95
「私、矢吹君がそんな酷い人には見えなかったもの。矢吹君は真っ直ぐ優香のことだけを見ていた。何か理由があって、ロスに行かなければいけなくなり、優香を悲しませたくなくて、嫌われるためにわざとそんな振る舞いをしたのだとしたら……」
「……嫌われるために?」
「うん。それを知った凪さんやセガ君が、優香に矢吹君の本当の気持ちを伝えに来たんだよ」
「……でも、もう連絡出来ないよ。だってかめなしさんが食べたんだから」
美子はクスリと笑う。
「だからかめなしさんに、冷たく当たってたの?猫に当たっても仕方がないよ。矢吹君が優香と同じ想いなら、きっと連絡してくるはず。優香の携帯電話は変わってないんだから」
「……美子」
美子に話を聞いてもらったことで、胸のモヤモヤが少しだけ晴れた。
もしも……
矢吹君が私と同じ想いなら……。
ロスに旅立つ前に……
きっと連絡してくれると信じて。
――五月一日。美子初出勤。
一ヶ月の研修を終え、セルシアナ銀行新宿支店に配属された美子は、今日から支店で仕事開始。凛としたスーツ姿は、もう誰が見ても立派な社会人。
朝日を浴びてキラキラしている美子を部屋の窓から見送り、パソコンを立ち上げる。
いつまでも、こんなことはしていられない。
私も美子みたいに社会人になって、矢吹君に大人の女性として認めてもらうんだ。
やりたいことが定まらなかった私だけど。
やりたいことが、ひとつだけ見つかった。
これからは色んな職種にエントリーするのではなく、自分が希望する職種に的を絞ってチャレンジすると決めた。
『優香、随分張り切ってるな。就活再開したんだ。女子トークで復活したのか。それとも美子に影響されたのか』
「うん。もうイジイジするのはやめたんだ。私ね、やりたいことが見つかったの。もう迷わない」
『何だよソレ?』
「かめなしさんには、教えないよ」
『ちぇっ、意地悪だな』
机の上に置いた携帯電話が、ブーブーと音を鳴らす。
――ふと、視線を向けると……
そこには……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます