第5話


第5話〔大盛り焼きそば〕


「お前が『トーカ』なのか?


「え!?」

『え!?』

「え!?」


草村は友生の目を真っ直ぐに見つめながらそう言った。


風見と友生とトーカが驚くのもムリもない、風見は草村に簡単な話をしただけだったからだ。

電子レンジの妖精、蓮人の『トーカ』や愚蓮人と呼ばれる「電子結社」が存在する。ぐらいの事しか教えていない。

友生の中に、トーカが入り込む事は教えておらず、草村がその事を知ってるはずがないのだ。


「何言ってるのよ、草村さん。どっからどう見ても、あたしの友生でしょ。あ・た・し・の・と・も・き」


憂樹は友生の腕に絡みつきながら、話に入ってきた。

そんな憂樹に対して草村は、


「ああ、悪い悪い、そうだよな。

あ~、そうそう、神成が来ると聞いて、「最高級塩羊羮」を買っておいたぞ、隣の部屋にあるから、好きなだけ食べてくれ。その「塩まんじゅう」の数倍はする値段だ。よく味わってな。」


「マジ!?ほんと!?草村さん愛してる。あ、友生の次にね。」


そう言い残し、隣の部屋に飛び込んだ。


「さて、これで邪魔者は居なくなった。ゆっくり話を聞かせてもらおうか。」


草村がゆっくりと風見の目の前に座った。


「悪かったな、安い「塩まんじゅう」で、しかし相変わらず、すげ~なお前の部屋。」


風見が感心するのもムリもない、草村は超常現象オタクで、モニターが何台も置かれ、パソコンや訳のわからない機材も何台もあった。


「小さいことは気にするんじゃない、世界を守る男なんだろ?」


『へ~、すごいな君は。』


最初に口を開いたのはトーカだった。


『僕たちの事、どこまで知ってるんだい。』


「私も前々から、電子レンジに関しては、おかしいと思っていたんだ。だってそうだろ、家電製品ていうのは、いろんなメーカーが切磋琢磨して進化して行くものなんだ、これだけ食品の冷凍化が進んでいるのに、他のメーカーから新機種が出ずに〔YUKA〕1機種なんて考えられない。絶対に裏があると思っていたんだ。」


「お前、ほんとにすげ~な。」


風見は改めて、草村の凄さを実感した。


「それで、風見から連絡があって、電子レンジの話を聞いたとき、ちょっと思い当たる点があったんだ。」


『思い当たる点?』


「ちょっとトーカに見てもらいたい物があるんだ。

その疑惑の「電子レンジ」を買って使ってみたんだが、なんというか、なんだかムカついてな、命令されてるみたいで、気分が悪いから、電源入れたまま、湯船に沈めてやった。」


「お前、容赦ないな。草村に買われた愚蓮人に同情するわ。」


風見は、あきれ顔で言った。

そして草村は話を続けた。


「そのあとバラバラに分解してやったんだか、何か「文字」みたいなのが書いてある部品があったんだ。」


風見はピンときた。


「文字が書いてある部品?もしかして赤いやつか?」


「いや、黒いやつ。」


「文字は「超」って書いてなかったか?」


「いや「愚」だったな。」


「トーカのやつとは、違うのか。」


「風見、さっきから何を言ってる。まったく違うじゃないか。

それで私なりに調べてみたんだ。すると、何十年か前に〔T・Tシリーズ〕という機種があったらしいんだが、どうやらそれの後継機みたいなんだ。でも、知り合いに「電子レンジ」を調べてもらったら、家電ではあり得ない電磁波が出てるらしいんだ。

これは、絶対何かあると思ってな、密かに調べていたんだ。そこな風見からの連絡だろ?嬉しくて飛び上がったぞ。」


するとトーカが感心したように、


『ほう、人間にも君みたいなのが居るのか、僕は出てこなくてもよかったのかな。』


すると草村は、


「何を言ってる、お前が出てきてくれたおかげで、私の考えが机上空論にならずに済んだんだ。むしろ感謝さえするよ。

ところで、ひとつ聞いてもいいか?

今、喋っているのは『トーカ』だろ?でも誰が見ても上地が喋っているようにしか見えない。じゃあ、今、上地の意識はどうなっている。寝てるのか?」


するとすぐに友生が喋り始めた。


「ううん、僕も一緒にいるよ。どう言ったらいいのかな…『トーカ』が喋っている時は、隣で聞いている感じかな、僕が喋っている時は、隣でフワフワしてる。」


「飛んでるのか?上地には姿が見えるんだな。」


『妖精だからね。なんでもアリさ。僕の姿も、友生のイメージが作り出したのかもね。』


「ほんとに興味深い、私の中には入って来れないのか。」


『ムリだね。ほんとここまでシンクロ出来るなんて、僕も驚いているぐらいなんだ。無理やり入ることは出来るかもしれないけど、もといた君の意識が無くなるかもしれないからね。』


