、茂の体を包み込んだ。


「な、なんだ!?」


光に包まれた茂の体は、自分の意思とは関係なく、立ち上り、導かれるように真っ直ぐに歩いて行った。


「何がどうなって… ん?」


少し歩くと、茂の目線に半透明の丸い球体が見えてきた。さらに近づくと、球体の中には、白いドレスを着た女性が、茂を見つめていた。


すると、


「ボレノ。氷の戦士、ボレノよ。私は氷の世界の女王「メズスラーム」、貴方に頼みがあります。

今、この世界は「愚蓮人」達に支配され、氷のの妖精達が絶滅の危機にあります。」


「氷の妖精?」


「そうです。貴殿方も知ってるように、電子の妖精が居れば、水や火といったような、すべての物に、妖精は存在します。

私達、氷の妖精は、自然と共に歩んで来ました。寒くなれば、氷の世界を広げ、暖かくなれば、溶けて水になって、動植物の命の源となり、寒くなれば、また凍る。という事をずっと繰り返してきました。

しかし、愚蓮人たちは違いました。自分達が強制的に氷を溶かせる事を知り、自分達以外が解凍出来ない冷凍技術を開発し、あらゆる冷凍食品を作り、と同時に〔人工知能YOKA〕搭載の電子レンジを作る事で、自分達のテリトリーを広げていったのです。

しかし、それだけでは終わりませんでした。愚蓮人達の冷凍技術は、かなりのエネルギーを必要とします。いろんな物を冷凍化すれば、するほど工場から熱エネルギーが放出され、自然の氷、すなわち私達の世界が、溶けて無くなりつつあるのです。このまま行けば、私達は消滅し、水と氷のバランスが崩れ、この世界は水に底に沈むでしょう。

そこで貴方にお願いしたいのです。愚蓮人の企みを止めて下さい。お願いします。」


氷の女王「メズスラーム」は、深々と頭を下げた。


「いや、俺はもともと愚蓮人達を、ぶっ飛ばす為に来たんだ。でも死んでしまったみたいだけどな。」


「いいえ、貴方はまだ生きてます。今は深い眠りに落ちているだけなんです。」


「え!?俺はまだ生きてるのか!

また戦えるんなら、なんでもいい、あんたの願いを叶えてやるよ!

でも、なんで俺なんだ?他にも居ただろ、赤色の奴とか。」


「いいえ、貴方は氷の妖精達に愛されています。

私はここから、貴方の今までの戦いを見てました。氷の妖精達が、貴方に心を開いているのがわかりました。」


「まあ、俺は、もともと愚蓮人側の戦士みたいな者だからな…冷凍の武器しか使えないんだ…」


茂が頭をかきながら、困ったように言うと、


「貴方になら、私達の力を使いこなせる事が出来るはずです。貴方にこれを預けます。」


すると、茂の足元から、虹色に光る、氷の玉が浮いてきた。

茂がその玉を手にすると、


「それは氷のエネルギーを集めて凍らせた物です。その玉を、貴方が付けているユニットで解凍してください。

そうすれば、貴方は氷の戦士「幻氷蓮人ボレノ」となるでしょう。」


「幻氷蓮人ボレノ…か、気に入った!あんたの願い、必ず叶えてやるよ!」


「さあ、お行きなさい!ボレノ!貴方の大切な人が待ってますよ。」


その瞬間、辺りは眩しい光に包まれた。

そして、友生が必死に叫ぶ中、茂の指が「ピクッ」と動いた。



その頃、まぐ郎と風見は、まぐ次郎と、激しい戦闘を繰り広げていた。


「ガキン!ガキン!!ドガ~ン!!!」


まぐ郎が、吹っ飛ばされ、壁に大きな穴が開いた。二刀流のまぐ次郎に、1本だけしかテールブーメランを持っていないまぐ郎は、押されていた。


そして風見は、ママカリソードいろいろなタイプに変えながら戦っていたが、やはりまぐ次郎には効かなかった。


しかし、まぐ次郎の攻撃をかわしながら、少しづつ距離を詰めていた。



「ハハハ、どうした!お前達2人でも、俺にはかなわないか!!

そろそろ、終わりにしてやる!」


そう言うと、まぐ次郎は1本のテールブーメランを、まぐ郎に向かって、投げつけた。


「ふん!こんなもの、当たるもんか!!」


まぐ郎は、テールブーメランを難なくよけ、まぐ次郎に向かって飛びかかった。


「オラオラオラ~!!!どうした!さっきの威勢はどこ行った~!!!」


まぐ郎の、凄まじい攻撃に、まぐ次郎は防戦一方に見えた。

が…しかし!まぐ次郎の口元がニヤリと笑った。


さっき、まぐ郎に向かって投げたテールブーメランが弧を描き、まぐ郎の背中に向かって飛んで来ていたのだった。

攻撃に夢中のまぐ郎は、まったく気が付いていない。

そのことに気付いた風見が、


「まぐ郎!危ない!!!」


「スバァ~!!」


「ぐわぁぁぁ~!!!!」


叫び声をあげたのは、風見の方だった。

テールブーメランが、まぐ郎に当たる直前、風見が体当たりをし、まぐ郎を突き飛ばしたのだ。


しかし、風見もよけきれず、背中に傷をおってしまった。


「な、何をやってる!赤の戦士!?」


「フッ、別にお前を助けた訳じゃね~よ。ただお前がやられると、この後の楽しみが無くなるからな。」


「ほぉ~、人間にもこんなバカ野郎が、まだ居たのか。」


まぐ郎は、漁師との死闘を思い出していた。

マグロ漁師は、生活がかかっている、まさに生き死にの問題だ。マグロは命そのものがかかっている、そんなお互いが、死闘を繰り返すうち、お互いの実力を称え合うようになっていたのだ。

まぐ郎は、漁師は敵だが、尊敬もしていた。

と、同時に、もうひとつ思い出した事があった。


それは、まぐ郎が針にかかった時、いくら力任せに引っ張ってもテグスが切れず、逆に力がかかって無いように感じたことがあったのだ。


漁師は、まぐ郎の動きに合わせ、船を進め、テグスを緩め、まぐ郎の力を半減させていたのだ。

その事に気が付いたまぐ郎は、


「そうか、力を受け流すのか!」


それからは、まぐ次郎の攻撃を真正面から受けず、冷凍マグロとは思えないような柔らかい動きで、テールブーメランの攻撃を受け流していた。


「くそ!冷凍マグロのくせにクネクネと!!

これなら、どうだ!!!」


まぐ次郎は、再び片方のテールブーメランを投げつけた。

そして、その瞬間をトーカと風見は見逃さなかった。


『翔!今だ!!』


「まかせろ!!ママカリソード〔柔〕!!!」


風見は飛んでるテールブーメランに向かって、ママカリソードを放った。

そして、ママカリソードが絡み付つくと、テールブーメランは大きく軌道を変え、まぐ次郎に向かって行った。


「まぐ郎!!同時攻撃だ!!!」


「お!?おう!わかった!!」


まぐ郎は、真正面から、風見は真後ろから、一斉にテールブーメランを降り下ろした!


「くそっ!」


「ズバッ!!ガキ~ン!!!」


「ぎゃあぁぁぁぁ~!!!!!!!」



凄まじい衝撃波で土ぼこりが舞い、3人の姿が見えなくなった。


そして、土ぼこりが晴れると、まぐ次郎は持っていたテールブーメランで、後ろからの風見の攻撃を防いでいた。

しかし、まぐ郎の真正面からの攻撃も、まぐ次郎には届いていなかった。


その代わりに、まぐ次郎の足元には、まぐ三郎が血だらけになって転がっていた。


「ひ、ひどいよ…まぐ次郎…に、兄さん…」


「う、うるさい!お前も悪の怪人なら少しは役にたて!!」


「ま、まぐ三郎!!す、すまない!お前を傷つけるつもりはなかったんだ。」


まぐ郎は、まぐ三郎のヒレを取り、謝った。



まぐ次郎は、まぐ郎のテールブーメランが当たる直前、近くで休んでいた、まぐ三郎を引き寄せ盾にしたのだ。


『なんて奴だ、仲間を盾にするなんて…』


トーカは、まぐ次郎の非道さに恐怖した。


その時、3本のテールブーメランに一斉にヒビが入り、粉々に砕け散った。


激しい打ち合いを繰り返すうち、テールブーメランも限界を超えたのだ。



「くそ!もう武器がない!」


風見は一端後ろに飛び、距離を取った。


「なんだ、なんだ?これで終わりか?俺にはまだコイツがあるがな!」


「スパッ!!」


まぐ次郎は、鋭利なヒレで、近くの柱を真っ二つにした。


まぐ郎は、まぐ三郎を抱え、少し離れた所に寝かせた。


「ここで待ってろ、後で手当てしてやる。」


「ま、まぐ郎…兄さん…」


まぐ郎は、顔を真っ赤にして立ち上り、


「もう頭に来た!!!おい!赤の戦士!!俺をそのムチで投げろ!!」


「な、なんだって!?」


「俺をそのムチで振り回して、アイツにぶつけろって言ってんだよ!!!」


それを聞いた、まぐ次郎は、


「アハハハ!お前の体当たりなんか、恐くないぜ!!!

