第3話ギャル子さんとお昼
結局その日の放課は俺も来栖さんもそれぞれ男女に囲まれて質問攻めに遭っていた。
もちろん、昼休憩も問答無用で囲まれかけた。
けれど、さすがに昼休憩は二人きりでいたいから恋人の時間を邪魔しないでね、と来栖さんが囲いを一蹴し、俺達は校舎裏に生えている木の陰に並んで腰を下ろしている。
相変わらずミンミンとうるさいセミがないているけど、意外と涼しい風が吹くおかげでそこまで暑くなかった。
とはいえ、やっぱり夏だし暑いのもあって、来栖さんは胸元までボタンを開けている。
となると、どうしても目はちらりと見える谷間に向かっちゃう訳で……。
「いやー、私の彼氏君は大人気だねぇ」
「男も女もみーんな来栖さんのことしか聞かなかったけどね。人気なのは来栖さんだけだよ」
俺はほぼ何も答えられなかったから、途中でみんな来栖さんの方に行ったしな!
「そう? 私は彼氏君のことをいっぱい聞かれたけどね」
「へぇ、何を聞かれたの?」
いや、うん、聞いたら凹むだけってのは分かっているんだけど、気になる。
何を聞かれたか、というより、来栖さんが何を答えたかが気になる。
「彼氏君が意外と大胆でー、おっぱいが大好きで超ガン見すんだよねーとか。これから色んな童貞を奪ってくのが楽しみーって」
「何言ってくれてんの!? なぁ、マジで何言ってるの!? みんな途中から俺のことおっぱいの人みたいな感じに見てたの!?」
「あはは。だって、さっきから胸元ジロジロ見すぎだし? そんなに見たいの?」
「そりゃ見たいに決まって……ごめんなさい」
普通に見ていたのがばれていた。
だって、そんな格好してるんだもん……。見ちゃうよ。ガン見しちゃうよ。男の子だもの。
「まぁ、さっきのは冗談で、本当に言ったことは別に普通だよ。私の彼氏君は普通に優しくて、昔から人を変な目で見ないって」
「酷い冗談だよ……」
その上、評価が普通ってのが地味に痛い。
いや、まぁ、実は罰ゲームで付き合っただけで、すぐ捨てるつもりだよ。もっと良い男いっぱいいるしね。とか言われていないだけマシか。
自分で言っていて悲しくなってきた。
「ごめんごめん。お詫びにほら、お弁当作ってきたから一緒に食べよ?」
「女の子のお弁当……初めてだ……」
「へぇ、お弁当の初めては私だったかぁ」
「……今の声に出てた?」
うわぁ、少し恥ずかしいかも。でも、しょうがないじゃん。
女の子の手作り弁当を一緒に食べるなんて、夢みたいなんだから。
一応、彼氏彼女の関係なんだし、はい、あーんくらいは期待しちゃうだろ?
「そりゃもうバッチリ。ぐへへ、これでお弁当童貞は卒業だ。ぐへへって声が。いやん、やらしい」
「酷いねつ造だよ!? お弁当くらいしかあってないよ!?」
「翻訳してみた。的な?」
「翻訳する必要ないよね!?」
「だって、やらしい顔してたし?」
「感動してたんです! 別にいやらしい気持ちはこれっぽっちも――」
「そっかそっかー感動したんだねぇ。彼女のお弁当に感動しちゃったんだねぇ?」
うっわー! そのニマニマした顔! 腹立つぅ!
甘酸っぱい雰囲気はどこにいったんだよ!?
クラスのみんなに囲まれて、手を出したか聞かれたけど、出した手を甘噛みされたあげく、遊ばれるだけで終わる気がする。
全然ちょろくないよこの人……。誰だよビッチはちょろいとか広めた奴は。土下座すればヤらせてもらえるとか絶対嘘だろ。
土下座したら爆笑されるだけだよ。
「まぁまぁ、それじゃあ、からかったお詫びに彼氏君には最初の一口目を進呈するよ」
そういって来栖さんが弁当を開けると、中身はすごくちゃんとしていた。
彩りが考えられた配置、食べやすいサイズ、栄養バランスを考えたおかずの組み合わせ。
何というか、お母さんが作るようなお弁当だった。
「お母さん弁当作るの上手だね」
「なーに言ってるのかなー? これ作ったの私だし」
「えっ!? マジで!? すげえ!?」
「そ、そうかな? そんなことないし」
「食っていいの!?」
「う、うん」
とりあえず、卵焼きから。
あ、甘い卵焼きかぁ。小さい頃から好きでお弁当に良く持たされていたっけ。
何か懐かしい味がするなぁ。
「うまぁ」
「ふふん、当然だし。はい、あーん」
こ、ここでそれを出すか!?
しかも、お弁当の定番からあげと来た!
こんなの拒否出来る訳がない、
「あ、あーん」
恥ずかしいけど口を開ける。
これくらいしたって別にいいだろう? だって、一応彼氏なんだし。
「なーんちって! うまぁ。さすが私」
「えっ!? ちょっ!? ええっ!?」
「あはは、本当に良い反応するよねー。そんなにあーんして食べさせて欲しかった?」
半分かじった唐揚げをゆらゆらさせて、来栖さんがケラケラ笑う。
またからかわれた!?
人の純情をまた弄んだな!?
ここで食べさせて欲しかったなんて言ったら絶対にからかわれる。
「別に、そんなことない。あーんくらい別にどうってことないし」
「あはは、拗ねないでよ。私も味見したかっただけだからさ。ほら、ちゃんと美味しかったよ?」
来栖さんはそう言うと俺の目の前にかじりかけの唐揚げを差し出してきた。
いや、うん、あれ? 何か普通にあーんされるより恥ずかしい気がするのは何故だ!?
「ほーら、あーん? 拗ねてないならできるよね?」
くっ、確かに……! どうってことないって言った手前、動揺を見せる訳にはいかない。
ええい、ままよ!
勢いに任せてぱくっと噛みつく。
うん、とってもジューシー、冷えていても美味しい。
「うまい……」
「でしょ?」
くそう。何で来栖さんは全く恥ずかしがらないんだ!?
こうなったらこっちから恥ずかしがらせてやる!
「間接キスしちゃったな?」
ふっ、どうだ? 自分のやった悪戯が原因で恥ずかしがるといいさ!
「あっ、そっか。間接キスしちゃったんだ」
よし! 顔を背けて恥ずかしがってる!
ははは、どうだ。俺だってやられっぱなしじゃないんだぞ?
せっかくだし、恥ずかしがっているレアな来栖さんをもう少し眺めよう。
「うん、どうせならこのままキス童貞まで卒業しちゃう?」
「へっ!?」
来栖さんがいきなり振り向いて、顔をぐいっと近づけられた。
唇が触れそうで、来栖さんの声と一緒に吐息が唇にかかる。
な、な、な!? もしかして、さっきのは恥ずかしがっている振りだったのか!?
で、でも、俺がここで前に出れば、間違い無くキスが出来る訳で。したいかしたくないかと言われれば、したい訳で。え、したいのか俺!?
「なーんてね? さすがにキスの味が唐揚げとか嫌だし、キスはなしで」
「……そうだね」
ごめんなさい。もうキスしても良いかなとか思っていてごめんなさい。
スッと身を引かれてガッカリしてごめんなさい。
「あはは。本当に高瀬はピュアピュアだね。キスはまた今度してあげるから元気だして?」
「来栖さんはホント悪戯好きだよね……もう俺の純情ボロボロなんだけど」
「好きな子には悪戯したくなっちゃうからねー」
うん、そういうことをサラッと言うのが本当に卑怯だよ。
何も言えなくなっちゃうからさ。
「ねぇ、なんで俺のこと好きになったの? そんなに接点があった訳じゃないよね?」
「えー、その言い方はひどくない? けっこー感謝してたのに?」
「いや、うん、感謝されるようなことした記憶が無いんだけど……」
「そうだねぇ。彼氏君のそういう普通なところが好きだよ」
「へ?」
どういうこと?
あれ? またからかわれてはぐらされているだけ?
「褒められている感じが全然しないけど……」
「褒めてる褒めてる。あ、良い子良い子って撫でてあげようか」
「……遠慮します」
はぁ、結局からかわれた。
「ま、ユウみたいに普通に接してくれる人は昔からいなかったからさ。ほら、こんな髪にこんな見た目だから」
「え? それって――」
もしかして、見た目でギャル子さんとかスーパービッチとか言われているのが嫌だったり?
