第8話


第8話〔その名はTTT〕



友生達が、自分の旧友と出逢ってる事など、まったく知らない風見は、牛串の袋を持って、2人が来るのを待っていた。


「遅いな、あいつら場所知らないのか?早く来ないと、愚蓮人の奴らが来てしまうぞ。」


そんな風見の前に、浴衣を着た綺麗な女性が現れた。


「こんばんわ、風見くん。」


風見は、その声に気付き振り向くが、その女性が「委員長」とわかるまで少し時間がかかった。


「え!?あ?い、委員長!?」


綺麗に着こなした浴衣、長い黒髪をアップにし、ほんのり化粧をした、その姿は風見の目を釘付けにした。

そんな固まってる風見の反応に、照れたように、


「へ、変かな?…」


「い、いや。とっても綺麗だ……」


いつもは少しふざけ気味に話す風見が、いつになく真顔で答えた。


そんな予想外の風見の反応に、清美は赤くなり、下を向いて、


「あ、ありがとう…」


それだけ言うのが精一杯だった。


風見は、ハッと我に返り、今までの言動が冗談だったかのように、


「い、委員長もここの牛串を買いに来たのか?」


「う、うん、風見くんが美味しいって言ってたから…


すると風見が、


「ちょっと待ってろ、買ってきてやるよ。」


そう言うと、店に向かって走り出した。


そしてものの数分もしないうちに、風見が帰ってきた。


「ほら、これ…」


風見は牛串の入った、小さな紙袋を清美に手渡した。


「ありがとう。じゃあこれ。」


清美は風見に代金を払おうと、お金を渡そうとした。

すると風見が、


「いいって、いいって、祭りだからな、おごるよ。」


「ダメだよ。お金の事はちゃんとしないと!」


少し強い口調で言ってきた。

そんな清美に風見は、


「プッ…アハハ、やっぱり委員長だ。アハハ。」


「え?なによそれ!フフフ…まあ、いいわ祭りですもの、許してあげる。

ね、ねぇ、風見くん…よかったら一緒にお祭り回らない?」


「え?ああ、ちょっと待っててくれないか?もうすぐ友生達も来ると思うんだ、それから一緒に行かないか?」


風見には愚蓮人のアジトを突き止める使命がある。かといって、愚蓮人が来るこの場所へ委員長を放っておくことは出来ない。委員長の隣には妹の香も来ていたからだ。


「上地さんも来てるんだ、ということはもちろん神成さんもよね。」


「ああ、あいつらいつも一緒だからな。な、委員長、大勢で回った方が楽しいぜ、香ちゃんも多い方がいいだろ?」


風見の問いかけに、はにかみながらも、コクンとうなずく香だった。


「仕方ないわね、香がいいならいいわよ。」


ホントは風見と2人きりがよかったが、清美もしぶしぶ了承した。


清美が友生達を探そうと辺りをキョロキョロしてると、人混みが二つに割れ、真ん中を黒い全身タイツの集団がこちらに向かって歩いてきた。


その回りの人達は、異様な光景にスマホをかざし写メを撮りながらザワついていた。


「なんだ、なんだ?映画の撮影か?」

「このくそ暑いのに、全身タイツとは、ご苦労なこった。」

「アハハ、キモ~イ!」


最初、みんな笑いながら見ていたが、その笑い声はすぐに悲鳴に変わっていった。

1人の戦闘員が、牛串の紙袋を持った男性に襲いかかったのである。

男性は殴られ、たった一発で気絶させられた。

その男性が弱かったわけではない。

もともと人間は潜在能力の10%~20%ぐらいしか出してないと言われる。それ以上出すと体の組織が壊れるからだ。

そのため、脳が体を守るためにリミッターをかけ、力が出ないようにしてるのだ。


しかし愚蓮人は戦闘員といえど電磁波により、リミッターは解除され、個人差はあるが30%~40%は出るようになっていた。そして、あの暑苦しくダサい黒タイツも、その潜在能力が発揮できるように開発された、特殊ボディースーツだったのだ。


1人の戦闘員の行動がきっかけに、他の戦闘員も暴れ始めた。


その光景を見た風見は、昨日、草村に言われた言葉を思い出した。


「今までは、ちゃんとお金を払って買っていたんだが、中には強盗まがいの事をする奴らも増えてきてるみたいだ、気を付けろよ、風見。」


中には反撃を試みる男達もいたが、相手はプロレスラー並みの怪力を持つ集団だ、向かって行った男達は木の葉のように舞っていた。


「くそ!トーカはまだか!とにかくここから離れないと、逃げるぞ委員長!」


風見は清美の手を、清美は香の手を取り、その場から逃げようとした。

しかし、風見が振り向いた目の前に、反対方向から来た戦闘員が立ちふさがっていたのである。

その戦闘員が、風見に向かって、


「おい!その紙袋をよこせ!!」


風見は、抵抗すれば清美達に危害が及ぶと思い、素直に紙袋を渡した。しかし、その紙袋の中に、発信器を入れる事は忘れていなかった。

風見は心の中で、


「あとで見てろよ、倍返しにしてやる!」と呟いた。


そんな風見を押し退け、戦闘員は清美の紙袋を奪おうとした。清美は風見を見たが、風見は「抵抗するな、素直に渡せ。」と言うように、首をたてに振った。


しかし、清美は両手で紙袋を抱えたまま、渡そうとはしなかった。


「委員長!!抵抗するな!そんなもの渡してしまえ!」


風見の説得に清美は、


「いや!これは風見くんから初めてもらった物なの!だから絶対渡さない!!」


すると戦闘員が、


「つべこべ言わずに渡せ!!!」


清美の隣にいた香を突飛ばし、清美に近づいた。


突き飛ばされた香は、転び、腕から血が出ていた。清美はすぐに駆け寄り、


「大丈夫!香!」


「痛いよ~お姉ちゃん…」


泣いてる香を無視し戦闘員は清美の髪の毛を、わし掴みにし、立たせようとした。

その時!


「プチン!!!!!!」


その光景を見た風見の中で何かが弾けた。


「…わ…るな………!!委員長に触るな~!!!」


風見のポケットに入れていた、あの赤い箱が、赤く輝き、風見の体が真っ赤になって、まるで炎をまとっているようだった。


「ふん!ただの人間に何が出来る!」


そう言うと、戦闘員は風見に向かって行った。


と、同時に風見も戦闘員に向かって走って行った。


「うおおおおおおおおおおおおお~~!!!!!!」


風見はありったけの力を込め戦闘員の顔面を殴った。

非力な人間のパンチと、たかをくくっていた戦闘員の顔は歪み、後ろに立っていた他の戦闘員をも巻き込み、ぶっ飛んだ。


「キャア!風見くん!!」


戦闘員をブッ飛ばした風見を見た清美が叫んだ。


というのも、風見が殴ったと同時に、風見の拳からも血が吹き出ていたのである。あまりの衝撃に風見の体が耐えきれなかったのだ。


戦闘員が吹っ飛ばされた光景を見た、他の戦闘員は暴れるのを止め、風見の回りに集まりだした。


「お~お~お~、大勢で1人をボコボコにするってか?上等じゃね~か、お前ら全員ブッ飛ばしてやるよ。」


風見は血の滴る拳をさらに強く握りしめ、戦うポーズをした。


「もう、止めて!!!!風見くんが死んじゃう!!」


清美が叫んだと、ほぼ同時に、風見の頭の上を黒い物体が飛んで来た。


「いヤッホ~い!!!」


そして、そのまま風見の真正面に居た戦闘員に飛び蹴りを喰らわせた。


そして、すぐに風見に駆け寄り、


「おいおい、1人で楽しい事してんじゃね~よ。俺にもやらせろ。」


「お、お前は「シゲ」か?」


「ああ、久しぶりだな「ジョーカー」。」


すると赤い光が収まり、


「ば、バカ、その呼び方はするな!」


風見は違う意味で赤くなった。



「大丈夫?委員長、香ちゃん。」


友生は清美に駆け寄り、声をかけた。


「う、うん、私は大丈夫だけど、風見くんが…」


その風見は戦闘員を殴り、蹴り倒しながら、久しぶりに会った茂と話していた。


「お、お前、何で?その力は?」


茂も戦闘員を殴り倒しながら、


「ああ、育(草村)の奴から面白いものをもらったんだ。なんでも持ってるだけで力が強くなる機械らしいんだと。でも力を入れすぎると体が壊れるらしいがな。俺は、育が作ってくれた、このシャツとGパンで少しは体の負担を軽くしてくれるんだが、お前はそうじゃないみたいだな。」


茂の言う通り、風見は殴る度に手足から血が飛び散っていた。



その時、目覚めたトーカが風見に向かって叫んだ。


『翔!その「TTユニット」をお腹の前に付けろ!』


「TTユニット?この赤い箱の事か?」


風見は言われるまま、TTユニットをお腹に当てた。するとユニットから出たベルトが一周し、変身ベルトになった。


それを確認したトーカは、


『僕の言う通りに叫ぶんだ!「超変身!」』


「よし、わかった!!

超変身!!!!」


風見が叫んだ瞬間、ユニットが赤い光を放ち風見の体を包み込んだ。


そして光が収まると、中から赤い戦士が現れた。

そのベルトのユニットには〔TTT〕と書かれてあった。





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