お前は知らないだろうが、俺の方が新技術で固く冷凍されているんだよ!」


「ふん!それがどうした!!そんなもの、やってみなきゃわからないだろ!!赤の戦士、力を貸せ!!!」


「お、おう!わかった!!」


「本当は、お前達を倒す為の必殺技だったが、そうは言ってられない!早くしろ!!」


「よし!いくぜ!まぐ郎!!ママカリソード〔柔〕!!」


風見は、まぐ郎にママカリソードを巻き付け、力任せに振り回し始めた。


「く、くそ!なんて重さだ!」


風見は、渾身の力をかけ回したが、あまりのまぐ郎の重さと、蓄積された戦いのダメージで、足元がふらつき、回転が定まらなかった。


「おい!赤の戦士!しっかり回せ!!もっとだ!!!」


「わ、わかってるよ!!」


まぐ郎の言葉に、奮起した風見だったが、やはり足に力が入らず、体制を崩した。


「し、しまった!!」


その時!!!


「ガシッ!!」


誰かが、風見の後ろから体を支えた。


「待たせたな、ジョーカー。」


その声を聞いた風見は、


「茂!?もう大丈夫なのか?」


風見は、一瞬後ろを振り向き、茂を確認し、前を向いたが、


「え!?」


再び後ろを向いた。


「お、お前!その色!?」


風見が驚くのも無理はなかった。今まで真っ黒だった体が、シルバーに輝いていたのだ。


「ああ、これか?なんでも俺は、氷の戦士〔幻氷蓮人ボレノ〕になったらしいんだ。」


「幻氷蓮人?」


「詳しい事は、あとで話すよ。まずはアイツを倒すぞ!!!」


「OK!行くぞ!」


「おおおおお~!!!」

「うおおおおお~!!!」


風見と茂が、2人がかりで、まぐ郎を回した結果、目に見えない程の回転がまぐ郎にかかった。その時、まぐ郎が、


「よし!今だ、離せ!!」


その声を聞いた風見は、ママカリソードを緩め、まぐ郎を解き放った。


すると、まぐ郎の体はドリルのように回転し、まぐ次郎に一直線に向かって行った。


「これが、俺の必殺技!「まぐ郎大回転ドリルアタックSP」だ~~~!!!!」


まぐ郎の回転は、さらに増し、大きな光の矢となり、まぐ次郎の体を貫いた。


「な、なん…だ…と…」


体を貫かれた、まぐ次郎は、信じられないという表情をし、叫び声をあげる暇もなかった。


さらにまぐ郎は、勢い余って、後で休んでいた、まぐ三郎の体も貫いた。


「な…なんで…僕まで…」


そして、まぐ郎は、勢いそのままに、壁に大激突

した。


「ドッガ~ン!!!」


貫かれた、まぐ次郎とまぐ三郎は、大爆発を起こし、バラバラになってしまった。



風見と茂は、ガックリとしりもちをつき、


「やったな、茂。」


「おう、終わったな!」


変身を解いた、風見と茂の元に、友生と憂樹が走り寄って来た。


「翔君~!茂君~!!」


「お~い!風見~!茂~!」


そして友生は、茂に抱きついた。


「良かった~!良かった~…無事でいてくれて良かった~!」


半べそをかいてる友生を、優しく撫でる茂だった。


その光景を見た憂樹が、仕方なさそうに、風見に抱きつこうとした。


「風見~~!」


いつもなら、すぐに避ける風見だが、今回はまともに抱きつかせ、なおかつ、風見の方からも抱き締め、


「今回は、お前のおかげだ、礼を言うよ。」


と、優しく呟いた。


いつもと違う風見の行動に、意表をつかれた憂樹は、恥ずかしくなり、すぐに風見から離れた。


そして、そんな自分をごまかすかのように、


「そ、そういえば、まぐ郎は?」


一同は、ハッと思い出したように、辺りを見回した。


しかし、誰もいなかった。工場の残骸だけが広がっていた。

残っていた戦闘員達も逃げ出したみたいだ。


「まぐ郎…まぐ郎……」


憂樹の目から、大粒の涙がこぼれた。


「アイツは命を懸けて、お前を守ったんだ、たいしたマグロだよ。」


すると憂樹は、首を横に降り、


「ううん、違うよ、マグロじゃないよ、あたしのまぐ郎だよ。

まぐ郎~!ま~!ぐ~!ろ~!!」


憂樹の叫び声は、青い空に、悲しく響いた…




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