第12話
第12話〔風見とジョーカー、憂樹とユーカ〕
草村のマンションに着いた一同は、風見の手料理を食べながら、今日の出来事を、何も知らない清美に説明しようとしていた。
「草村、ホントに牛串の肉をチャーハンに入れて良かったのか?あんなに食べたがってたのに、茂まで用意してたなんてビックリだよ。」
「ああ、いいんだ、いいんだ。話は聞いた、委員長が身をもって守ってくれたんだろ?そんな大切な物を、わたし1人でばくばく食べるわけにはいかないだろ。
それはそうと、何から話そうか…」
「わ、私は…」
清美は食べるのを止め、風見を見た。
「まあ、とりあえず、みんなが1番気にしてる事からだな、
ということで、なぜ風見が「ジョーカー」と呼ばれているか?」
「ぶっ!ゲホゲホ…」
それを聞いた風見が、口に含んでいたジュースを吹き出した。
「異議な~し!」
「異議な~し!」
友生と憂樹が、声を揃えて手を挙げた。
「そ、そんな事はどうでもいいだろ!人類の未来がかかってるかも知れないんだぞ!?
な?委員長、別に知りたくないよな?」
風見は清美に同意を求めたが、清美は草村に向かって「お願いします」というように頭を下げた。
「そうだぞ、風見。大きな疑問を解決するには、まず目の前の小さな疑問から解決して行くんだ。」
「育の言う通りだ、ジョーカー、みんな仲間なんだから、秘密は無しにしようぜ。」
茂も話に加わり、風見の小学生時代の話になった。
「実はな、風見が小学3年生の時、いきなり自分のイニシャルは「シーカー」だって言い始めたんだ。」
「シーカー」?
「シーカー」??
友生と憂樹が顔を見合わせた。
「まあ、風見の勘違いだったんだがな。名前の最初の文字と苗字の最初の文字を言うのがイニシャルだって教えてもらったから、「翔」の「し」と「風見」の「か」で「シーカー」だとさ、笑っちゃうだろ。」
「それから、少しの間はシーカーだったんだけど、なんかいつの間にか「ジョーカー」になっていたんだな。」
茂が風見の肩を抱き、草村の話を補足した。
そして、草村は話を続けた。
「中学になって、さすがにジョーカーは恥ずかしいから、内緒にしてくれって頼まれたんだよな、茂。」
「まあ、中学になっても言ってたのは俺ぐらいだったけどな。」
「どうだ!これが風見の黒歴史だ!」
すると憂樹が、
「なんだ、風見って案外バカだったんだ。」
「う、うるさい!お前に言われたくない!
さ、さあ、もういいだろ、本題に入ろう。」
この話を聞いた清美は、
「風見君、可愛い。」と心の中で思った。
「草村、愚蓮人のアジトはわかったのか?」
風見が話を切り出すと、清美が、
「愚蓮人?」
すると風見は、これまでに起こった事を清美に説明した。電子レンジに妖精がいること、蓮人のトーカが友生の中にいること、愚蓮人という悪の団体がいること、自分と茂が変身出来た理由など、細かく説明した。
にわかに信じられない清美だったが、風見が嘘をつくような人間では無いことを清美が1番よく知っていた。
「まだ、よくわからないけど、嘘じゃなさそうね。」
そこに意外な人物が入って来た。
「あたし、電子レンジの妖精知ってるよ。」
それは憂樹だった。今まで、蓮人の話の時は、聞かれないよう、他の部屋に遠ざけていたのだが、その蓮人を知ってるというのだ。その事に1番驚いたのは、幼馴染みの友生だった。
「え!?ゆ、憂樹!?な、なんでトーカの事、知ってるの?」
「トーカ?なにそれ?あたし、友生にも言ったよ。
え~っとね、小学校に入学したばかりの頃だったかな?うちに新しい電子レンジが来てね、その中に「ユーカ」っていう妖精がいたんだよ。」
『ユーカ』!
「ユーカ」!?
「ユーカ」!!