「そうか、まあ、残念だが目の前にいるからいいか。」


そう言うと、草村は部屋の隅から、小さな黒い箱を持ってきた。


「これがさっき言ってた箱なんだが。」


それをみたいな風見は、


「大きさや形は一緒みたいだな。」


するとトーカが、


『この「愚」みたいな文字の配線系列は、いかに有効に電磁波を脳内に送り込むかを研究した結果だと思う。この中に人工知能も入っていて、絶えず進化を続けているんだ。』


「じゃあ、愚蓮人も進化してるって事?」


友生が心配そうに聞いた。


『いや、「愚蓮人」自体は進化しない、「愚蓮人」とはいえ、元々は僕と同じ「蓮人」だ。

僕らはどちらかといえば、君達のように生物に近い。考えてもみろ、50年前の人間と今の人間は、そう変わりないだろ。世の中はこんなに変わったのに。』


すると草村が、


「ということは、愚蓮人が悪者と言う訳じゃなく、それを操っている人工知能の方が悪って事か。」


『そういう事になるかな。人工知能が愚蓮人を操り、その愚蓮人が人間の脳を操り、世界を操ろうとしてるんだ。〔YUKA〕搭載の電子レンジは世界中にばらまかれている。とにかく早く〔YUKA〕本体を止めないと。』


「本体を止めるって?電子レンジを全部回収なんて、出来ないだろ。 」


風見がビックリしたように言った。

するとトーカが冷静な口調で、


『いや、電子レンジの中に〔YUKA〕は居ない。この箱を見て確信した。これには、料理解析、解凍に関する人工知能は確かに入ってる、それとは別に、〔YUKA 〕からの信号を受け、実行させる人工知能が入っているんだ。だから、〔YUKA〕を止めさえすれば、普通の電子レンジに戻り、愚蓮人も居なくなるはずだ。』


「その〔YUKA〕はどこに居るんだ?」


『それが、僕にはわからないんだ。どんなにネットワークを探しても、存在すら感じられない。多分、独自のネットワークを構築し、それを使っているんだと思う。』


「何か手がかりがあるといいんだけどな…」


風見が腕組みをして悩んでいると、隣の部屋から憂樹が満足そうな顔で帰ってきた。


「あ~、美味しかった~、さすが最高級~、羊羮を食べるとき、「よう噛んで食べなさい」ってタジャレがあるけど、噛まずにとろけた~。 」


「とろける羊羮て、どんなんだよ。」


風見が思わずツッコんだ。


「で、今日の晩御飯は何? 」


憂樹が風見に聞いた。


「お前、まだ食べる気なのか?てか、俺に聞いてどうすんだ。草村に聞け、草村に。」


すると草村が、


「ん?知らないのか、今日は両親は居ない。だから晩御飯は風見が作るんだ。」


「え?聞いてね~よ。ていうか、なんで俺なんだ?」


「当たり前だろ、お前しか料理出来るヤツなんてこの中には居ないんだから。」


草村の言葉に、風見はグルッと見渡し、「ハァ~」とため息をついた。

そんな風見に友生が、


「ボクも手伝うから。翔君の料理って、ほんとに美味しいよね。」


なんとか機嫌をとる友生だった。


「材料は好きなものを使っていいからな。」


草村の言葉に、


「簡単な物しか出来ないぞ。「焼きそば」でいいか?」


すると憂樹が、


「あたし大盛りで! 」


「はいはい、わかりました。」


風見が呆れたように答えた。すると憂樹が、続けて、


「そういえば、なんで祭りとかの出店って、あんなに高いの?あたしのお小遣いじゃ、お腹一杯食べられやしない。」


「やっぱり「お祭り価格」?ってやつじゃないかな?」


友生がそれっぽい事を言った。


「出店?」


草村が何かを思い出したように立ちあがり、ノートパソコンを持って来て、テーブルの上に置いた。そして、


「お~い!風見!ちょっと見せたい物がある、こっちへ来い。」


「ちょっと待てよ、今、手が離せない、もう少しで出来るから待ってろ。」


それから少し経って、大盛りの「焼きそば」がテーブルに置かれた。


「いっただきま~す。」

「いただきます。」


憂樹と友生は、一斉に食べ始めた。


「で?見せたい物って?」


風見が草村の隣に座り、ノートパソコンを覗いた。


「は~ほれなんたか…」


「なに言ってるかわかんね~よ。飲み込んで話せ。」


草村は口の中の焼きそばを呑み込み、ひと息つくと、


「この映像なんだがな…」


すると風見はすぐにわかり。


「これは、今年の「瀬戸大橋祭り」か?」


「そうなんだ、瀬戸大橋祭りなんだが、ここ数年おかしな事があったから、防犯カメラをチェックしてたんだ。

お前も毎回行ってるんだろ、何か感じなかったか?」


「変わった事か、これといって思い当たらないな…」


「おいおい、それでもご当地グルメキャラなのか?」


「キャラとか言うな!そういえば、最近は終了時間ギリギリに買いに行っても、全部売り切れになってる店が増えたかな。ギリギリの時間に行ったら、半額にしてくれたり、サービスしてくれたからあえてギリギリにいってたんだが、人気の店は昼過ぎには完売になってたな。」


「そうなんだよ、あの終わりギリギリの売れ残りを買ってもらってありがとうという、感謝の眼差しが見たくて、よくギリギリに行ってたんだが、最近はほとんどないんだ。特に「タコ飯」「タコ天」「塩焼きそば」「蒜山焼きそば」「津山ホルモンうどん」とかのご当地グルメは昼過ぎには完売している店があるんだ。

それで、この映像だ。」


「あ、コジマキッドだ!」


憂樹が映像を見た瞬間叫んだ。




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