106

「父さん、一緒に地球に帰還しましょう。この王国には王族以外の人間はもういない。ヤブキの血を絶やしたくなければ、我らは地球人と結婚するしかないのです」


 国王は口を一文字に結ぶ。

 背後から靴音が響く。


「タカ王子は地球人を浚ってこいとでも申すのか?」


「……ギダ殿下」


 ギダ殿下は俺の兄だ。

 顔立ちや体形は俺とよく似ているが、性格や価値観は異なる。

 

 いずれ国王となられる兄は、幼少期から王位継承者としての教育を受けている。王室の異端児である俺とは正反対の考えを持ち、この王国における人族の地位と名誉を重んじている。


「そのような話を国王陛下に切り出すとは。地球に転移し、地球人に心を奪われたのであろう。この王国にはもはや王族以外の人間はいない。だが、この王国で人族の血を絶やさず、獣族とエルフと上手く共存する方法はある」


「……共存する方法?」


「地球人を浚わずともこの王国で人族が生きる道はある。私が獣族の女性と結婚し、タカ王子がエルフの女性と結婚すればよいのだ」


「バカなことを……」


「それがこの王国を平和で豊かな国にするとは思わないか。地球の国々は核・ミサイル開発を続行し、地球を脅かしている。いずれは核戦争を引き起こしかねない。そのような場所に自ら帰還する必要はない。私もタカ王子もこの王国で生まれたのだからな」


「俺は……エルフと政略結婚はしない。兄さんも望まない結婚など、する必要はありません」


「誰が望まない結婚だと言った。アリシア、ここへ来なさい」


「……はい。ギダ殿下」


「……アリシア?」


 アリシアはナイトの妹で、ギダ殿下のメイドだ……。


 謁見の間に他のメイドと共に控えていたアリシアは、ギダ殿下に呼ばれ歩み寄る。栗色の長い巻き髪からは白い猫耳が飛び出し、メイド服のスカートからはフワフワの白い尻尾が出ている。


 瞳はナイトと同じ茶色。大きな目は愛くるしい。キュートな顔立ちとはミスマッチなナイスバディ。十八歳の美少女だ。


「タカ王子も承知していると思うが、アリシアの先祖は地球人と獣族のハーフだ。アリシアには人族の血が流れている。私達は種族を超え愛しあっている」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る