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「うわ、わ、わ!?な、なに!?」
額を掠めただけの優しいキスなのに、驚いた私は、思わず声を上げる。私のリアクションに恵太は、明らかに動揺している。
「……ごめん。優香が……可愛かったから。最後に想い出が欲しかったんだ。これで、俺、採用試験受かる気がする。じゃあ、明日……な」
キスしたのに……
謝るんだ。
このキスは想い出のキス……
すでに過去形なんだね。
採用試験受かる気がするって……
何のご利益なのよ。
恵太の夢すら教えてくれないのに、私のキスをお守り代わりにしないでよ。
矢吹君とのキスを思い出し、嬉しいのか、悲しいのか、それすらもわからない。
玄関ドアを開け家の中に入ると、かめなしさんが階段に座り、ジロリと睨み付けた。
まさか……キスされたの見てないよね……。
『優香!』
「は、はい!」
恥ずかしさから、思わず声が裏返る。
『なんで、アイツなんだよ。矢吹よりマシだけどさ。俺という、カ、レ、シ、がいながら。なんで、次から次へと浮気するわけ?二股とか、三股とか、人間は平気なのか?』
「猫と一緒にしないで。三股なんてあり得ないし。そもそも、かめなしさんは彼氏じゃないし」
ピンと立っていたかめなしさんの耳が、ダラリと垂れる。
『そんなぁ……。俺が、一番気にしてること、平気で言うんだからな。マジでへこむし……。言っとくけど、優香のファーストキスは矢吹でも恵太でもない。俺なんだからな。何度上書きされても、俺が一番なんだから』
一人で、いや一匹でいじけてるかめなしさん。私のファーストキス……、どれがファーストキスなのか、わかんなくなってきた。
「かめなしさんは猫だけど、大好きだよ」
しまった。
つい可哀想になり、『大好きだよ』と口走る。
『えっ?えっ?……マジで?俺のことが好きなのか?』
「うん、猫の中では一番だから」
『な、なんだ。猫の中でかよ。この家に飼い猫は一匹しかいないだろ。俺をバカにしてんの?』
「どうとらえるかは、かめなしさん次第」
『ちぇっ。でも優香は俺のことが、大好きなんだよな?まじか、照れるなぁ。優香、部屋に行こうぜ。ゆっくり愛を深めよう』
一人で盛り上がっているかめなしさんを、横目で見ながら二階へ駆け上がる。
『優香、そんなに急がなくても。直ぐに俺も行くよ。ハニー』
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