ご当地ヒーロー〔超蓮人TTT〕
じんべい
第1話
第1話〔
この物語は、故郷と料理をこよなく愛する高校生が、運命に導かれ、食べ物で世界を征服しようとする悪の電子結社〔愚蓮人〕から、ご当地食材を守るためヒーローとなった物語である。
時は2021年、東京オリンピックの興奮もまだ冷めやらぬ頃、食品関連の技術は加速的に進化していた。
中でも冷凍技術の進化は群を抜いていた。
というのも東京オリンピックで世界中の人が集まる為、日本ならではの「おもてなし」はもちろん、日本の技術力を世界中に見せるチャンスと捉えていた企業関係者は、それぞれ母国の料理が日本で味わえる手段として、料理そのものを冷凍し、なおかつ味もそのままに再現するという技術を切磋琢磨していたのである。
そして今では、料理だけでなく、食材そのものも冷凍することに成功し、解凍するだけで新鮮な野菜や魚、肉が手に入り、もはや〔旬〕という言葉は無くなっていた。
そしてもう1つ、同じく凄まじい進化を遂げていた物があった。
それは冷凍食品を解凍する「電子レンジ」である。
すべての機器に最新のAI(人工知能YUKA)を搭載、このAIは常に進化し続け、冷凍食品を入れるだけで、使われてる食材、料理名を
検索し、その料理にあった温度、時間を自動で決め、いつでも世界中の料理が自宅にて食べられる
というものだった。
そして〔YUKA〕搭載の電子レンジは世界中に輸出されていた。
この進化に伴い、保育園、小、中学校などや弁当製造業者の激務が改善、共働きの家庭でも、すぐに美味しく温かい料理が出来ることから、すべての学校、家庭に設置されていた。
その素晴らしい進化の中で、人々がただ1つ失った物があった。
それは「家庭の味」いわゆる「お袋の味」だ。
ちなみに、ある幼稚園で好きな料理を聞いてみると、「ハンバーグ」「カレーライス」「スパゲッティ」「お寿司 」「肉じゃが」聞き慣れた料理名が出るなか、「ボソーレ」「ホンオフェ」「パステウ」など聞きなれない料理名が出た。ただどの料理名の前に必ず「お母さんがチンした」というワードが全員から聞こえてきたのである。
そう、もはや家では料理をしなくなっていた。カロリー計算も栄養バランスも出来ている冷凍食品を買って来て、レンジでチンすれば、美味しいご飯が出来るからである。
しかし、そんな風潮の世の中に異を唱える者も少なからずいた。
それは、ご当地ならではの食材を使い、ご当地グルメを作っている「ご当地職人」達だった。
職人達は自分の作った食材に自信を持ち、旬にしか捕れない食材を使って、細々と抵抗をつづけていた。
そんな旬を大切にする人々の中に、料理が大好きな高校生がいた。
彼の名前は「風見 翔」岡山県の南の町に住み、目の前には瀬戸内海が広がり、まわりは山という、自然に囲まれた環境で暮らしていた。
母親は3年前に病気で他界、父親は仕事で外国に単身赴任、彼は母親と暮らしていた家に1人で住んでいた。
「さて、今日は「アジの南蛮漬け」と「キュウリの酢の物」でも作ろうかな。そういえばトウモロコシも出来てたっけ。」
風見の家の裏には、小さいながらも畑があった。母親が元気な頃作ったものだった。
風見の料理好きは、母親ゆずりでもあった。風見は母親の作る料理が好きで、台所に立つ母親の姿が好きで、料理の手伝いをするうち、料理が大好きになったのだった。
「そういえば、友生はトウモロコシが大好きだったよな、後で持って行ってやろう。」
「友生」とは2軒隣に住む同級生で仲がよく、友生の母親には、なにかとお世話になっていた。
毎日、自分でご飯を作る風見だったが、風見の家にも電子レンジはあった。しかし最新の物ではなく、30年ほど前に料理好きな母親の為に、少しでも楽をしてもらおうと、父親がプレゼントした物だった。
温めとオーブン機能のついた当時では最新機種だったが今では骨董品レベルだ。
しかし、母親にとっては初めての父親からのプレゼントだったらしく、大切に使い、フル活用し、料理の幅が広がったのも事実だ。
大切に使っていたこともあり、未だに現役で活躍している。
ただ何回か故障はしたみたいだが、父親が部品を調達し、修理している姿を風見は見ていた。
そして風見の父親は修理するたびに、口癖のようにこう言っていた。
「いいか翔、どんな物にも魂が宿る、大切に扱えばその魂は味方になってくれる。逆に雑に扱えばその魂は敵になる。
同じ魂なら味方の方がいい。愛情を忘れるな、わかったな翔。」
風見は、この父親の言葉意味が、よく理解出来てなかった。
たしかに大切に扱えば長持ちはするし、手入れをしてれば愛着もわく、電子レンジもこまめに掃除し、それなりに愛着はわいていた。
しかし数日後、この父親の言った言葉の本当の意味を風見知ることになるのだった。
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