「彼氏君はからかいがいがあるってこと。ほら、ギャルだのビッチだの言われてる私相手でも超ピュアな反応するし?」
そっちかよう! 何か勘ぐって損したよ!
来栖さんは俺の顔を見てニマニマ笑う。
うん、これはきっと嘘を言っていない。完全に遊ぶ相手として好かれているみたいだ。
「勉強教えてくれた時もちゃんとマジメに教えてくれたでしょ?」
「あぁ、そう言えば、そんなこともあったっけ」
「他の人にお願いしたら、勉強する必要あんの? とか、すぐ遊びに行こうとか言われるし。でも、ユウはちゃんと最後まで私のお願い通り勉強教えてくれたじゃん」
いや、ぶっちゃけ緊張して、余計なことを考える余裕がなかっただけですけどね!?
だって、超良い匂いするし、来栖さん見てると目のやり場に困るから、教科書とノートに集中するしかなかったし! 別に来栖さんが望んでいる普通の接し方をしている訳じゃなかったはずなんだけど。
なんだろう!? そう言われると何かすごく恥ずかしいというか、嬉しいというか、何かすごくムズムズする!
「そっか」
そう返すので精一杯だった。
とりあえず、恥ずかしさを押し込もうと来栖さんの作ってくれたお弁当を口に詰めていく。
本当に美味いな。
「そういえば、彼氏君の小さい頃の話聞いてみたいなぁ」
「小さい頃?」
「ほら、今より小さい頃はもっとからかいがいのある子だったのかな? って」
「そ、そんなことはないはず」
そもそも今でもからかいがいのある子じゃないはずなんだけどな……。
でも、小さい頃か。
別に普通に遊び回っていた記憶しかないけど。
「例えば、金髪の子と遊んだことがあったとか? ほら、高瀬って私の髪見ても変な目で見なかったし」
「あぁ、うん、小さい頃に金髪の男の子の友達がいて、よく遊んでいたんだ。ケイトっていう奴でさ」
「やっぱり……」
「俺もそいつも家族の転勤の都合で離れ離れになっちゃって、連絡は全然取れてなかったんだけどね」
「仲良かったんだ?」
「うん。また会いたいかも」
「そっか。あ、時間もないし、早くお弁当食べちゃわないとね」
「そうだね」
あれ? 特にからかわれなかったな。って、いくら来栖さんでも常にからかってくる訳でもないか。
っていうか、そうだ。俺からも来栖さんに聞きたいこと、知りたいこともっといっぱいあったんだ。
「来栖さんの小さい頃はどうだったの?」
「秘密」
「なんで?」
「そっちの方が面白そうだもん」
「えぇー……」
前言撤回。やっぱり来栖さんはずっと俺をからかい続けると思う。
はぁ、黙ってご飯を食べるのが正解っぽいなぁ。
「でも、一個教えて貰ったし、一個だけ秘密を教えてあげるよ」
「へー」
まぁ、どうせまたからかわれるだろうし、適当に聞き流しておこう。
んで、ちゃんと聞いていても、ん? 何か言った? と聞き返して、からかう気を削ぐんだ。
「今はこんなおっぱいしてるけど、小さい頃はまな板だったよ」
おおう……おぱぁい。おっぱぁい。おっぱいがいっぱぁい。
やっべぇ……寄せてあげると破壊力半端ない。
ボタンを外したブラウスからチラッと見える生の膨らみがやっばぁい。
思わずガン見ですわ。箸もストップで口ポカンです。
「どうせまたからかわれると思って、油断してたでしょー?」
胸をもう一度揺らして来栖さんはニマニマと笑う。
これが元々まな板とか信じられないです。女の子ってすげぇ。
「って、子供のころはみんなまな板なのは当然じゃないか!? 秘密でも何でもないじゃん!?」
「あはは。やっぱり良い反応するよねぇ。顔真っ赤っか。ピュアだねぇ。うりうりー」
「やめろ!? 脇腹は弱い!? んっ、あははは!」
「よーっし、たっぷりからかえたし、午後の授業もがんばろーかな。明日もお弁当楽しみにしてると良いし」
そんなこと言われただけで明日が楽しみになる。
本当に来栖さんには敵わないな……。
告白成功率0%のスーパービッチギャル子さんに何故か告白されました @kurobuchi3
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