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◇
『二年間も昏睡状態だった彼女が、一人でここまで来れるわけないよ。死んだと思っていたかめなしが戻って、ホッとして庭のベンチで昼寝でもしてたんだろう』
恵太は私の話を信じてはくれない。
「夢じゃないってば。……ていうか、やっぱり夢なのかな?」
『それに彼女が男だったなんて、信じられないし。優香そっくりだったんだぞ。あんな可愛い……っ、いや、どう見ても、あれは女性だった。それに、種族ってなんだよ。アフリカの原住民じゃないんだからさ』
「わかってるよ」
『矢吹のことが忘れられないのはわかるけど。もう忘れた方がいいって』
「そんなんじゃないってば」
『優香、明日暇か?気晴らしに一緒に原宿に行かないか?』
「えっ?」
『どうせ就活もしてないし、暇なんだろう』
「どうせ私は暇ですよーだ。恵太はどうなのよ」
『俺のことはいいから付き合え。ランチくらい奢るからさ』
「奢ってくれるの?しょうがないな。じゃあ、原宿に付き合ってあげる」
『サンキュー。じゃあ、明日な』
恵太との電話を切り、ベッドに寝転がる。
ドアが開き、かめなしさんが入って来た。
『ママが離してくれなくてさ。やっと解放された。優香、待たせたな』
「待ってないし」
『またまた~。照れちゃって。久しぶりに逢ったんだ。再会のキッス……』
かめなしさんが私に飛び付き、唇を近付ける。鼻先がくっつきそうな至近距離だ。
「うわ、わ、セクハラ禁止!それより、かめなしさんに聞きたいことがあるの」
『俺に?』
「涼風凪さんって知ってる?」
『……し、知るわけないだろう』
かめなしさんは明らかに動揺している。
そう言えば……
凪は、ここに来た理由を『猫に導かれて』と、言った。
かめなしさんが帰宅した時間と、凪が現れた時間はほぼ同じ時間帯だった。
「……種族って、なに?」
『しゅぞく?なんだそれ?
そうだよね。
人間の姿をしていても、かめなしさんは猫なんだから。知能は猫だ。難しいことがわかるはずはない。
『優香……そんなことより、キスしよ』
「きゃあっ……」
チュッと奪われた唇……。
トクンと鼓動が飛び跳ねる。
「バカー!もう知らない」
かめなしさんは猫なのに。
向きになる私は、おかしいのかな。
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