第2話付き合ったらこうなるよね
翌朝、俺と来栖京が付き合っていることは全校に知れ渡った。
ツイッターとかラインとか超怖いんですけど!
……俺と来栖京の写真がめっちゃタイムラインに流れてるんだよ。
「まさか手を繋いだだけでこんな大事になるなんて……」
「良く撮れてるよね。最近のスマホってすごいわー。ガラケーなんかとは大違いだねぇ」
来栖京が俺の身体に密着するようにして、ケラケラ笑いながら俺のスマホをのぞき込んでくる。
その廊下を歩きながらそうされると歩く度に、こう胸が当たるのを意識させられるんですけど。
みんなこっちをチラチラ見てくるんですけど!
「おんやー? 顔が赤いぞ彼氏君」
「来栖さんのせいでしょ……。その当たってるから」
「でも、まんざらでもないっしょ? 来栖ちゃんが離れちゃって良いのかな? さっきからおっぱいが触れてるところチラチラ見てるくせに?」
「~~っ!?」
言い返せねえ……。
すごくニマニマした顔でこっちを見つめてくる。多分これ肯定しても否定してもからかわれる奴だ。
くそう、これが経験の差ってやつかよ。おっぱいが当たっているだけでドキドキしちゃうなんて、ピュアピュアボーイだね。って笑われる奴だよ。
「自分の携帯で見てよ……」
「私、ガラケーだし。今時ちょー珍しいでしょ? 絶滅危惧種通り越して化石系? だから、ツイッターとかラインを見るには彼氏君の携帯が必要なんだよねー」
そう言って来栖京が鞄から携帯を取り出す。確かに今時珍しい折りたたみ式のガラケーだった。
確かにガラケーじゃ見られないから、俺のを見るしか無いんだろう。
でも、なんでこんな携帯を使うんだろう? お金が無い訳でもないだろうし。
「こういう古くさいのを持っていると、オジサン達が喜ぶんだよ。これぐらいシンプルな方が良いんだよ。スマホは難しくていかんって」
「あー……」
妙に納得した。けれど、すごいもやっともした。
あぁー、聞くんじゃなかった。
「あれ? あれあれ? 妬いてくれてるの?」
「……別に妬いてない」
「そっかー。ざあんねん。妬いてくれたら嬉しいのになー?」
いや、そのニマニマした顔は全然残念がってないように見えるけどな!
それにしても、周りの視線がすごい刺さる。
うん、声には出ていないけど、なんでお前がそこにいるんだ? って問いかけてきているような気がする。
俺だって聞きたい。何で俺が来栖京の彼氏になったんだ? ってさ。
少なくともみんなが噂するスーパービッチギャル子さんの好みには一ミリだってかすっていない。
そんなことを悩みながらクラスに入ると、俺と来栖京はいきなり女子達に囲まれた。
「ねーねー、来栖、高瀬、あんた達付き合ってるの?」
何ともストレートな質問が来たなぁ!?
「うん、付き合ってるよ」
来栖さんもストレートに返したなぁ!? 俺を挟んで剛速球のキャッチボールしないで!?
何なの!? この中で恥ずかしがっているのは俺だけなの!?
って、うわあ!? 女子のみんなの視線がこっちに!?
怖っ!? 生まれたての子馬より緊張で足がプルプルしてるんですけどぉ!?
「高瀬、あんた来栖と付き合ってるの?」
「え、あ、えっと、はい」
うん、何かもう何も言えなかった。
けど、女子達も特に何かを言う訳でもなく、ふーんで終わった。
あれ? それだけ?
それだけで良いのなら、別に良いんだけど……なんだったんだろう? 一瞬視線が怖かったんだけど。
「えー、あっちの大学生の彼氏はどうなったのさー?」
「でっかい会社のおじ様は?」
あ、これもう完全に俺どうでも良い状況になってる。
何か聞き耳立てるだけ辛くなりそうだから、さっさと自分の席に逃げよう。
窓際の席から遠くの景色を眺めて、この訳のわからない状況から現実逃避するんだ。
「はぁ……どうしてこうなったんだろう」
「本当に何がどうしてこうなったんだろうな? 被告人、高瀬祐作」
「本当に……どうしてこうなったんだろうな……」
ボキボキと拳を鳴らした男達が俺を囲んでいる。ついでにいえば、こいつら全員来栖さんにこっぴどく振られた人達だ。
いつのまにか被告人にされているけど、この雰囲気絶対に有罪判決というか死刑宣告が下るだろう。
あぁ、外の空気おいしい。これが俺の見る最後の景色かぁ。
鳥も気持ちよさそうに飛んでる。この窓から投げ捨てられたら俺も飛べるかなぁ……。
「ヤッたのか?」
「ぶっ!? やってねえよ!?」
「なら、おっぱい揉めたか!?」
「ぶふっ!?」
男子諸君もストレートだなぁ!
「相手はあのビッチのギャル子さんだもんな。彼氏になったら三秒で即合体だろ?」
球筋がデッドボールだよ! 頭ぶっ飛んでるよ!
「いや、さすがにそれはないよ……」
「え、マジかよ」
「マジだよ。手繋がれたくらい」
いや、うん、おっぱいは触れていたけど、俺からやった訳じゃないし。
あ、そもそも手も俺からじゃない。俺何もしてねぇ!?
「ありえんだろ!? あのスーパービッチギャル子さんだぞ? 今女子達と結構えげつない下ネタ話すギャル子さんだぞ?」
うん、断片的に聞こえている。
大きければ良いってもんじゃないとか、聞きたくないよ! 身長だよな!? 身長のことだよな!? キスの位置に困るって言ってるしさあ!
キスしたことないけどさああああ!
「高瀬、お前、へたれだとは思ってたけど、まさかギャル子さん相手に手も出せないなんて本当にへたれだな」
そうですよ! 握る手すら出せなかったへたれだよ!?
「うっせーよ。ってか、来栖さん相手にってのは関係ないだろ?」
「あるね。だって、もう色々な人とやりまくってるんだろ? 簡単に色々なことやれる相手なのに手を出さないんだから、へたれとしか言いようがないだろ?」
「それは……」
うん、確かにその通りなのかもしれない。
けれど、それは言っていることが本当だったらのことだ。
俺は来栖さんのことをまだ噂でしか知らないから。
「俺はへたれだけど、来栖さんは意外とガードが堅い……かもしれないから」
「そう言うあたりがへたれなんだよなー。にしてもなんでお前なんだろうな? お前がいけるなら俺にもチャンスが――っと、チャイムか。また後で聞かせろよ」
ふぅ、チャイムに助けられた。
来栖さんの方はどうなったんだろう?
そう思って来栖さんの席に目を向けると、来栖さんと目が合って手を振ってくれた。
反射的に手をあげてしまうと、来栖さんは親指をグッと立ててウインクしてきた。
意外と可愛いところがあるというか、こういうことを割と誰に対してもやるから、来栖さんは人気だったりする。
誰に対してもいきなり距離を縮めて、パーソナルスペースに入り込んで、自分のペースでかき乱していく。そんな人って印象だ。
色々危ない噂はあるけれど、悪い人じゃないとは思う。
そもそも……あの言葉は本当だったんだろうか?
耳元でくすぐるように囁いた、来栖さんも処女だっていうのは……。
あ、ダメだ。変なことを考えながら来栖さんを見ていたら恥ずかしくなった。
邪な気持ちを抱いたまま来栖さんを見つめることが出来ず、俺は目線を前に戻した。
本当に俺はまだ来栖さんのことを何も知らない。
何で俺が選ばれたんだろう?
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