【8】恋に恋して、愛に愛して? 摩訶不思議。

優香side

110

 ――五月三日。


 矢吹君が私の前から姿を消し、その寂しさが癒えないまま数日が経過した。


 かめなしさんはいつものように、私の部屋で居眠りしてる。


 いいな、猫は気楽で。

 生まれ変われるなら、私も猫になりたいな。


 猫耳とふわふわの尻尾が生えたら、今より可愛いかも。


 鏡の前で、去年ハロウィンで使用した獣耳が付いたカチューシャを頭に付ける。


 ていうか……

 失恋のダメージが大きすぎて、笑えないよ。


 こんな時は、恵太のくだらないオヤジギャグや、恵太のくだらないダジャレを聞いて、気分転換するしかないのかな。


 暇人は私と恵太だけなんだから。


 窓を開けボーッと空を眺めていたら、家の前で大きな声がした。


「優香!大変だよ!大変だよ!」


「美子、あれ?今日は水曜日だよ。銀行じゃないの?」


「何寝惚けてるの!今日は祝日だよ!」


「あっ、そっか。毎日祝日だから、わかんなかった」


「もう、優香は呑気なんだから!」


 呑気じゃないよ。

 あれから二つ採用試験受けたけど、撃沈したんだから。


 残るは、あと一つ。

 それに落ちたら、地方で就活しようかなと、本気で考えてる。


 都内で内定もらえる気がしないから。


「美子、上がって」


「うん。お邪魔します!」


 美子はドタドタと二階に駆け上がり、息を切らしている。冷静な美子がこんなに取り乱すなんて、よほどの大事件だ。


「どうしたの?美子?草野君と喧嘩したの?草野君に浮気されたとか?」


「違うよ!優香、知らないの?それとも、知ってて教えてくれなかったの?」


「一体何のこと?」


「もう、焦れったいな。恵太が引っ越すんだよ」


「……えっ?恵太が?やだ、あはは、美子冗談止めてよ。そんなこと恵太から一言も聞いてないし。恵太のおばさんもママも……」


「家のママも知らなかったんだよ。おばさん、恵太から口止めされてたらしいの」


「……嘘だよ」


「恵太の家に一緒に行こう。私、一人じゃ行きづらくて……」


「……う、うん!」


 私は美子と二人で家を飛び出す。

 バッチリメイクで大人っぽい黒ワンピを着ている美子とは異なり、私の髪はボサボサで、ピンクのスウェットの上下にキャラクターのサンダルだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る