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チャイムを鳴らすとドアが開き、おばさんが顔を覗かせる。
「優香ちゃん、美子ちゃん、どうしたの?」
「おばさん!引っ越すって本当ですか!」
「本当よ。それでわざわざ来てくれたの?家の中、段ボール箱だらけで捌けてるけど上がってちょうだい。宏一君もカンジ君も来てくれてるのよ」
「お邪魔します!」
美子と私は玄関で靴を脱ぎ、二階に駆け上がる。恵太の部屋に入ると、部屋は足の踏み場もないくらい捌けていて、宏一とカンジが荷造りを手伝っていた。
「どーしたんだよ!優香、ひでぇ恰好だな。なんで獣耳付けてんだよ。まるで、野良猫だな。なぁ、宏一、カンジ」
「あはは、田中が上品なペルシャ猫で、上原は雑種ってか」
私は慌ててカチューシャを外す。
「……っ、カンジや宏一が来てるなんて、知らなかったから。ていうか、カンジ!雑種って、なによ!せめて、三毛猫にして」
「あはは、上原らしいな。お前らも引っ越しの荷造り手伝いに来たのか?」
「荷造りって……。恵太が引っ越すなんて知らなかったから。カンジは聞いてたの?」
「知るわけねーじゃん!ゴールデンウィークに遊びに行こうぜって、LINEしたら引っ越すっていうから、慌てて宏一と来たんだ。コイツ、誰にも言わずに引っ越すつもりだったんだぜ」
恵太が苦笑いしながら、コミックを段ボール箱に詰めていく。
「もういいじゃん。引っ越しの荷造り手伝ってくれる気があるなら、手を動かしてくれよ。猫の手も借りたいくらい忙しいんだからさ。ほら、そこの寝癖がついた三毛猫も!」
「……っ、バカにしてるの」
私は手櫛で髪を整える。
恵太はアルバムを手に取り頬を緩めた。恵太の視線の先には、三月にみんなで行ったキャンプ場での集合写真。
到着した時の集合写真は、みんな楽しそうに笑ってるけど、解散前の集合写真はみんな微妙な顔をしている。楽しそうに笑っているのは、無邪気な子供だけ。
「色々あったけどさ。俺は楽しかったよ。みんなとキャンプに行けたし、大事なこともちゃんと言えたし」
恵太は私の顔を見つめた。
どうして私の方を見てるの。
やだな……。
「写真見る暇あったら、手を動かしなさい」
恵太の視線にカンジが気付き、「ヒュ〜ヒュ〜」と、指笛を鳴らした。
「恵太!あの日、マジで告ったのか?」
「う、うっせぇ。もう忘れちまったよ」
恵太は郵便ポストみたいに、真っ赤になった。
「俺さ、大阪に行くんだ。時々東京に戻ってくっから、そん時はまた俺と遊んで下さい!……以上っ!」
恵太が私達に頭を下げた。
宏一とカンジがパチパチと拍手する。
「恵太、いつでも東京に戻って来いよ」
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