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「そんなシケた顔すんなよ。俺と二人きりはそんなに嫌か?」
恵太が、笑いながら言ったんだ。
嫌じゃ……ないよ。
そう言いたかったけど、言葉が出てこない。
「俺は嬉しいよ。美子、俺に気を使ってくれたんだな。それに美子が草野と付き合ってることも嬉しい」
「えっ……?」
「美子のこと、気になってたから。俺さ、明日大阪行くんだ。本当は大学卒業した時に、父ちゃんの転勤決まってたんだ」
「うそっ……」
「だからどうしても、優香にちゃんと告りたかったんだ」
「恵太……」
「でも、キャンプで自分の気持ちが言えてすっきりした。ちゃんと失恋したから、俺も潔く諦めることが出来たんだ。この間の原宿デートを最後の想い出にするつもりだった……」
恵太は獣耳を付けたまま、私を見て笑った。
私のこと、潔く諦めたんだ。
私はこんなにモヤモヤしているのに。
「いいんだ、俺。お前と友達で。一番の親友でいてくれれば、もうそれでいい」
「ち……違うよ……」
「何が違うんだよ。もう親友にもなれないってか?」
「だから……違うよ」
「ん……?」
「私……わかんないの」
「なにが?」
「だから……恵太のことがわかんないの」
「なんだよ、それ?獣耳付けてるけど、俺は人間。ふんがあー!」
恵太は獣みたいにポーズをとる。
「茶化さないで。私ね……恵太のこと」
「なに?」
「自分の気持ちがよくわからないの。矢吹君のこと、今も大好きだよ。でも……恵太のことも……嫌いじゃない」
そこまで話したら、急に恥ずかしくなった。
もう……ここから先は、口が裂けても言えない。
「ま……マジで?マジで?マジで?」
恵太が兎みたいにピョンピョン飛び跳ねている。
「うわぁ!それ、好きってことだよな?二十年待ってやっと返事をもらえた!」
「二十年待って……?」
何……それ?
初めて告白されたのは、キャンプだったし。二十年も待たせてないよ。
「何だ、忘れたのかよ?俺、幼稚園の入園式の日に『好きだよ』って言ったろ。そしたら、お前、俺に『あっかんべぇー』したんだよ。俺、人生初の告白で木っ端微塵に振られて、すげぇへこんだんだぞ。
あれがトラウマになって、お前に好きだって、言えなくなっちまったんだからな」
「……マジで?」
私……恵太にそんな事したっけ?
幼稚園の記憶なんて、全然……覚えてないよ。
恵太、ずっと私のことを……
好きでいてくれたんだ……。
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