第2話
第2話〔蓮人現る〕
夏休みに入って2、3 日経った頃、風見は旅行の準備をしていた。
「翔君、居る~?」
「おう、友生。どうした?」
「この間、トウモロコシをくれたお礼に、お母さんが持って行きなさいって。ジャガイモ、お母さんの田舎から送って来たんだって。最近、お母さんほとんど料理しないから、野菜や食材を送られて来ても困るんだってさ。」
「たしか、お前のお母さんて…」
「うん、北海道!」
「いいよな~、1年中美味しい物が食べられるんだよな~。じゃあ、送られて来た食材は全部うちに持って来い、美味しく料理してやるぞ。」
「いいの?やった~!北海道のおじいちゃんも、なんだか野菜が売れなくて、売れ残りの処分に困ってるみたいでさ。」
「そういえば、夏休みに北海道に行かないのか?」
「うん、お母さんは帰るみたいだけど、お父さんは仕事が忙しいみたいだし、ボクはおばあちゃんと留守番するんだ。それに憂樹が寂しがるから。」
憂樹とは、友生の幼なじみで、去年、友生が北海道に行った時には、四六時中LINEを送り、既読がつかないと、電話をしてきては、早く帰って来い来いと、友生を困らせていた。
「あ~、あいつは友生が大好きだからな。」
風見が笑いながら言った。
「も~、翔君、笑い事じゃないんだから~。」
2人の会話を聞いていると恋人同士に見えるが、ただ仲の良い友達でしかなかった。
しかし、友生は風見に友達以上の特別な感情を抱いていたのだか、風見は友生を兄弟みたいにしか思っていなかった。友生は女のコだが、風見には弟にしか思えなかったのである。
2人が話をしていると、台所の奥から「ピ、ピピピ、ピピピ、ピ…」
なにか音のような物がした。
「あれ?翔君、今、なにか音がしなかった?」
友生が部屋の奥を除き混みながら言った。
「ああ、最近、電子レンジの調子がおかしくてな、勝手に電源が入ったり、タイマーをセットしてないのに、さっきみたいに勝手に鳴ったりな。もうそろそろ寿命かもしれないな。」
「そういえば翔君の家の電子レンジ、かなり古いよね。新しいのに買い換えないの?
うちは最近買い換えたよ、最新機種のやつ。いろんな料理が食べられるのはいいけど、なんだかちょっとつまらないな。
お母さんは「楽になった~。」って喜んでいたけど。」
「ああ、あれな、でもこのレンジは母親の形見だからな、完全に動かなくまるまでは使うよ。」
友生は頭の中で「やっぱり翔君て優しいんだな。」
と思っていると、
「ピーーピーピピピー」
音が鳴ったと同時に、友生の意識の中に何かが飛び込んで来た。
「やあ、初めまして。僕は「蓮人」電子レンジの妖精なんだ。名前は「トーカ」よろしくね。」
その姿はまるで、電子レンジに手足が生えたような、それでいてロボットでもなく、マシュマロに色がついたような、柔らかそうな感じがした。そしてその物体は、友生の目の前をフワフワと浮いていた。
「え?え?え…??」
友生は訳がわからず、キョロキョロと辺りを見回したが、そこには今まで見ていた風見の家の風景はなく、いろんな色が混ざり合ってる空間だけが見えていた。
ビックリしている友生をよそに、トーカは話を続けた。
「ゴメン、ゴメン、ビックリさせちゃったよね。
君に危害を与えるつもりもないし、敵じゃないから安心して。
僕は電子レンジの中にいる妖精なんだ。今、君の頭に直接話をしてるから、他の人には見えてないんだよ。」
「電子レンジの妖精?何かのドッキリ??夢?ボク、まだ寝てるの?」
「違う違う、夢でも幻でもないんだよ。実は君にお願いがあって出てきたんだ。君は翔の事が好きなんだろ?」
「え?!な、なんで?」
「隠したって無駄だよ。僕たちは電磁波を使って人間の脳を直接読み取る事が出来るんだ。人間は脳からの電機信号で動いてるからね。
だから、こうして君と会話が出来たりするんだよ。
ただ、稀にまったく電磁波の影響を受けない人間がいるんだ。
そこにいる翔が、そうなんだ。僕は、翔にどうしても伝えなくちゃいけないことがあるんだよ。でも直接には伝えられない、だから、君が伝えてほしいんだ、僕の願いを、翔にとっても一大事が起こるかもしれないって事を、もしかしたら、君たち人類の未来が無くなってしまうかもしれないって事を。
翔は君の事を信頼している、君の言うことなら信じてくれるかもしれない、そう思ったんだ。お願いだ、もうそんなに時間が無いんだ。」
そう言い残すとトーカは目の前から消えて行った。
「と……き…友…生…友生?おい、友生、大丈夫か?」
気が付くと、風見の顔が、すぐ目の前にあった。友生は真っ赤になって下を向き、風見の体を両手で押し返し、
「だ、だ、大丈夫だから…ちょっと、ボーッとしちゃった。」
「本当に大丈夫か?熱でもあるんじゃないか?顔が赤いぞ。」
そう言った瞬間、風見は自分のおでこを友生のおでこに当てた。
さらに真っ赤になった友生は、もはや言葉も喋れなかった。
そうすると、また奥の方から、
「ピピーピピーピピー」
さっきより少し強い音が鳴った。
「今日は、なんだかよく鳴るな。」
風見が電子レンジの方を見て呟いた。それを聞いた友生は、さっきの頭の中での事を思いだし、
「あ、あのね、翔君、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「なんだよ、改まって、なんでも言ってみろ、勉強以外ならなんでもいいぞ、料理の事ならもっといいな。」
「えっとね…電子レンジの妖精…がね…「トーカ」って名前らしいんだけど…翔君にお話がね…」
「お、なんだなんだ、友生、夏休みに小説でも書くのか?電子レンジの妖精か、ファンタジーっぽくていいじゃん。」
「い、いや、そうじゃなくて…その妖精がボクの中に出てきて…」
友生が、あれこれ考えていると、頭の中にトーカが現れ、
「ガンバレ、ガンバレ友生!ガンバレ、ガンバレ友生!! 」
すると友生が、
「うるさい!ちょっと黙ってて!!」
つい声に出してしまった。
それを聞いた風見は、ビックリして、
「は、はい!」
思わず、直立不動で返事をした。その姿を見た友生は、
「い、いや、違うの、違うの翔君…翔君の事じゃなくて…」
今にも泣き出しそうな友生だった。
そして頭の中で、トーカに、
「やっぱりボクには無理だよ~…、なんて言ったらいいのかわからないよ…」
泣きそうになる友生を見たトーカは、
「う~ん、そうかぁ、ゴメンね、難しい注文しちゃって。やっぱり直接僕が話すしかないのか。」
「え?でも、直接には翔君と話せないんじゃないの?」
「いや、ひとつだけ方法があるんだ。君の協力が必要なんだけどね。いいかな?」
「ここまで来たら、なんでも協力するよ、ボクは何をしたらいいの?」
「いや、君は何もしなくていいんだ。
ちょっと体を借りるよ。」
そう言ったとたん、友生に意思とは関係なく、勝手に口が動き始めた。
「こら!翔!真面目に話を聞け!!」
「え??え!?」
風見がビックリしたのは当然だが、それよりも頭の中で聞いていた友生の方がビックリしていた。
「えっ!?!?え~~~!!??」
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