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『ねぇ、それ誰の墓?誰か死んだのか?優香、何、泣いてんだよ?』


「えっ……?」


 聞き覚えのある声がした。


 振り向くと庭先にかめなしさんが立っていた。


「きゃあー!ゆ、幽霊!?南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」


 私は両手を合わせて必死で拝む。


『誰が幽霊なんだよ。ちゃんと長い足が付いてんだろ。白いスーツはワケあって汚れてしまったけど。見ての通り俺は生きてるよ』


 かめなしさんが……

 生きている……!?


 ガタンと室内で大きな音がした。

 ワナワナと震えながら、母がこちらを見つめている。


「か、か、か、かめちゃーん!」


 リビングから裸足のまま飛び出した母が、薄汚れたかめなしさんを抱き上げた。


 私には、まだかめなしさんは人間にしか見えない。母はかめなしさんをお姫様だっこし、ボロボロと涙を溢している。


「よかった……よかった……。かめちゃん、生きてたのね。今まで何処に行ってたのよ。心配したんだからね」


 薄汚いかめなしさんに、頬擦りしながら、わんわん泣いているんだ。


 一体、何処に行ってたの?


 私の、あの涙は……何だったの?


 かめなしさんは反省した様子もなく、母に抱っこされヘラヘラ笑っている。


『ママ、くすぐったいよ。あはは、どうしちゃったんだよ。やだな~』


 笑っているかめなしさんを見ていたら、無性に腹がたってきた。


 勝手にプチ家出して、散々家族に心配させて、どうして笑っていられるのよ。


「かめなし!何処行ってたのよ!」


『俺……優香に嫌われて。もう、この家にいられないと思ったんだ。駅前まで歩いて行ったら、親子連れが俺を抱き上げて「可愛いから飼っちゃおう」って、強引に車に乗せられて、親子が立ち寄ったスーパーで逃げ出したけど、右も左もわかんなくて、迷子になったんだよ。途中で雨降るし、水溜まりに嵌まったり散々だよ』


「それで……そんなに汚いの?」


『まあな。しょーがないだろ』


 家出をしたことを、完全に開き直ってる。簡単に知らない人の車に乗るからだ。大人なのにそんなこともわかんないのかな?幼稚園児でも知ってるよ。

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