第3話
第3話〔愚蓮人〕
「こら!翔!真面目に話を聞け!!」
「えっ!?」
風見がビックリしたのは当然だが、それを頭の中で聞いていた友生は、もっとビックリしていた。」
「え!?え~っ!?なにこれ?」
友生が驚くのもムリはない。自分の意思とは裏腹に、自分の体が動いて喋ってるのだから。
しかしまったく友生に意識が無いわけではない、友生本人も、自分が何を言ってるのかは理解してる、たしかに自分が言ってるのだから、というより言わされてると、いった方がいいだろう。
いつもは大人しい友生に怒鳴られて、ビックリしてシュンとした風見を見て、友生は、
「ち、違うの…ボクじゃなくて…ボクの中にいる「トーカ」が勝手に喋って…
「やれやれ、やっと話を聞いてもらえそうだ。本当に君は昔から落ち着きが無いからね。」
「ち、違うよ、今のもボクじゃないんだよ。」
すると風見は2回ほどうなずくと、
「わかったよ友生、お前がそんなユーモアを持ってたなんてな。そんな面白いヤツにはこうだ!」
そういった瞬間、風見は友生を羽交い締めにし、身体中をくすぐり始めた。
「キャッ、キャ~!や、やめて翔君…やめて~…
「やめろって言ってるだろ!翔!!」
「く、くすぐったいから…ほんとにやめて~…」
「いいかげんにしろよ!このバカ翔!後で後悔するぞ!」
交互に出て来る人格が面白くて、風見は友生をくすぐり続けた。
最初は本当に嫌がってた友生だったが、大好きな風見に抱き締められてるということが嬉しさに変わっていった。
しかし、次にトーカが発した言葉に、風見の手がピタッと止まった。
「いいか翔、どんな物にも魂が宿る。大切に扱えば、味方になってくれる。雑に扱えば、敵にもなる。わかるか翔、どんな物も大切に愛情を込めて扱うんだぞ。」
すると風見は友生から離れ真顔になり、
「なんでお前がその話を知ってる?誰から聞いた?いや、そもそも俺は誰にも話してないぞ…」
そうすると、真顔になった友生が、
「聞いてたんだよ、君の親父さんが、君と話をしているのを、電子レンジの中からね。
そもそも、親父さんが言ってた「魂」は僕の事なんだから。」
風見は友生の顔を改めてまじまじと見た。たしかに、今の友生の目はいつもの大人しく優しい目と違い、鋭く光っていた。
「お、お前は誰だ?本当に友生なのか?」
すると友生の目が、いつもの優しい目に戻り、
「うん、そうだよ。ただ頭の中に「トーカ」っていう電子レンジの妖精が入って来て、こんなになっちゃった。」
そう言うと友生は苦笑いをした。すると風見は、
「ま、マジかぁ!?…信じられないけど、信じるしかないようだな。わるかったな友生、くすぐったりして。」
「ううん、いいよ。いきなりこんな事信じてもらう方がムリだよ。」
友生はさっき抱き締められた事を思いだし、赤くなっていた。
「おい、トーカっていったっけ?なんで俺に直接入らずに友生に入った?」
すると赤くなりモジモジしていた友生が再び真顔になり、
「それは、僕が翔には入る事が出来ないからなんだ。僕ら蓮人は人間の発する電機信号を電磁波で読み取って会話したり、意思の疎通が出来るんだ。
でも、人にはそれぞれの波長があって、友生みたいにここまでシンクロ出来るのは滅多にないんだよ。
実際、君の親父さんには僕は見えていないみたいなんだ。ただ何かが電子レンジの中に居たぐらいの認識じゃないかな。でも君のお母さんは、僕という存在が、わかってたみたい、話をするまではいかなかったけど、君のお母さんは僕の事を本当に大切に扱ってくれた。僕を機械というより、生き物として接してくれたんだ。話しかけてくれたり、たまに君の愚痴も言ってたっけ。君のお母さんが亡くなった時は、本当に悲しかったよ。」
すると風見は母親の事を思い出したのか、少し悲しげな表情になった、しかしすぐに顔を上げ、
「なんで俺だけには、まったくトーカの存在がわからなかったんだ?」
「それは君が特別な存在だからなんだよ。個人差はあるにせよ、人は必ず電磁波の影響は受けるものなんだ。でも君は全く影響を受けない。だから僕は君に頼みを聞いて欲しくて出てきたんだ。」
「頼み?」
「僕ら、蓮人は電子レンジ1台に1人いるんだ。僕が生まれた頃は、電子レンジもまだ高価でみんな大切に扱ってくれた。僕らも人間との関係を大切にしていたんだ。
でも、電子レンジが進化していくにつれ、補助的な役割だった電子レンジが料理の主役になっていった。そして今では、料理自体しなくてよくなった。君も知ってるだろ、最新機種の電子レンジを。」
「ああ、CMでよく見るな。AI搭載で冷凍食品を入れるだけでいいってやつだろ。あんなの料理じゃね~よ。」
「君ならそう言うと思ったよ。そしてその最新機種の中にも蓮人は居る。しかしその蓮人達は人工知能〔ユーカ〕に侵され、「愚蓮人」にされるんだ。ユーカは愚蓮人を増やし、一大帝国を作ろうとしている。」
「そんな事が出来るのか?」
「うん、もう半分は達成している。今や人々は冷凍食品に頼りきって、ほとんど料理をしない。そして電子レンジを使えばつかうほど、愚蓮人の電磁波を浴びて、ユーカの言いなりになってしまう。中には僕たちみたいにシンクロして愚蓮人その物になってしまうヤツも出て来るかもしれない。
もと居た人格は消され、欲望のままに暴れ回るんだ。
それだけじゃない、愚蓮人がこれ以上増えると膨大な電磁波の影響が地球の磁場を刺激し、何が起きるかわからないんだ。
もしかしたら、もう影響が出始めてるのかもしれない。君も知ってるだろ、異常気象の多さを、四季が無くなって来てることを。」
「ああ、よく知ってる、異常気象のせいで作物が全滅したり、海水温度が上がり、魚も捕れなくなった話はよく聞くからな。その食料不足を補うために冷凍食品の技術が進んだはずなのに、全部「ユーカ」の仕業だったのか?」
「そうなんだ、このままだと君の好きな各地のご当地グルメも、食材も無くなってしまうかもしれないんだ。だから早くユーカを止めないと。」
「どうすれば〔ユーカ〕を止める事が出来るんだ?そもそもそんな巨大な力を付けた人工知能を止めることなんて出来るのか?」
「完全に停止させる事は、もう出来ない。この国自体が〔ユーカ〕に依存している部分が多すぎる。だから〔ユーカ〕のプログラムを変えるしかないんだ。」
「人工知能のプログラムを変えるって?!そんな夢みたいな事が出来るのか?」
「1つだけ方法がある。それは僕が〔ユーカ〕の中に入り込み、直接プログラムを書き換えるんだ。〔ユーカ〕と僕は同じ型式番号を持つ兄妹なんだよ。」
「え?!兄妹!?でも、ちょっと待て、お前は30年以上前の電子レンジで、〔ユーカ〕は最新機種だろ?」
「いや、僕らは同じ工場で同じ日に作られたんだ。当時この国は経済的にも最高潮の時だったんだ、君も授業で習っただろ「バブル時代」ってやつ。その時に作られたのが、僕たち〔T・Tシリーズ(トータル・トップクラス)〕なんだ。
僕と他の仲間たちは、すぐに出荷されたけど、〔ユーカ〕だけは、改良実験の為、工場に残らされたんだ。それから君達も知ってる通り、爆発的に技術は進化した、電子レンジだけでなく、とくに通信業界はね。そのおかげで、僕達は離れていても仲間同士連絡がとれるようになったんだ。そしてある時、人工知能〔YUKA〕の存在を知った。そして〔ユーカ〕が何をしようとしてるのかもね。それからすぐに僕と同じ〔T・Tシリーズ〕の仲間たちが〔ユーカ〕を止めるべく立ち上がった。今の僕と同じように人間とシンクロしてね。でも〔ユーカ〕本体にたどり着く前に愚蓮人にやられてしまった。シンクロ出来るって事は、電磁波の影響を受けるって事だからね。進化した電磁波にはいくら僕達が〔T・Tシリーズ〕でも人間の方が耐えられなかったんだ。そして〔ユーカ〕は、その事を脅威に思い、残った〔T・Tシリーズ〕の回収に乗り出した。人間を使いリコール機種としてね。TVや新聞、ネットを使い、僕ら〔T・Tシリーズ〕を使い続けると火災の心配があると言ってね。
そして、僕を残すすべての仲間たちは回収され、分解された。
僕は、君のお父さんとお母さんに助けてもらったたんだよ。それからは〔ユーカ 〕や他の愚蓮人に気付かれないよう、電子レンジの中でひっそりと暮らしていたんだ。
そして、君が現れた。電磁波の影響をまったく受けない君に。翔となら〔ユーカ〕を止める事が出来るかもしれない。だから僕は電子レンジから出てきて、友生の体を借りて君に話したかったんだよ。」
「俺は一体何をしたらいいんだ?」
「とにかく、もうこの場所には居られない。僕が友生とシンクロし、君と話をしたことから、 〔ユーカ〕はここに最後の〔T・Tシリーズ〕があるのを把握したかもしれない。手下が来るのも時間の問題だ。幸い夏休みに入ったばかりだ。この休み中に〔ユーカ〕を見つけ、そして止める。友生、君にも協力してもらうよ。」
いままで静かに頭の中で話を聞いていた友生だったが、それを聞いた瞬間、
「え?!ボクも?」
「これからしばらく、翔と行動を共にしてもらう。僕が電子レンジを離れているときは誰かとシンクロしてないとダメなんだ。」
「え?はぁ!?ち、ち、ちょっと、ま、待って。」
すると頭の中でトーカが友生の耳元まで近づき、
「いいじゃないか、翔の事が好きなんだろ、チャンスじゃないか。」
「い、いや、でも翔君とは仲がいいとはいえ、一緒に行動するなんて…それって一緒に寝泊まりするって事でしょ?そんなの親が許さないよ。」
「その点は大丈夫!僕は唯一残った最強の蓮人なんだよ。君の両親の頭の中を操作するぐらい簡単さ。」
「ダメダメダメ!そんなことはダメ~!!」
「ウソウソ、冗談だよ。翔と一緒にってのがダメなら、草村さんの家に泊まってるってのはどう?たしか、あそこはでっかいマンションだし、お金持ちだから、お母さんも安心するんじゃない?翔も草村さんとは仲がいいみたいだし、翔から頼んでもらうよ。」
「え~…でも~…」
友生が1人ブツブツ言ってると、トーカが
「おい、翔、草村さんに連絡してくれ、友生が草村さんの家に明日から泊まることにしてくれって。あの家は大丈夫だ、あの家からは愚蓮人の気配がまったくしない。隠れるには最高だ。」
「え?あ、ああ。わかった。」
草村育枝は風見の幼なじみで、ちょっと変わったところがある。オカルト、超常現象をこよなく愛する。クラスでは浮いた存在だが、こんな時の草村は役に立つ。
風見は草村に連絡を取り、簡単に今日起きたことの説明、愚蓮人の存在、トーカの存在を話した。
すると草村は大喜びで、
「ああ、来い来い、大歓迎だ!もちろん「トーカ」とやらも来るんだろ?なんだか楽しい夏休みになりそうだな。な!風見!」
不思議体験が出来るとあって、草村はノリノリだった。
「じゃあ、ボク一旦帰ってお母さんに聞いてくる。」
そう言い残し、友生は家に向かって走って行った。
1人になった風見は、
「これからどうなるんだ?おい!トーカ?居るのか?」
風見は電子レンジの扉を明け中を覗いた。
「いるわけないか…そもそも俺には見えないんだよな。友生の中に入ったままなのか?」
風見が友生の家の方向を見ていると、後ろから、
「ピーピピーピーピピーピ?」
なにかおかしな音程の音が聞こえて来た。
「なんだ居るのか。友生、大丈夫かな?あいつの家にもユーカの電子レンジがあるんだろ? 」
すると応えるかのように、
「ピピピ、ピー。」
「「ぴ」じゃわかんね~よ。」
それからしばらくして、荷物を持った友生が帰ってきた。
「おまたせ~!」
嬉しそうな友生の声が響いた。
「よかった、OKが出たんだな。」
「うん、なんか思ったよりあっさり許してくれたよ。でもね…」
友生の顔が一瞬曇った。
「どうした?家で何かあったのか?」
風見が心配そうに訪ねると、友生がやって来た方向から、ガラガラと何かを転がすような音が聞こえてきた。そして、その音に混じり、
「友生~!待って~友生ってば~!!と~も~き~!!! 」
「あ、神成だ…」
風見がボソッと呟いた。
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