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顔をジャバジャバ洗い、猫みたいに顔をゴシゴシ拭いた。鏡に映る私は、昨日までの私と何も変わらない。
朝ご飯を食べて恵太の家に向かった。
昨日のキスも、夢だったのかな。
夢でないなら……
恵太に逢うのは恥ずかしい。
恵太の家の前には引っ越し業者のトラックが止まっていた。カンジや宏一が連絡したのか、高校や大学の友達も見送りに来ていた。
「優香!来てくれたんだ!かめなし、お前も来てくれたのか。最後に俺が抱いてやるよ」
恵太がかめなしさんを抱こうと手を出し、鋭い爪で引っ掛かれた。
「フゥー!ギャッ!!」
かめなしさんは完全に拒否。私はその様子を見て苦笑い。人の姿をしたかめなしさんなら、きっと『俺は男が嫌いなんだよっ!』って、言ってるはずだ。
「ていうか、最後の最後で引っかかなくてもよくね?かめなし、またな。いつか必ず、お前を抱いてやるからな」
周囲にいた者達から、笑いがおきる。
恵太は学生時代人気者だったからね。癒し系で友達思いで、ヘタレだけどみんなに優しくて。男子からも女子からも好かれていた。
男子が恵太を揉みくちゃにし、大騒ぎしてる。
――私……
恵太に……
近付けないよ。
みんなに囲まれて笑っている恵太。
すごく……キラキラして……
眩しかった。
トラックへの、荷物の積み込みが完了した。東京駅に向かうため、恵太の両親と弟、そして最後に恵太がタクシーに乗り込む。
タクシーの窓を開けて、恵太が私を見つめた。みんなの後ろにいた私を、美子が前に押し出す。
「優香……またな……」
「うん……恵太……またね」
私は泣きたいのを我慢して、笑顔でこたえた。美子は私の隣で号泣している。
「恵太……またね」
「ああ、美子も草野と上手くやれよ」
「うん……。言われなくてもわかってる。恵太の夢、叶えばいいね。採用試験頑張ってね」
「ありがとう美子」
恵太はみんなの顔を見渡し、大きな声で最後の挨拶をした。
「みんな!本当にありがとう。大阪に遊びに来いよ!」
車から身を乗り出し、みんなに大きく手を振った。
「おおー!恵太!また東京に来いよ!絶対だぞ!」
友達の大きな声が、静かな住宅街に響いた。
タクシーの窓が、スーッと閉まった。
まるで……
永遠の別れみたいに……。
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