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――ショックだった……。
矢吹君が居なくなった時と、同じくらいショックだった……。
だって……
恵太が引っ越すなんて……
一度も考えた事、なかったし。
物心ついた頃から、ずっと一緒で……
二十年近くも……
ずっと一緒で……。
『幼なじみ』なんて、言葉では言い表せないほど、私達三人の関係は特別で……。
このまま社会人になっても……
結婚しても……
ずっと、一緒なんだって……。
私の傍には……
いつも恵太がいるって……
勝手にそう思っていたから……。
突然居なくなるなんて……
考えた事も、なかったよ。
――涙が溢れてきた……
我慢出来なくて、私は子供みたいにしゃくり上げて泣いた。
恵太は大きな手で、私の頭をクシャっと撫でた。
「ひでぇ顔だなあ。獣耳貸してみろ」
恵太は鼻をグスンと鳴らし、獣耳のカチューシャを自分の頭に付けて、戯けてみせた。口は笑ってるけど、目には涙が浮かんでる。
私、今まで……気付かなかった。
恵太は兄弟みたいな存在だったから……。
矢吹君のことが……
大好きなように……。
恵太のことも……
大好きだってこと……。
二人とも大好きだなんて、私……
おかしいのかな。
「ごめん恵太。私、今日デートなの。先に帰るね」
突然、美子が立ち上がる。
「田中、彼氏が出来たのか?マジでぇ?」
カンジが奇声を発した。
「うん。草野君と付き合ってるの」
「草野って、同じ高校だったあの草野剛!?なんだよぉ、草野と付き合うくらいなら、俺と付き合ってよ」
カンジはガックリと項垂れている。
カンジが美子に恋をしていたなんて、知らなかった。
「ほら、カンジも宏一も用事があるでしょう」
「用事?俺達、チョー暇だけど」
「何言ってるの。ほら、行くよ」
美子の目配せに、カンジが目をキョロキョロさせた。
「あっ……、そーだった。そーだった。俺達、今から合コンなんだ。悪いな、恵太。引っ越しの見送りには必ず来るから。じゃあな」
美子は笑いながら、私にブイサインをした。
どうして……
みんな帰っちゃうの?
美子はカンジと宏一の背中を押し、サッサと部屋を出て行く。
「待ってよ。美子ってば。カンジ……宏一!」
私は獣耳のカチューシャを付けた恵太と、二人きりになった。
妙に気まずい……。
何を話せば……いいの。
今まで恵太を意識したことないのに。
緊張している自分がいる。
トクン、トクン、と、鼓動が速まった……。
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