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 恵太と二人で、庭に置いたベンチに腰掛け、かめなしさんが仔猫だった頃を思い出す。


 恵太の頭にもう包帯は巻かれていない。

 後頭部には傷を治療するために髪を切ったため、小さなハゲが出来ている。


「……ハゲ」


「うっさい。あのな、優香。俺、この間彼女の病室に行ったんだ」


 彼女の話はもう聞きたくない。

 でも……病状は気になる。


「でもいなかった。看護師さんに聞いたら、彼女の回復力は二年間も昏睡状態だったとは思えないほどだったらしい。四月四日の深夜、彼女は忽然と消えたそうだ」


「……消えた?」


「看護師さんが心配し、矢吹に連絡したそうだが、矢吹にも連絡がつかなかったらしい」


「二年間も昏睡状態だったんだよ。自力で歩いて病室を出たとは思えないよ。まさか……矢吹君が……?」


 恵太はコクンと頷いた。


「矢吹が連れ出したのかもしれない。ベッドの上には入院費が置かれていたそうだ。あのな、優香に話さないといけないことがあるんだ。俺、優香に……嘘をついていた」


「……嘘?」


「俺が先に矢吹を殴ったんだ。矢吹はもうお前とは戦わないと言った。俺の将来に傷を付けたくないと言ったんだ」


「……恵太の将来?」


「矢吹はわざと俺を殴ったんだ。看護師が俺を警察に通報すると思ったから、わざと俺を殴り自分が加害者になった……」


「……そんな」


「矢吹は彼女と一緒に日本を離れると言っていた」


「……日本を離れる?」


「ロスに戻らなければならなくなったらしい。優香を傷付けたことを謝っていた。俺に優香のことを幸せにしてくれって」


「矢吹君が……そんなことを?」


「俺は卑怯な男だよ。矢吹はきっと優香のことが好きなんだ」


「いい加減なこと言わないで。彼女は矢吹君の恋人なんだよ。私……矢吹君のことはもう忘れたいの」


 思わず両手で耳を塞ぐ。


 恵太は私に頭を下げ、「……ごめん」って呟いた。


「もう帰るよ」


 夕日に照らされた恵太の影がだんだん遠ざかれる。


 ポツンと残された私は、もう一度かめなしさんのお墓に手を合わせた。


 恵太に乱された心を……

 鎮めるために…………。

 

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