風見、友生、トーカの3人は聞き覚えのある名前に強く反応した。
「あれ?あたし友生にも言ったよね、うちの電子レンジには妖精が居るんだって。」
「え!?そんなこと言ったっけ?」
「言ったよ~!そしたら友生が、「そうなんだ、凄いね」って言ってくれたもん。」
「そうなのか?友生?」
『そうなのか?友生?』
風見とトーカが、一緒に友生に聞いた。
「そういえば、言ってたような…よく覚えてないや。だって、ボクには何も見えなかったし、聞こえなかったし、また憂樹の妄想物語と思ったんだと…思う…」
「それからユーカはどうした?」
風見が真顔でたずねた。
「ん~知らない間に、違う電子レンジになってたからわからない。それにあとから来た電子レンジには妖精とか居なかったし。」
『そういえば、半年間ぐらい、一般家庭にモニターとして出てた時期があったな。』
そう言うと、トーカは憂樹の頭の中に入った。
『はじめまして、憂樹。僕もユーカと同じ、電子レンジの妖精なんだ。』
すると憂樹が、
「あ!そうそう、こんな感じ!いきなり話しかけられたんだ。でもなんか違~う 。ユーカは女のコだったよ。それにこんな「へんちくりん」じゃなかったし。」
『へ…へんちくりん…』
トーカは憂樹の頭から出てすぐに友生に戻った。
そして友生が代わりに話始めた。
「トーカとユーカは兄妹みたいな物なんだって。だから今、ユーカを探しているんだ。それでさっきの黒い愚蓮人のアジトに居るんじゃないかってアジトを探そうとしたら、戦いになっちゃって…」
「え!?じゃあさっきののはヒーローショーじゃないの!?マジなやつ?え?え?じゃあ、風見も茂君もホントに変身したの? 」
「そうだぜ、俺とジョーカーは変身出来るんだ。カッコイイだろ!ていうか、お前らそんな奴らと戦ってたのか?」
「いや、戦ったのは今日が初めてだけどな。」
すると憂樹が、
「うわ~、じゃあ「まぐ郎」ってホントに強いんだ。」
「マグロンな、マグロン」
風見が訂正した。
「で結局、アジトはわかったのか?」
風見が草村にたずねた。
「いや、あれだけど派手に戦ったからな。防犯カメラも途切れ途切れでどれが愚蓮人の車かわからなかったんだ。わたしも戦闘に夢中だったし、でも最後の最後に神成がファインプレーをしてくれた。
神成が愚蓮人に渡した袋の中に、わたしが風見に渡した発信器が入っていたんだ、それでさっきから発信器をたどっていたら、ある会社で止まった。「氷山商事(こおりやま)」だ!」
すると友生が、
「氷山商事って、たしか氷河君のお父さんの会社じゃなかったっけ?」
すると風見が、
「また、あいつか…」
「また?」
茂が風見に聞いて来た。
「あ、いや、なんでもない。それよりどうする?今から乗り込むか?」
すると草村は、
「いや、今日は止めておこう、愚蓮人達も警戒してるかもしれない。」
『そうだな、育枝の言う通りだ、ただ、間が空くと、また戦闘員が増えるかもしれないから、なるべく急いだ方がいいだろう。でも今日は、育枝とじっくり話がしたいから、明日まで待ってくれ。』
トーカが友生の体を使って話した。すると友生が、
「え~!トーカがじっくり話すって事は、ボクの体はずっと起きてなくちゃいけないの?」
『いや、それは大丈夫。翔が変身したことによって、ユニット内に僕の部屋が出来た。そこに入れば、スピーカーを通して育と話が出来るんだ。あの大量生産のユニットを、あそこまで改造出来るなんて、凄い才能の持ち主だからね。翔のユニットもパワーアップ出来るかもしれない。』
「そうだな、今のままじゃ、マグロンには勝てない。何か作戦を考えないとな。とりあえず、もう遅いから女性陣は隣の部屋で寝てくれ、風呂場はわかるよな。」
「まかせといて、あたしが案内するから。」
憂樹が友生達を連れて、隣の部屋に入った。そして扉を閉めながら、清美が、
「お、おやすみなさい…」
と、誰を見るでもなく言ったように見えたが、しっかり視線は風見に向いていた。
「さて、風見と茂は「ダイスケ」の部屋な。」
「な、なんだと!?」
「俺たちは猫の部屋で寝るのか!?」
「大丈夫、大丈夫、お前達2人は、ダイスケのお気に入りだから、ちゃんと添い寝もしてくれるぞ。まあ、少しの間は作戦会議に参加してもらうがな、女性陣のお風呂が終わるまでは、ここにいてもらう。」
そして、その夜は遅くまでトーカと草村は話し合った。風見と茂も話に加わっていたが、疲れからか、2人共その場に寝転んで寝てしまった。
そして朝日が昇り、アジト潜入作戦が開始されようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます