第4話
第4話〔憂樹と清美と草村育枝〕
「と~も~き~!待って~!!」
友生に続いて憂樹がやって来た。
「あ…神成だ…」
風見がボソッと呟いた。
友生の後を追って来たのは、友生の幼なじみの「神成 憂樹」だった。
友生の倍はあるであろう荷物を引っ張りながら、息を切らしてやって来た。
「ハァ…ハァ…こ、こらハァ…風見!よ、よくもわたハァ…しのハァ…と、友き…を~~~…」
まともにしゃべれない憂樹に風見は、冷たい麦茶をコップに入れて来た。
「ほら、これ、飲めよ。」
憂樹はコップを持つと同時に、麦茶を一気に飲み干した。
「ぷはー!生き返った~!!風見!もう1杯!」
憂樹はコップを突き付け、麦茶のおかわりを要求した。
「オレンジジュースもあるぞ、ちょっと待ってろ。」
風見はオレンジジュースの入ったペットボトルを持ってきた。
憂樹はそのペットボトルを奪い取るように飲んだ。
憂樹がジュースを飲んでる間に、風見は友生を引き寄せ、
「お、おい。なんで神成も一緒なんだ。蓮人の事、話したのか?」
すると友生も困ったように、
「蓮人の事は言ってないよ。ただ、家に帰ったら、憂樹が部屋で待ってて、草村さんの家に泊まりに行っていいか、お母さんに聞いてると、「あたしも行く~」って言い出して…お母さんも憂樹が一緒ならいいよって。」
「まあ、仕方ないか、下手に友生を探し回られて、愚蓮人に気付かれても困るからな。一緒に行動した方が安心かもしれないな。ただし、憂樹の面倒は、お前の担当な。」
そう言うと、風見は友生の肩をポンポンと叩いた。
「ハァ…」と、ガックリと肩を落とす友生だったが、もともと夏休みは憂樹と一緒に遊ぶつもりだったし、風見と一緒に寝泊まりするのは変わらないから、「まぁ、いいか」と、前向きに考える友生だった。
「さて、どうする?もう行くか?」
すると憂樹が甘えるように、
「ちょ、ちょっと待って、あたしは今、来たばかりなんだからぁ~、もう少し休んでいこうよぉ~、お・ね・が・い~。」
ぶりっ子風に、上目遣いで風見を見た。
「可愛くない!!」
バッサリと切った風見だった。
すると友生が風見のそばに来て、小さな声で、
「あのね翔君、トーカが話があるんだって。」
「え?もうお前の中にトーカが居るのか?」
「うん、さっき入ってきた。」
「よかった、友生が居ない時は、電子レンジの中から「ピ」しか言わなかったから、何言ってるか、わからなかったんだ。それで、何だ話って?
と、その前に神成をなんとかしないとな。
お~い、神成、ちょっと休憩するから上がっていいぞ、「塩まんじゅう」があるから食べながら休め。」
すると憂樹は、ガッツポーズをして
「よっしゃ~!! 風見!大好き。あ、もちろん友生の次にね。」
ウインクをしながら上がって行った。
「これで当分は大丈夫だ。で、何だ?話ってのは。」
するとトーカが、
『そこにある電子レンジを分解して欲しいんだ。』
「え?分解?分解したらお前の帰る所が無くなるじゃないか。」
『大丈夫、分解と言っても、壊す訳じゃない、また帰って来たら組み立ててもらうよ。この家も、この電子レンジも、僕の故郷だからね。』
「わかった、やってみるよ。この後ろの蓋を外せばいいのか?」
『そう、そう。蓋を開けたら、中に手の平サイズの赤い箱があるから、それを取り出して欲しいんだ。』
「この箱の事か?なんか、文字みたいなのが書いてある。「超 」かこれ?」
『正確には文字じゃないんだ、たまたま基板の配線が文字と同じ配列になって、熱を持つと箱に浮かび上がって、そのまま焼き付いてしまったみたいなんだ。』
「よし、取れたぞ。で、これをどうするんだ?」
『君に持っていて欲しい。きっとこれから必要になるから。』
「ん?ああ…とりあえず持っていればいいんだな?
よし、じゃあそろそろ草村の家に行くか。」
「うん、じゃあボク、憂樹呼んでくる。」
そう言うと、友生は憂樹を呼びに行った。
しかし、帰って来たのは友生1人だった。
「翔君~…憂樹が動いてくれない~…」
「ったく、ほんとしょうがないヤツだな。
お~い!神成~!置いて行くぞ~!草村の家の、高級和菓子、俺たちだけで食べるぞ~!」
すると奥から「ドドド」っと足音がしたと思うと、
「この「塩まんじゅう」持って行ってもいい?」
憂樹が「塩まんじゅう」の袋を抱きしめながら、走って来た。
「わかった、わかった。好きなだけ持って行けばいいから。
ハァ…先が思いやられる
…」
家を出た3人は、草村のマンションに向かった。
風見が先頭を歩き、少し後ろを友生が歩き、その隣をピッタリと引っ付いて憂樹が歩くのが、3人で歩くときのいつもの定位置だった。
しかし、今日に限っては、ひとつだけ違う所があった。
それは、憂樹を見る友生の目だ。友生は隣を歩く憂樹の横顔を見つめながら、歩いていた。
視線に気付いた憂樹が、
「どうしたの?友生、あたしの顔に何か付いてる?」
『いや、君を見てると、何だか懐かしい気がするんだ。』
「変な友生、懐かしいもなにも、生まれた時からほとんど一緒にいるじゃない。」
「そ、そうだよね。何言ってんだろボク。暑いね~、草村さんの家、まだかな~。」
すぐに誤魔化した友生だったが、頭の中では、
「ちょっと、ちょっと、勝手に話しかけちゃダメだよ。憂樹はトーカの事知らないんだから。」
『ゴメン、ゴメン、ついね。何だか初めて会った気がしなくて。』
「まあ、憂樹も何度か翔君の家に行ってるから、その時見たのを思い出したんじゃない?とにかく憂樹にバレると面倒だから、おとなしくしててね。」
『わかったよ、相棒。』
それから少し歩くと、草村の住むマンションが見えて来た。
「お、見えた見えた。」
「ほら、憂樹もう少しだよ。」
「やっと休める~」
憂樹は、もはや虫の息だ。
マンションが近づくにつれ、小学生ぐらいの女のコを連れた女性も近づいて来た。
「やばっ、あれ委員長だろ?」
風見がうつむいて、顔を隠すように友生に尋ねた。
「あ、ほんとだ委員長だ。」
すると憂樹が、
「お~い!委員長~!」
「ば、よせ!呼ばなくていい!」
前から歩いて来るのは、おなじクラスの委員長「水川清美」だ。名前で呼ばれる事は少なく、普段から「委員長」と呼ばれていた。
風見の制止を無視して憂樹は清美に手をふった。
「あれ?翔君、委員長の事嫌いなの?」
友生は、風見の態度がおかしかったので、理由を聞いた。
「いや、嫌いって訳じゃないけど、あいつが突っかかってくるんだよな、俺、嫌われるような事したっけ?」
そんな話をしてると、3人に気付いた清美は、
「あら、上地さんと神成さん、そんな荷物を持って、どこか旅行でも行くの?」
すると憂樹が、
「ちょっと草村さんちでお泊まり会。風見君も一緒だよ。」
「え!?風見君も泊まるの!?
というか、風見君も居たんだ。ふ~ん」
「うそつけ、1番最初に目が合っただろ。俺はコイツらを草村の家に送ってるだけだ。すぐに帰るよ。」
「え~!風見も泊まろうよ~。」
憂樹がタダをこねた。
風見の言ってる事はもちろん嘘で、真面目な委員長が、男の風見が女のコの家に泊まると知ったら、何を言われるかわからないので嘘をついたのである。
勘のいい友生は、その事を察して、
「そ、そうなんだ。翔君が草村さんに用事があるから、ついでに一緒に行ってるんだよ。」
すると頭の中で、
『あれ?この娘…』
トーカが何かを感じ取った。
「ふ~ん、まあ、いいわ。2人とも夏休みだからって、ハメを外し過ぎないようにね。
あ、それから風見君、夏休みはどこか行くの?」
「え?なんでだよ。」
「ち、ちょっと気になっただけだから、変な所に行かないか、委員長としては気になるじゃない。」
「とりあえずは草村の家に行ってからだな。」
風見の答えに清美は、頭の中で、
「なによ!草村さん草村さんて、草村さんの事、好きなのかしら…」
すると隣にいた妹の香が、
「お姉ちゃん、顔、こわい。」
その言葉に、ハッと我に帰った清美は、
「そ、そんなことはないわよ~、さぁ、帰って宿題終わらせなきゃ。あとで香の宿題も見てあげるね。」
今度は「宿題」という言葉に、香の顔が曇った。
と、同時に憂樹の顔も曇った。
「さあ、俺たちも行くぞ、じゃあな委員長。」
「またね、委員長。香ちゃん。」
「委員長…宿題見せてね…」
その場を後にする3人に清美は手をふって答えた、というより風見1人に向かって手をふった。
そして、草村のマンションに着いた風見達は、慣れた手つきで草村の部屋まで行き、チャイムを鳴らした。
するとすぐにドアが開き、いつものように無愛想な草村が出てきた。
「よく来た、よく来た。さあ、上がってくれ。」
「草村さ~ん、助けて~、」
憂樹が1番に部屋に倒れこんだ。
続いて、友生と風見が部屋に入った。
「悪かったな、草村。急に押し掛けて来て。」
「いや、大したことはない。」
草村は風見への返事もそこそこに、友生の目をじっと見つめながら、
「いつもの退屈な夏休みが面白くなりそうだ。
お前が、『トーカ』なのか?」
「え!?」
『え!?』
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