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『何でいるんだよ』


「……えっ?」


 かめなしさんの視線の先を追うように、窓から外を見つめた。


 車道の反対車線に、白いポルシェが停車している。


 ポルシェの横には、携帯電話を耳に当てた矢吹君が立っていた。


 ――や、矢吹君……?


 嘘っ……!?


 矢吹君が家を見上げた。

 窓越しに視線が重なり、その口元が緩む。


『……もしかして、ばれた?』


 矢吹君の声が、軽く弾んでいる。


 私は部屋を飛び出し、階段をドタドタと駆け降りる。


 玄関のドアを開け放ち、矢吹君の元に一直線に向かった。


 裸足のまま……

 靴も履かず、矢吹君の元に走った……。


 矢吹君は驚いた眼差しで、私を見つめている。


 スローモーションのように……

 矢吹君の腕の中に飛び込んだ……。


 もう涙で、顔はグショグショだ……。


 矢吹君はそんな私を抱き締めたまま、ずっと……笑ってるんだ。


「逢わずに行くつもりだったけど……バレたか……」


「……ひどいよ。ひどいよ」


 私は泣きながら、矢吹君の胸を叩く。


「ごめん。泣くなよ。ひどい顔してる。上原、鼻水」


「う……嘘だぁ」


 思わず鼻の下を手で隠し、ハンカチでゴシゴシ擦る。


「鼻水なんて嘘だよ」


 矢吹君が私を抱き締めたまま爆笑した。


「酷いよ。矢吹君、嘘ばっかり……」


「ごめん。上原の泣き顔じゃなくて、笑顔を見てさよならしたかったから……。でも、また泣かせてしまったね」


 矢吹君が人差し指で、私の涙を拭った……。


 その指が私の頬をゆっくり撫で、顎を持ち上げた……。


「キスしていい?」


 甘い言葉と同時に落ちてきた矢吹君の唇……。


 矢吹君が……


 私に……


 キスをした。


 ここは住宅街。両親は不在だけど、恵太の家も美子の家も近いんだよ……。


 それなのに……

 矢吹君のキスは、今まで交わしたキスの何倍も大人のキスで……。


 矢吹君……ずるいよ……。


 これじゃ……さよなら出来ないよ……。


 矢吹君……行かないでよ……。


 私……もう離れられないよ。



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