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「ママ-!ママ-!大変だよ!かめなしさんがいなくなった!」
私の叫び声に、母がダイニングルームから顔を出す。
「やだ、目の前に座っているじゃない。寝ぼけてるの?馬鹿な事言ってないで、しっかりしてよね。ねぇ、かめちゃん」
猫のかめなしさんはキリッとした目を母に向け、甘えた声で「ニャ~」と鳴いた。
「ニャ~?かめなしさん、ニャ~って言ったの?」
「ニャア~」
「マ……ママ、かめなしさんが、ニャ~って言ってる!ママ!ねえ!ママってば!聞いてるの」
「何言ってるの?猫が『ワン』とか『コケコッコー』って、鳴いたらおかしいでしょう。猫は『ニャ~』幼稚園児でも知ってるわよ」
「これは猫のかめなしさんだから。私が言ってるのは、茶髪で白いスーツを着たイケメンのかめなしさんだってば」
「優香、いい加減にしなさい。かめちゃんが白いスーツを着てるわけないでしょう。変な夢を見て、朝っぱらからママをからかわないで。早く顔洗って、目を覚ましなさい。恵ちゃんが出発してもしらないよ」
……母は完全に逆ギレしている。
まずは冷静に……。
冷静にならないと。
かめなしさんは猫に戻ったのかな?
それとも私の特殊能力がなくなったのかな?
もうずっと猫なのかな?
それともずっと猫だったのかな?
私の言葉、通じてるのかな?
もうかめなしさんと話せないの?
「……かめなしさん。聞こえてる?かめなしさんは猫に戻ったんだよ。猫にしか見えないの。私の言葉がわかったら、手を上げて」
「にゃおん~」
かめなしさんは私の手をペロペロ舐めた。
かめなしさん、もう私の言葉がわからないの?人間の言葉がわからないんだね。
かめなしさんが猫に戻り、本当なら嬉しいはずなのに、胸がキューッと締め付けられ、無性に寂しいのは何故だろう。
かめなしさんを抱き上げ、両手で高く掲げた。かめなしさんの体を隅々まで観察する。
「ニ……ニャ……ア……ンッ」
どう見ても、かめなしさんは猫だ。かめなしさんをギューッと抱きしめ頬擦りする。
「お帰り。猫のかめなしさん。大好きだよ。ずっと大好き」
床に下ろすと、かめなしさんがいつものようにゴロゴロと寝転がった。
「かめなし、ふぇっ……何で猫なのよぅ。猫なんてやだぁ」
私は半べそ状態で、かめなしさんの体をひたすら撫でた。
私の隣で、母が口をポカンと開けて見ている。
「……さてと、恵ちゃんちに先に行ってるから。朝ご飯食べたら来なさい」
母はかめなしさんをヒョイと抱き上げ、先に家を出た。
この数ヶ月……
何だったんだろう。
昨日の夜、かめなしさんと話したことも、全部夢だったのかな。
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