第6話


第6話〔黒タイツのヤツら〕



「あ!コジマキッドだ!」


憂樹が映像を見て叫んだ。


その映像は、児島のローカルヒーロー〔コジマキッド〕が、悪の軍団〔ダリンジャー〕と戦うヒーローショーだった。


それを見た風見は、


「これがどうかしたのか?毎年恒例だぞ。」


すると草村は、


「このヒーローショー自体は問題ないんだが、このあとが問題なんだ。」


そして映像が切り替わり、出店の映像になった。


「ん?この店は…」


いち早く気が付いたのは風見だった。

するとすぐにその店に風見の姿が映った。


「あ!翔君じゃない?あれ!」


次は友生が叫んだ。


「そう、この店は、毎回風見が、欠かさず買いに行く店なんだ。そして、必ず店のお姉さんと楽しくお喋りするんだよな。」


草村が風見を見ながら話した。


「ちょ、ちょっと待て、確かに毎回この店には買いに行ってるが、お姉さんと喋る為に行ってるんじゃないぞ、ここの「タコ飯」が美味しいから買いに行ってるだ。去年は夕方に行ったら、売り切れだったから、今年は早く行っただけだ。」


焦りながら説明する風見に対して憂樹が、


「本当に~?なんだか、むっちゃ楽しそうに話してるんですけど~。」


すると友生も、少し悲しそうな顔で、


「ホントだ、翔君すごくニコニコしてる…あのお姉さんみたいな人が好みなの?」


「ちが、違う、違う。ほんとに違う。1年ぶりに手に入ったから、その事を話したら喜んでくれて、ただそれだけだ。」


すると草村が静かな口調で、


「まあ、風見の映像はどうでもいいんだが、問題はここからだ。」


するとそこへ、全身黒タイツが2人やって来た。それをみた憂樹は、


「アハハ、ダリンジャーが「タコ飯」買ってる~。」


普段なら、全身黒タイツの人間が、そのまま店に入れば異様な光景だろうが、祭りの出店、しかもヒーローショーの後、誰もが悪役の人が、着替える暇もなく、買い出しに来てると思うのは、当たり前である。

多分、10人中10人が、憂樹と同じように笑ったであろう。

そして、その黒タイツが、両手に持ちきれない程の「タコ飯」を買っても、スタッフ全員分だと思うだろう。

するとその映像を見たトーカが、


『おや?この黒タイツ…』


「お~!そういえば!」


トーカの話を草村が遮った。


「神成、それっぽっちの「焼きそば」で満足したか?」


すると風見が、驚いたように。


「え?!もう全部食べたのか?俺の分もか?」


「だって~美味しかったんだもん。おかわりある?」


「ね~よ、そんなもん。それより俺の晩飯どうすんだよ…」


すると草村が、


「実はな、私の母が出掛ける前に、私の晩御飯用に「超高級ばら寿司」を作ってくれてたのを、今思い出したんだ。さっき入った隣の部屋に冷蔵庫があったろ、その中に、その「超高級ばら寿司」が入っているから、もしよかったら食べてくれないか?私達は焼きそばでお腹一杯だから、もう食べられない。残しても、もったいないからな。」


「いいの?あたしが食べて。」


「もちろんだ、ぜひ神成に食べてもらいたい。」


すると憂樹は、立ち上り敬礼のポーズをすると、


「わかりました。教官殿!神成憂樹、責任を持って「超高級ばら寿司」を食べに行って参ります。」


「よし!行ってこい!」


草村もノリノリだ。そして憂樹は隣の部屋に消えて行った。

そして草村は、ノートパソコンを見ながら、


「さて、邪魔者は居なくなった。本題に戻ろう。」


すると風見が、


「ちょっといいか?「超高級ばら寿司」ってなんだ?「ばら寿司」に超高級ってあったか?」


すると草村はニコリと笑い、


「私の母が作った「ばら寿司」だ。私の母は、世界に1人しか居ない、ということは、隣にある「ばら寿司」は世界にたった1つしかない「ばら寿司」なんだぞ、これを超高級と言わずになんと言う。」


すると風見はあっけにとられ、


「わかった、わかった、本題に戻ろう。で、トーカ、何か気付いたのか?」


すると草村が、映像を少し巻き戻し、ヒーローショーの場面にし、制止画像にした。そしてその映像をプリントアウトした。


「よく、ダリンジャーを覚えててくれ。」


そう言うと、今度は黒タイツが「タコ飯」を買ってる映像に切り替えた。

すると友生が、


「あ!なんか少し違う。」


すると風見も、


「そうだな、ダリンジャーの方は、横に白いたて線が入ってるけど、タコ飯を買ってる方は、真っ黒だ。」


「それだけじゃないぞ。」


そう言うと、草村はタコ飯を買ってる映像を大きくズームした。

すると、うっすらとではあるが、頭の所に「愚」の文字が書いてあった。


「もしかしてコイツら…」


そう言いながら友生を見た。するとトーカが、


『間違いない、愚蓮人の戦闘員だ』


「最近、いろんな祭りのいろんな出店で、黒タイツ達が爆買いをしてるって聞いてな、おかしいと思ってたんだ。そして、コイツらが買ってすぐに車に乗るまでは、映像が確認出来たが、そこからは追跡してないんだ。

店もお金をちゃんと払ってくれるから何も言えないみたいでな、ただ、一般客が買えないって、苦情はきてたらしい。ただ、いくら量を増やしても、その分爆買いの量も増えるから意味がないんだ。」


「しかし、奴ら、そんなに買ってどうすんだ?」


風見の問いにトーカが答えた。


『急速冷凍だよ。今の技術なら、出来立ての味を損なわず出来るからね。そして、ネットで高値で売買するんだ、児島のご当地グルメを全世界で。もちろん児島だけじゃない、全世界のご当地グルメを全世界に売るんだ。2倍3倍、物によっては10倍の値段でね。そうやって資金を集めているんだろうな。

そして、同然売りまくれば、ご当地グルメは飽和状態になる。ご当地グルメが飽和状態になったら、もう「ご当地」とは言えないな、名前を変え、自社の製品として売るだろうな、安い値段で。

まったく同じ味なら、安い方がいいだろ。』


すると、風見の目に炎が上り、


「そんなことはさせるものか!絶対俺が阻止してやる。」


「これからどうするの?」


友生が聞いてきた。


「そうだな、まずコイツらが、どこで急速冷凍してるか突き止めないとな、そんなに離れてはいないはずだ。時間が経てば経つほど味が落ちるはずだから。

今までは、コイツらの行動の意味が解らなかったから、これ以上は追跡しなかったんだが、目的がわかった以上、とことん追跡してやる。

あの時間ギリギリの感謝の眼差しを取り戻すためにな。」


「お前、そこかよ…」


風見は、ただただ呆れるだけだった。


「で、これから何をするの?」


友生の問いに草村は、


「風見、今月の祭りはどこだ?」


「祭り?たしか今週の土曜日に「倉敷天領祭り」があるはずだ。人も多いし、出店もかなりの数が出る。コスプレをする奴も居るかもしれないから、黒タイツでも怪しむ奴は居ないだろう。」


すると、友生が、


「土曜日って、明日だよね。」


「え?あ!そうか、夏休みになったら、曜日がわからなくなってた。」


「よし、じゃあ、これを持って行け!」


草村は小さな丸い物を、風見に手渡した。


「これは発信器だ、愚蓮人のどこでもいいから付けろ、私がここから追跡して、お前らを誘導する。」


「なんだ、お前は行かないのか?」


「人混みは好きじゃない、ただ「牛串工房」の牛串だけは買って来てくれ。奴らもきっと買いに来るはずだから、買われる前に買ってくれよ。10本でいいから。」


「10本も買うのか?」


驚く風見に、


「ほんとは「黒豆きなこソフトクリーム」も欲しいんだが、溶けるからムリなんだ。」


「わかった、わかった、10本でも20本でも、買って来てやるよ。そのかわりサポートよろしくな。」


するとトーカも、


『翔、あの赤い箱を忘れずに持って行くんだぞ。あの箱は必ずお前の力になるからな。』


風見はうなずき、


「お前にも期待してるぜ、トーカ。」


そう言うと、友生の手を握り、硬い握手をした。

手を握られた友生は、ただただ赤くなった。


その時、


「なになに?牛串?ソフトクリーム?あるの?食べる~。」


憂樹が「ばら寿司」を完食して出てきた。


「憂樹、あのね、明日みんなで「倉敷天領祭り」に行くんだ。その時に牛串やソフトクリームを食べようって話をしてたんだよ。」


すると憂樹は友生の腕に絡み付き。


「うん、行く行く。友生とデートだ、やっほっ~い~!」


そんな憂樹を見た風見は、


「あ~あ、おれの晩飯…仕方ない、コンビニで弁当でも買って来るよ、その間に、お前ら草村に風呂でも入れてもらえ。」


「お風呂」という単語を聞いて、一緒に寝泊まりする実感の沸いた友生は下を向き、もじもじするばかりだった。

そんな友生に対して、草村と憂樹は、


「ついでに「じゃがりこ」買って来てくれ、新作が出てるはずだから。」


「あたし、ポテチ!」


「はいはい、わかったよ。友生はいいのか?」


「う、うん、ボクはいいや、焼きそばでお腹一杯だから。」


ほんとは、嬉しくて胸が一杯な友生だった。


風見は、コンビニで本を読みながら時間を潰し、頃合いを見計らって草村のマンションに帰った。


そして、それぞれの想いを胸に、夜は更けて行った。





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