第15話



第15話〔幸福の髪飾り?憂樹の星が、勝機を呼ぶ!?〕




「…風見…すまない、友生と憂樹が捕まった……」


草村の悲痛な声が、風見の耳に届いたと同時に、工場の扉が開き、後ろ手に縛られた友生と憂樹が、戦闘員に連れられて現れた。


「友生!憂樹!!」


すると、友生が、


「ごめん…翔君…捕まっちゃった…」


憂樹も、


「へへへ、ごめんね…」


「まぐ次郎様!コイツらが工場内をうろついてました。」


戦闘員が、まぐ次郎に近づき報告をした。


「ふん!何を探してたか知らないが、無駄骨だったな、それにこれでお前らの負けは確定だ!!ハハハ!」


まぐ次郎は、風見を指差し笑った。その姿を見た憂樹は、


「え!?まぐ郎?」


それを聞いた、まぐ次郎は、


「なんだと!あんな奴と一緒にするんじゃない!俺は「まぐ次郎」だ!」


すると、いままで寝転がって戦いを見ていた、まぐ郎が、


「あ!お前は昨日の生意気な娘!!」


「え?まぐ郎が2匹?」


「僕もいるよ。」


2人の後ろから、まぐ三郎が現れた。


「3匹!? 」


友生も振り向き叫んだ。


まぐ次郎は2人に近づき、


「ほう、2人とも、けっこう可愛いじゃないか、冷凍して、俺様のコレクションにしてやろうか?」


まぐ次郎は、友生の頬をヒレで優しく撫でた。


「い、嫌……」


「やめろ!友生達に触るな!!」


風見が叫ぶと、


「おっ~と、動くなよ、動くとコイツらの体がバラバラになるぞ。さっさと武器をおけ!」


「くっ!」


風見は、ガックリと膝をつき、ママカリソードを地面に置いた。


すると憂樹が、


「まぐ次郎とか言ったわね!絶対許さないんだから、あんたなんか三枚におろして食べてやる!!」


「ほう、お前は俺様が怖くないのか、気に入った。アイツらを倒したら、まずお前を冷凍保存して俺様の部屋に飾ってやるよ。

そういえば、さっきも同じことをを言ってたヤツがいたな、あそこでくたばってるがな。アハハハハハ!!」


まぐ次郎が指差した先には、目を閉じピクリとも動かない、茂の姿があった。その姿を見た友生は、


「茂君……? 茂君!茂君!!!嫌ぁ~!!!!」


友生は泣きながら叫んだ。すると、


『大丈夫だ、友生。茂は今、寝てるだけだよ。』


友生をなだめるかのように、トーカの声が聞こえて来た。

泣きじゃくる友生に対して、まぐ次郎は、


「ええい、うるさい奴だ、おい!まぐ郎!コイツらお前の知り合いなんだろ、静かにさせろ!」


「だから、命令するんじゃねぇ!俺はお前の兄貴だぞ!」


まぐ郎は、文句をいいながらも、友生達の側に行った。


「おとなしくしてれば、命までは取らない、静かにしてろ。特にお前には、進化のヒントを与えてもらったからな。」


そう言いながら、まぐ郎は憂樹の頭を撫でた。すると、


「ん?お前のその頭に付いてるヒトデはお前のか?」


「…?ヒトデ?なに言ってるの!これは星、お空のお星さま!」


「いいや、これはヒトデだ!海の王者が言うんだから間違いない!!」


「違うよ~!星だってば!友生も持ってるもんね、お揃いの星。」


すると友生は憂樹の顔をチラッと見て、すぐに下を向き、


「あ、あのね憂樹…、言いにくいんだけど、ボクもヒトデじゃないかなぁ~って思う…」


「も~、友生まで何言ってるのよ~、そんなわけないじゃん。」


「だって、表は黄色だけど、裏は赤色で黒い点々みたいな模様があるし、真ん中に口みたいな物が…」


「マジで…?」


「うん…マジ…。」


「「本気」と書いて…?。」


「「マジ」と読む…。」


「マジなのか~…。」


そのやり取りを見ていたまぐ郎は、何故か自分が子供の頃の記憶が甦ってきた。


それは昔、群れからはぐれ、さまよい、空腹から釣りえさに食い付き、釣り上げられた時の事だった。


船の上には4、5人の大人と小さな子供が2人居た。

まぐ郎を釣り上げた男性は、「カツオ」を釣ったと喜んだが、船長が「まだ子供のマグロだな」と言うと、子供の1人が、


「子供は食べちゃダメだよ~、かわいそうだよ~、お父さんも、お母さんも心配してるよ~、お家に返してあげようよ~。」


すると、釣り上げた男性は優しく微笑み、


「アハハ、そうだな、お父さんもお母さんも心配しているよな、きっと。じゃあ、お家に返してあげよう。」


「よかったね、君。」


その女の子は、小さなマグロの頭をポンポンと叩き、ウインクをした。


するともう1人の女の子が、


「でも憂ちゃん、ホントにいいの?マグロって、すごく美味しいらしいよ。」


「え?マジ?」


「うん、マジ。」


「真面目にマジ?」


「真面目のマジ。」


「「本気」と書いて?」


「「マジ」と読む。」


「そっかぁ、マジなのか~」


その女の子は、マグロを見ながら、少し考え、


「いい!やっぱり海に返してあげる。だって小さいと食べる所が少ないでしょ。もっともっと大きくなって、また会おうね。その時は全~部あたしが食べてあげる。

それまで誰にも釣られちゃダメだよ。」


そして、そのマグロの子供のお腹にマジックインキで、「ユウキ」と書いた。


