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「これで、大阪に行っても頑張れる。ありがとう」
恵太は私に右手を差し出した。
「えっ?何?」
「握手だよ」
「やだよ……」
「なんでだよ?」
「だって……誰かに……見られたら」
「は?この部屋、二人きりなんだけど」
恵太は私の手を掴むと、ニカッと笑った。
恵太と手を繋ぐなんて、恥ずかしいよ。
握手しているだけなのに、ドキドキしてきた。
「……ったく、そんなに真っ赤になったら、俺まで恥ずかしくなるだろ」
恵太は私と手を繋いだまま、部屋を出る。
「家まで送る」
「送るって……五軒先だよ……」
「そうだよ。五軒先まで送る」
恵太はまたニカッて笑った。
白い歯がやけに眩しい。
手を繋いで歩くなんて、幼稚園以来かも。恵太に『あっかんべー』したなんて、幼稚園の頃、マイブームだったのかな。
恥ずかしいけど……
懐かしい。
恵太の家から僅か数分で家の前。
玄関の前にはかめなしさんが座っていた。
『うわっ……わっ……わっ……!?し、信じらんねぇー!なにやってんだよ!?優香、矢吹に振られて、血迷ったか!?』
かめなしさんは頭を抱え『
諺、知ってるんだ。
猫なのに、凄いな。
でも
烏が恵太なら、油揚げが私?
私、干物から油揚げに格上げしたの?全然嬉しくない。
『何でコイツに獣耳が!?何で、コイツと手を繋いでんだよ!お前、獣族だったのか!』
意味不明な言葉を発し、かめなしさんは『フーッ!』と唸ると、戦闘体勢に入った。四つん這いで体を伏せ、お尻をフリフリ振っている。
猫ならば、その体勢も見慣れているが、今のかめなしさんは人間だ。その体勢は、かなりアブナイ人に見える。
「かめなしさん!何やってるの」
『よりによって、何でヘタレの恵太なんだよ!俺が……日本に残った意味がないだろう』
「……日本に残った意味?」
かめなしさんは慌てて口を押さえ、プイッと背を向け家の中に入った。
今のは、どういうこと?
「かめなしは相変わらずだな。短気だし、喧嘩っ早いし。もし人間だったら、ヤンキーだな」
「……ヤンキー?まさか。かめなしさんイケメンだし、ああ見えて優しい時もあるんだよ」
「かめなしがイケメン?確かに他の猫と比べたら、イケメン猫だけど。優しいって、どこが?いつもフーフー唸ってんじゃん」
「かめなしさんの悪口言わないで。私には大切な人なんだから……」
「かめなしは猫だよ?向きになるなんて、変だよ」
そうだよね。
私、変だよね。
かめなしさんは、猫なのに……。
「恵太、明日は何時に出発するの?」
「引越しセンターが、朝十時に家の前に来るんだ」
「分かった。見送りに行くね」
「うん、待ってる。たまにはLINEしてくれよな」
「わかった。毎日LINEするね」
別れ際、突風が吹き、前髪がサラサラと揺れる。髪の毛に気を取られていると、恵太が私の額に、チュッってキスをした。
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