第3ゲーム こんな場所なんです。

文字通り深水は執事をクビになった。後から分かったことだが、深水は途中で仕事を抜け出し、あのような行為を4、5回繰り返していたことが明らかにされた。

深水「このような無礼極まりない行為を行い、誠に申し訳ございませんでした。」

荷物を纏めて家を出ていこうとする深水に私は言った。

美羽「あんた、仕事を舐めてたでしょ。」

深水「いえ…そのようなことは…」

美羽「じゃなきゃこんなことするわけないでしょ!!普通なら1回だけしても「すみませんでした」で済むのに!!何回もしてるからクビにされたんでしょ!?少しは考えなさいよ!!」

今の私は怒りで頭に来ていた。深水は少し驚いたような顔をしたが、すぐに冷静な顔に戻った。

深水「では…私はこれで。」

美羽「今度パパにあんたより良い執事雇うから!!精々あんたはゲーム大会にでも出てなさいよ!!」

部屋のドアノブに手をかけたところで私は今まで思いつめていたことをぶつけた。そのあと深水は何も言わず、影月邸を出ていった。思えば三年……あいつがこの家にやってきたのは三年前のことだった。


ー三年前ー


当時10歳の小学四年生だった私は、段々と今の性格になりつつあった。あいつが来てから……

美羽の父「美羽、ちょっとおいで。新しい人を紹介しよう。」

いつもはあまり家にいないパパが今日は休みだと聞いただけでも嬉しかったのに、新しい人と言われ、私は舞い上がっていた。ママは私が2歳の頃に乳ガンにかかり、この世を去った。ママの最後の言葉は「美しい羽を広げ、その大きな翼で人々を包み込んでほしい。」だった。以来、私はパパの優しい愛情を注がれて生きてきた。何不自由なく……

美羽「パパ、新しい人って誰?」

美羽の父「美羽も嬉しがると思ってね、パパが美羽のために執事を雇ったんだ。」

家の大きなリビングに着くと、一人の端麗な青年が立っていた。この時が私と深水の運命的な出会い……じゃなかった、出会いだった。

美羽の父「この方が、今日からお前の執事を担当する深水大悟君だ。」

深水「こんにちは、お嬢様。」

身長が低かった私の背に合わせようと深水がしゃがんで挨拶した。この時の深水は当時19歳。まだ成人にもなっていなかった。

美羽の父「では、娘をよろしく頼む。」

深水「分かりました。」

その後…からと言うもの、深水はその優秀さで私を支えた。私が学校の行き帰り以外のいついかなる時でもずっと私の横にいてくれた。今思えば、深水は何でも出来すぎていたのかもしれない。深水が天才的なゲーマーだと気付いたのは1年後辺りのことだった。

美羽「ゲームは得意?」

この一言が深水のゲーマー魂に火をつけたのだろう。深水はゆっくりと口を開き、こう言った。

深水「私がゲームで出来ないことは一切ございません。」

と……


それからは私もゲーマー魂に火がついたのか、いつか深水を倒すことを目標にし、今に至るということになる。






何でだろうな…いつものように些細なワガママを言ってそれさえも聞いてくれたあいつはもういない。二度と会うことも無いのかもしれない。あいつが家を出てからこの数日間、やってもらったことが苦に思えてきた。飲み物を取りに行くことさえも……親元を離れた子供が思うことと同じだ。いつもやってもらってたことがこんなに大変ということに気付かされるって……夜も、私が寝るまで横にいたのも今では人影すらない。私、どんな寝言言ってたんだろう…どんな夢見てたんだろう…それはあいつに聞かなきゃ分からないことだ。

美羽「あれくらいのことしたんだから、当然のことよね。」

ベッドの枕に顔を埋めて呟いた。けど…

美羽「寂しいわけ…ない…じゃない…私が寂しいわけ…ない……」

でも言えば言うほど目から涙がこぼれる。謎の疑問が浮かび上がる。

美羽「全部あいつのせい…私が泣くのも全部あいつのせいなのよ……」

ただただ素直になれなかった。あいつの天然さにツッコミを入れる毎日がもう一度…あったら…!

美羽「パパに頼んでみるか……」

涙を拭い、パパがいる部屋に移動する。

ガチャ…

美羽「ごめんねパパ。こんな時間に…」

美羽の父「どうしたんだい?こんな時間に。」

美羽「実はね…深水をここに戻してほしいの…」

ダメだと思っても口が開く。だが返ってきた答えは意外だった。

美羽の父「実は、パパも同じことを考えていたんだ。三年間お前に付き添ってきた深水君がこの家からいなくなってからちょっと殺風景な感じがしてきてな。深水君には数日後には戻ってきてほしいと頼んである。」

まさかパパも同じこと考えてたなんて…運が良すぎる!


ー昨日ー


美羽の父「こんな時間にすまない。ちょっと話を聞いてくれないか。」

美羽の父は電話で深水と連絡をとっていた。

深水「何でしょうか?」

美羽の父「もう一度…娘のために、この家のために戻ってきてくれないか?」

深水「私をお戻りにさせてくれると言うのですか?」

美羽の父「そうだ。どうか頼む。」

深水「分かりました。数日後に影月邸へお戻りになります。」



美羽「ありがとう!パパ!」

これでひとまずは安心した。やっと…いつもの日常が戻ってくるんだ…


ー数日後ー


約束通り、深水はこの家に戻ってきた。いつも通りの冷静な顔で私の部屋に入ってきた。

美羽「べっ、別に寂しくなって戻したわけじゃないんだからね……あんたがいなくなって色々と不便になっただけよ……」

私は若干照れ隠しをしている。そして初めて会った時のように深水は言った。

深水「ただいまお戻りになりました。お嬢様。」

美羽「ふふっ、おかえり。」

あいつにあまり見せない笑顔をいつの間にかしていた。

See you next geme?



次回予告

深水と恋愛ゲームでバトル!?

深水「私は今までに120人くらいのヒロインを落としてきたので通称「落とし神」と言われてます。」

美羽「いやそれどっかのオタクメガネだし!!」


美羽、恋愛ゲームで勝利なるか?

美羽「女の子だからこそ女の子の気持ちが分かるのよ!」

次回 「こんな色恋沙汰なんです。」

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