「これで、この子はあたしのマグロ。名前はね、…「まぐ郎」! 」


「もう、憂ちゃんたら~。」


そして、小さな「まぐ郎」は海に返された。


「バイバイ!まぐ郎!きっとまた会おうね~!!」


その時は、まだ人間の言葉を理解出来なかった、まぐ郎だったが、今、まさに同じようなやり取りを、目の前でされていたのである。


そして、まぐ郎を助けた女の子の頭にも、黄色いヒトデが付いていたのだ。まぐ郎は、まさかと思い、


「お、おい…お前ら!10年ぐらい前に、沖縄で釣りをしなかったか?」


「沖縄~?そんな昔の事は忘れた~。」


憂樹がめんどくさそうに答えると、友生が、


「ほら、小学校の入学祝いに、みんなで沖縄に行ったじゃない。憂樹の家族とボクの家族で。」


「あ!そうだ!この「お・星・さ・ま!」もその時買ったんだ。」


どうしても「ヒトデ」とは認めたくない、憂樹だった。


「その時、マグロの子供を助けなかったか?そのマグロが俺だ!」


「マグロ?」

「マグロ?」


「あ!!」

「あ!!」


2人は顔を見合わせ、


「憂樹がお腹に名前を書いた!」


「あたしのまぐ郎!!」


「そうだ!あの時のマグロが、この俺様、まぐ郎だ!お前達のおかげで、ここまで生きて来られた。

こう見えても、俺は律儀でな、借りた借りは必ず返す。例え、それが敵でもな。」


そう言うと、まぐ郎は、まぐ次郎に向かって、


「おい!まぐ次郎!」


「あ??なんだ?まぐ郎!」


「コイツら2人は俺様が頂く!」


「なんだと!? ハハァ~ン、お前もコイツらが気に入ったのか?

どうするんだ?冷凍にして部屋にでも飾るつもりか?」


「いいや、自由にしてやる。」


「なんだと!? お前、自分が何を言ってるのかわかっているのか!!」


「ああ、わかってるよ!「逃がしてやる」って言ってんだよ!」


「まぐ郎!お前裏切るのか!!それでも悪の怪人か!」


「悪の怪人だ?そんな事は関係無い!!たまたま俺を買ったのが、この会社だっただけだ!

そもそも、命をかけた戦いに人質は必要ない!

俺は毎年、大間の海で漁師たちと命懸けの戦いをして来たんだ!マグロの誇りをかけてな!!

大西洋産のお前達には分からないだろうがな!」


そしてまぐ郎は、憂樹と友生の縄を切り、


「ほら、早く行け!」


2人を逃げるようにうながした。

すると、まぐ次郎が、


「逃がすか!おい!コイツらを捕まえろ!!」


命令された戦闘員達は、すぐさま2人に襲いかかった。


「動くな!!!!!!!」


まぐ郎の一言に、その場にいた全員が「ピタッ」と止まった。憂樹と友生も思わず走る格好のまま止まっていた。


「いや…、お前らは早く行け…」


まぐ郎は2人の背中をヒレで押した。


「逃がすものか!!!」


まぐ次郎は、逃げようとする2人に向かって、テールブーメランを降り下ろした。


「ガキッ!!」


まぐ郎は、持っていたテールブーメランで防ぎながら、憂樹達に叫んだ。


「さっさと行け~!!!」


「くそ!まぐ郎!!俺達に新しい命をくれた〔ユーカ〕様まで裏切るのか!!」


「ユーカ?」

「ユーカ?」


友生と憂樹は、その言葉に、再びピタッと止まった。そして憂樹が、


「ユーカがここに居るの!?」


「あ?お前、ユーカ様を知っているのか!?

残念だったな、ユーカ様は、ここには居ない!誰もユーカ様の居場所は知らない!お前らがユーカ様に会おうなんて、100万年早いんだよ!!」


「ホント?まぐ郎?」


憂樹がまぐ郎に聞いた。


「ああ、本当だ。ユーカ様の居場所は、組織の誰にも知らされていない。完全なトップシークレットだ。

そんな事はいい!早く行け!!!」


友生と憂樹は再び走り出した。そして、


「まぐ郎!今度は寿司屋で会おうね~!!」


そう叫びながら、風見の所へ走っていった。



その一部始終を見ていた風見は、


「なんだ?なんだ?何がどうなっているんだ?」


するとトーカが、


『どうやら、仲間割れを始めたみたいだな。』


そこへ憂樹が走って来た。


「なんだ!何がどうなっているんだ?」


風見は、憂樹を捕まえ問いただした。


「あ、あのね、まぐ郎は、あたしのまぐ郎なの。お願い、まぐ郎を助けて!」


「え!?お前のまぐ郎?どうゆう事だ!?」


「いいから!早く!!!」


珍しく、憂樹が真顔で叫んだ。そしてトーカが、


『翔!チャンスかもしれない。まぐ郎となら、あのまぐ次郎を倒せる!」


「よし!わかった!!

おい!まぐ郎!2人を救ってくれた事には感謝する!とりあえず、まずそいつを倒すぞ!!」


「ふん、いいだろう!後で、お前とは正々堂々と決着をつけてやる!!」



そのころ友生は、一目散に茂の所に駆け寄っていた。


「茂君!!茂君!!!」


友生は、ボロボロになりながら寝ている茂を抱き締めた。


茂はその時、夢を見ていた。


真っ白な氷の世界を1人、たださまよっている夢だった。





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